あの写真
物の管理は大切にしなくてはならない。
それは時として、取り返しのつかない大失態に繋がる時がある。
「まずい! これはまずい!」
自室で真名は声を荒々しくさせてある物を探していた。
そこへ楓も部屋を尋ねてきた。
「どうしたでござるか?」
何の事情も知らない楓は真名の慌てぶりに物珍しさを感じた。
「それ所じゃない! 処分しようとしていた“あの写真”がなくなったんだ!!」
楓に詰め寄ると真名はそう告げた。
真名の真剣さと焦りから、徐々に顔が強張る楓。
「………もしや、“あの写真”でござるか?」
恐る恐る聞く楓の答えに、真名は無言で頷いた。
次の瞬間、楓も大慌てで部屋に詰まれた荷物をひっくり返しながらその写真を探した。
「本当にここでござるなぁぁぁ!!」
「ここで間違いないはずだ!」
部屋の荷物を片っ端から床にぶちまけ、ありとあらゆる場所を虱潰しに探す真名と楓。
それほどとんでもない内容の写真のようだ。
次第に疲れてきた真名に楓が胸倉を掴んで怒鳴った。
「だから処分は拙者に任せろと言ったでござる! 拙者を殺す気でござるかぁぁぁ!!」
「仕方ないだろ! なくしたものはなくしたんだ!」
怒りのあまり怒鳴り返してしまう真名もかなり涙目に近い。
“あの写真”が表に出れば、確実に社会の笑いものか赤っ恥ものだ。
それからしばらく部屋をさらに探して見たが、結局写真は見つからず。
完全に諦めてしまった楓は大の字になって寝転がる。
「もー諦めたでござる。煮るなり焼くなり好きにしろでござるー」
真名も疲れきってその場に座り込んでしまった。
「すまん。私のミスだ」
「真名…」
顔を半分抑えた真名の目は潤んでいた。
自分の不注意のせいで楓にまで多大な迷惑を蒙ってしまったのだ。
何も感じないわけが無い。
「……真名、もういいでござる。もしもの時は、拙者と一緒に山奥で暮らそう」
「楓」
あれだけいがみ合いながら部屋を探していた二人はそっと抱き合った。
二人ならどこに逃げようが怖くない。二人でひっそりと生きようとしていた。
そう思った瞬間。
「あれー。何この写真」
開きっぱなしの窓から声が聞こえた。どうやら朝倉和美のようだ。
朝倉は落ちていた写真を披露と驚愕する。
「こ、こ、これは! すごいスクープ拾っちゃった! どうしよ、公表していいのかな?」
朝倉も“あの写真”の内容に絶句し、記事として出していいのか本気で迷った。
するといきなり自分の後ろから何かが飛び降りてきたような音がした。
「へ?」
背の高い二人の人物は、真名の部屋から朝倉の居る場所まで飛び降りてきた。
全身白装束にマスクとサングラスという異様な格好で身を隠して。
「ディスイズ ア トップシークレット!」
発音もかなりベタな英語でまくし立てると。
手にしたロープや手錠を片手に朝倉に襲い掛かった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その後、朝倉和美は“あの写真”に関するすべての記憶を全身打撲という形で失った。
楓と真名。二人が強固に隠そうとする“あの写真”。
それが何なのかは、今だ謎に包まれたまま……。
つづく
最終更新:2007年10月28日 01:18