最近、気になる奴がいる。
髪型が特徴的で、肩につかないようなおかっぱかと思えば、後ろに長い短い房がのびていたり。
さんぽ部とかいう部員の一人で、身長が怖いほどに高い。私よりは低いが。
最近、気になっている。
※
「あなた、は」
そいつの声が近くで聞こえたから、振り返ってしまう。
すこしでも近くで、その姿が見たい。
自分から話しかける話題など、私にはなかった。
つまりは、話しかける勇気がなかったのだ。
「え」
振り返った私は、目の前にその目標がいることに気づいた。
私は目を見開いた。
長瀬楓――やつは、目の前で例の糸目でこちらを見ていた。
「あなたの名前は、なんて読むでござるか?」
どこから見ても、それは、私に向かって発せられた言葉だった。
「た、」
声が上ずりそうだった。
「たつみや……」
半ば放心状態だった。
そんな私には気もくれず、そいつは言う。
「なんだ、そうなんでござるか。てっきり『りゅうぐう』だと……」
「りゅ、りゅうぐう……?」
「そうでござる。読めるでござろう?」
少し言葉を失ってしまった。
こいつがおっとりしていて、頭は悪くて、語尾に『ござる』を付けることは分かっていたが、
まさかここまでバカだとは……。
「読めるが……そんな苗字は早々ないと思うぞ……」
少し緊張がほぐれてきた。
しかし、今でも信じられない。
長瀬が、長瀬楓が、私に向かって喋りかけている。
これほど幸せなことがあるだろうか。
「この前、早乙女殿に貸してもらったマンガにいたでござるよ!」
「そうなのか……?」
「竜宮レ○っていう……」
「マジか」
そんな、何気ない言葉の交差。
それが幸せで。
「真名って呼んで、いいでござるか?」
「あ、え」
「いやでござるか??」
普段からこうなのかもしれない。
腰を屈めて、首を少し傾ける。
それが可愛くてしかたない。
「い、」
本音を口に、今。
「嫌ではない」
「あ。そうでござるか!!」
不安そうな顔から一転、笑顔に変わってにこにこと笑う。
私はそんな彼女を初めて見た。
その笑顔が、私のものだけであればいい。
でも今は、そんなことは望まないので。
せめて、
「私も、名前で呼んでもいいだろうか」
このくらいは、
いつか、私のものにしてみせるから、
「愛している」と、体を触ったとしても
君に喜んで貰える、そんな立場になりたい。
「大好き」
はまだ早いので、
「よろしく」
今のところは、こんなものでいいかな。
(不器用な私)
End
最終更新:2007年06月29日 23:09