「プリンを作ってみたんだ。
今から部屋に来れるよな?」
返答を聞かずに切られた電話に 長瀬は戸惑う。
声の主は長瀬の恋人、龍宮。
どういった風の吹き回しかと思いつつも、長瀬は龍宮の部屋へと向かった。
差し出されたプリンを長瀬は黙々と食べる。
大き目のボールに入った黄色い洋菓子を、一言も発せずに ひたすら食べていた。
龍宮が長瀬にプリンを作るのは二度目だ。
一度目は長瀬の誕生日の時だったが、それが原因で喧嘩に発展してしまった。
龍宮の作ったプリンを、他の洋菓子店と比べてしまったのが いけなかったらしい。
そんな過去の経験があるため、長瀬は慎重に食した。
ボールの中が空になると、龍宮は長瀬にもたれかかり 感想を求める。
「基本的なプリンで、おいしかったでござるよ」
率直な意見を述べると、龍宮は頬を膨らませ
「結局 有名店には勝てないか」
と 傍にあった長瀬の一束の髪をいじりだす。
「いやいや、向こうは仕事でござるから……。
真名が拙者のために作ってくれたことが、嬉しいでござるよ」
いじけるような仕草の龍宮をなだめると、龍宮は「本当?」という目で見つめる。
仔犬のような瞳の龍宮の頭を撫でてやると、龍宮は少女のような笑みをこぼした。
おかしい。
自分から傍に寄ってくる龍宮も、ふてくされる龍宮も、頭を無防備に撫でさせる龍宮も。
ましては何も無いのに、どうしてプリンを作ったのだろう。
普段と違う龍宮に 長瀬はどうしたかと問うと、龍宮は空を仰いで口を開いた。
「エッチしたい」
「は?」
脈絡のない返事に間抜けな声をもらす長瀬。
そんな長瀬にかまわず 龍宮は恋人の首筋に唇を這わせ、服の中に手を滑り込ませる。
「ちょ、ちょっと待つでござるよ。
今日の真名、本当におかしいでござるよ?
何か薬とか飲まされ・・・・・」
龍宮は慌てる長瀬に口づけすると、そのまま舌を入れ 長瀬の口内を貪った。
「自分でもおかしいと思うんだ。
けど……身体が熱くて……疼いて・・・・・楓が欲しい」
熱でうなされたように紅潮する龍宮の頬に軽くキスをすると、長瀬は身体をゆだねる。
「プリンのお礼でござるな」
そう言う長瀬を龍宮が床へ押し倒す。
もし薬を盛られているのだったら、自分がその熱を鎮めてやれば良いだけだ。
龍宮に甘えられるのも悪くはない。
むしろ こんなにも自分を求める愛しい人を、放っておけるはずがない。
長瀬は考えをまとめ、龍宮が動きやすいように身体をひらいていく。
長瀬のシャツを捲り 豊満な胸を潰しているサラシを無理やり降ろすと、龍宮はそのこぼれる双胸をもてあそぶ。
やさしく撫でているかと思えば、軽く爪を食い込ませ激しく揉んだり、舌先で淡い果実を舐ったりもする。
真っ白な長瀬の肌に バラの花びらを散らしたような印が刻まれるのに、そう時間はかからなかった。
そして花弁が増えるにつれ長瀬の熱も上がり、眼に生理的な涙が溢れてくる。
龍宮はその雫を舐めとり、小さく長瀬を呼ぶ。
何度も交わった身体にその合図が染み込んでいて、長瀬は腰を浮かす。
その隙に龍宮は、長瀬の下着ごとズボンを足から引き抜いた。
「……濡れてる」
まだ閉じている長瀬の下の唇に指を這わし 己の身体の状況を述べると、長瀬は「だって」と抵抗する。
しかし龍宮はその言葉を遮るように脚をもちあげ、長瀬の秘部に舌を落とした。
「ああっっ」
胸への愛撫よりも強い刺激に耐えられず、長瀬の口から悲鳴に近い吐息が漏れる。
龍宮は枯れることを知らない長瀬の下唾をすすり、赤子が乳を求めるように 秘芯をつつき催促する。
「んっ・・・んんっっ・・・・・」
すでに龍宮の舌は長瀬の膣内に進入していて、部屋には水音と喘ぎ声しか聞こえない。
長瀬は早く達したくて無意識に龍宮の頭を抱えると、より深くへと誘うために脚を絡めた。
