背番号1と2


今日は学年挙げての球技大会。
今年はソフトボールになったらしいのだが、私は正直2年間の球技大会の記憶が無いので多分真面目にやってなかったのだろう。
だから今年も1日怠惰に過ごす事になるだろうと思っていたのだが。



一週間前。
「おい」
声の主は朝倉だった。
「今年ソフトボールだろ、ピッチャーやってくれよ」
「…何で私が投げなきゃいかんのだ、わたしはやる気の欠片も無いぞ」
「仕方ないだろー、ピッチできそうなのお前しかいないんだから…頼むぞー」
言う事だけ言ってさっさと朝倉は消えた。
「全く、何で私がソフトボールなど…」
「真名ー、2-Aのエースらしいでござるな」
楓も急に現れてはいきなり私に言ってきた。
「知らん、私は球技大会に行く気も無い」

…とまでは言ったのだが、ここで思考タイム。
これまで2年間暇を過ごした刹那は神楽坂や近衛の嬢に引き連れられて参加する事になるだろう。
となると私はキャッキャと騒ぐあの応援団もどきとあのサーカスもどきに囲まれておらんといかんのか。

「…楓はやるのか」
「キャッチャーでござるよ」
このあたりで私の中のやる・やらないの天秤が傾き始めたのは言うまでもない。
「どうでござるか、拙者とバッテリー組むのは」
「…悪くないな」
言ってしまった。
「なら行くでござる~♪」
かくして私は2-Aのエースとなるべく投げ込みに励む事になった。いつの間にこんな事になったのかは良く分からんが。

どうやら私の球は素人にしては球威があるらしい。
他のクラスのソフトボール部の連中が偵察に来ている。えらく本格的だ。
「ちゃんと拙者の差し出したミットの辺りに来るでござるし、それなりに投げられそうでござるな」
「そうか、ところで他のポジションはどうなってるんだ」
「双子がセカンドとショートで練習してるでござる、ほら、そこ」
楓が指差す先には2塁ベース上で喧嘩している双子の姿。
「あーもう、何でベースカバー入んないんだよー」
「お姉ちゃんが飛びつけって言ったからですー」
鉄壁には程遠い。まあいいか。所詮遊びの延長だ。

あっという間に一週間が過ぎた。
クラス数が多く総当りは無理なのでリーグ戦+決勝トーナメントだがやっぱり試合が多い。
「良いではないか、拙者とバッテリーを組むのが嫌でござるか」
「そんな訳ないだろう」

マウンドに立った私は何か戦場に立ったときのような気持ちになっていた。
「何だ龍宮、えらく真剣そうじゃないか」
と刹那。
「何かな」
「…お前はどうせ楓とバッテリー組めるからだろう」
「…悪いか」
「別に」

するとプロテクター姿の楓も駆け寄ってくる。
「気楽に投げて良いでござるよ…」
「楓…」
「ところで、キャッチャーは『女房役』とも言うらしいでござるよ」
「……恥ずかしいこと言いやがって…それが言いたかっただけか」
「ニンニン♪」
隣で刹那は固まっていた。

私は結局その後、楓の神懸かり的なリードによって凡打の山を築き3イニング無失点の快投でマウンドを譲った。
「…楽しいな」
「ふふ…笑ってくれた」
「は?」
「真名、学校でずっと憂鬱そうだったでござるから…」
最後の球技大会ぐらい一緒にやって思い出作りたかったでござるし、と言われた。
素直にうれしかった。

球技大会終了後。
「楓…ありがとう」
「何の事でござるか」
「いや…本当に楽しかった」
「じゃあお礼はしてもらわなくてはいけないでござるな」
「分かってるよ…部屋に来い」
「いや…こっちがいいでござる」
大浴場。
「人が多くて無理だろう」
「遅くに入れば大丈夫でござるよ」

結局数時間後私と楓は大浴場へ向かうことになった。

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最終更新:2007年10月28日 01:25