だが龍宮はそれを解き、長瀬の身体から離れる。
「ま……な?」
登りかけの崖から手を離され虚しく震える身体を抱きつつ、長瀬が半身を起こすと 龍宮は小さくはにかんだ。
そして纏っていた衣を見せ付けるかのように、一枚ずつ剥いでいく。
最後の布を下ろし一糸まとわぬ姿に、長瀬は先ほどの快楽を忘れ ただ美しいと思った。
だがそんな想いもすぐに消えてしまう。
芸術品のような龍宮の裸体に、再び熱が身体を駆巡る。
龍宮は床に座る長瀬の脚の間に身体を割り込ませ、長瀬の手を自身の中心へと導く。
「あっ」
二本の指を飲み込むと、龍宮は歓喜を含む甘い声で鳴いた。
いつもはリードしている龍宮の痴態が 長瀬を夢中にさせる。
長瀬は空いている腕を龍宮の腰に回し前後に拍節をつけた。
龍宮はそのリズムに合わせ踊り、長瀬をさらに魅了していく。
「あっん・・・・・んんっ……ああ!」
震える龍宮の指が長瀬に差し込まれる。
互いの律動を確かめるように相手を本能のままに犯し、一際高い頂点に上り詰めると どちらともなく口付けをかわした。
「……っ・・・・・っはっ……んんんっっっ」
果てた奇声は口内に吸い込まれ、まだ痙攣を続ける身体をいたわる様に抱き合う。
二人の少女は気だるさの中、再び舌を絡めた。
「楓……」
もういっかい。
場所をベットへと移した龍宮が再度恋人を求める。
長瀬は頬を引きつらせたが 龍宮の漆黒の肌に散る行為の残りを目にすると、こんな日があっても良いと思えてしまう。
軽くため息をついた長瀬は、横たわる龍宮に覆いかぶさるのだった。
獣の交尾のような一度目とは違い、身体を一つに溶合わせるように愛事を進める二度目の最中。
それは起こった。
ガタン
寝具の反対側にあるクローゼット内から、怪しい物音がする。
物が落ちた音とは違い、明らかに意識を持って発せられるそれ。
足の間のどちらのモノとも分からない体液を舐め取っていた長瀬は、そちらに視線を向けると「気にするな」と龍宮が先を促す。
そんな普段とは違う龍宮の行動が気にかかり、長瀬は仕方なく龍宮の両腕を後ろに束ね シーツで硬く結んだ。
「楓!」
抵抗する龍宮の額にキスをすると、長瀬はクナイを手にし クローゼットの前に立つ。
いつもは堅く閉じている瞳に“殺気”が宿っている。
クナイを握る手に力を込めると、長瀬は勢いよく扉を開け放った。
「!!!」
珍しく龍宮が料理をしていた。
しかも長瀬の好物のプリンだった。
味見と称して原液を舐めさせられると、体が痺れてうごけない。
意識はあるものの、言うことを聞かない体。
そんな自分を龍宮は縄で縛り、クローゼットの中に押し込む。
しばらくすると 何も知らない長瀬が部屋にやってきた。
そして美味そうに自分が盛られた毒を食べる。
龍宮がなぜこんな事をするのか分からないが、止めなければ。
そう思うものの、やはり体が動かない。
苦い思いを抱きつつ、涙まで流した。
それなのに、どういったことだろう。
同じモノを食べたはずの長瀬は自分と違い、平然としている。
そしてあろうことか、淫事を始めてしまった。
そのうち体が戻り蠢いたら、長瀬がクローゼットを開けた。
戒めの縄を長瀬によって解かれた少女が、一部始終を話す。
「どういうことだ! 龍宮っ!!」
普段からは想像も出来ないくらい発狂する少女。
龍宮と同じ この部屋の主、桜咲 刹那だ。
「本当にどうしたでござるか?」
シーツで縛った龍宮の腕を開放してやると、龍宮は怪訝そうに答える。
「急に楓としたくなったんだ。
それとなく部屋から追い出そうとしたのに、どっかのバカは気づかない。
無性にイラついて、手元にあった薬を盛って 縛ってみた」
淡々と話す龍宮に、桜咲は愛刀をふりかざす。
「き、きさま!
それだけのことで、私に……」
避けようともしない龍宮の代わりに長瀬がクナイで刀身を受け流すと、まあまあとなだめる。
邪魔された桜咲が長瀬に視線をやると、生々しい性痕。
桜咲は先ほどの激しい愛事を思い出し、顔を赤らめた。
「……血の匂いがする」
人事のように長瀬と桜咲を見ていた龍宮が呟くと、長瀬と桜咲は互いの手を見つめた。
手ごたえはなかったが、弾みで傷をつけたかもしれない。
そう思ったが、やはり出血などしていなかった。
しかし龍宮の言ったように、血液の匂いがするのも確か。
どうした事かと長瀬が龍宮を見やると、龍宮の足元に血痕が出来ていた。
「ま、真名!?」
愛液と鮮血が交じり合う淫部を覗くために、長瀬が龍宮の二脚を抱え込む。
激しく求め合った代償か、それとも別の何かなのか。
胸が締め付けられる想いで龍宮の花弁を調べ始める。
桜咲はぎょっとするも、普段と違う龍宮の原因が関わっているかもしれないと 二人を見守る。
一応眼を覆ってみるものの、龍宮の小さな喘ぎで先程の出来事を思い出してしまう。
これ以上は我慢できなくなり、桜咲は長瀬に状況を尋ねた。
「……傷などは無いでござるな」
一通り視診を済ませた長瀬が安堵の息を漏らすと、桜咲もつられてため息をつく。
「本当に何なんだ……」
桜咲が龍宮に視線を向けると、龍宮は力の入らない身体をのそりと起こす。
自分でもどうしたものか分からないようで、瞳をぱちくりさせる。
そして少し考え、桜咲に聞き返した。
「刹那、今日は何日だ?」
「21日だが……それがどうかしたのか?」
桜咲の返答を聞いた龍宮ははっとして、布団をかぶりうずくまった。
「……お前らなら、一晩位どうにかなるだろう?
頼むから一人にしてくれないか?
後始末はしておく。
身体は……なんともない。
自然の理にかなっていて、むしろ好調だ。
その・・・・・すまんな」
布団の中から龍宮がか細い声で呟き、長瀬と桜咲は不安ながらも部屋を後にする。
恋人として、仲間として、原因を明確にしたい。
しかし本人が一人にさせて欲しいというなら、それを一番尊重してやりたかった。
部屋を出た二人は、龍宮の言動について思い返していた。
「急にエッチがしたくなった」
桜咲が頬を染めて言うと、長瀬が首を縦にふり答える。
「それで刹那にイラついて、薬を盛ったでござる」
エッチもいつもより濃厚で……と長瀬が付け加えると、桜咲はさらに顔を赤らめ頷く。
「21日という日付に反応してたな」
「それから しおらしくなって、“自然の理”などと言っていたでござる」
「それに出血」
キーワードを並べていた二人は顔を見合わせる。
「な、あいつ……
そんなくだらない事で!?」
刀を握り締める桜咲をまたしても長瀬が抑えた。
「真名ぁ~
あんまりでござるよ~」
自分も“女”だから分からなくもない。
そう思う長瀬は怒りや呆れを通り越して、虚しくなっていた。
女性の卵子が着床しなかった場合、血液と共に膣を経由して体外に排出される。
それを一般的に『生理』、医学用語では『月経』と言う。
月経の周期は25日~38日で、おおよそ月に一度と考えても良い。
思春期の場合、周期がずれる場合もある。
女性は月経日やその前に、心理的に不安定になる者も少なくない。
イラついたり、甘えたり、しおらしくなったり、我侭になったり。
なかには性欲が高まる者もいる。
周りの者はそれに対し、嫌悪することもあるだろう。
しかし一番辛いのは本人だったりもする。
自分でもよく分からない、もどかしい気持ちを抱くのだから。
だからどうか大目に見て欲しい。
特に恋人は女性の気持ちに立ち、相手を守ってやって欲しい。
夜を明かすために訪れた図書館島で見つけた本に綴られた言葉。
医学書なわりに、やけに女性視点で書かれていた。
そんな本を眺めつつ、長瀬と桜咲は今日一番のため息をつくのだった。
fin
最終更新:2007年10月28日 01:34