「んっ…真名…」

 体育倉庫の薄汚れたマットの上。
 雨の音がやけに大きく聞こえる。ザーではなく、ゴォオという感じだ。
雨はいろいろと面倒で嫌いだ。濡れると身体は冷えるし。気も滅入る…
たたきつけられる雨粒のせいで、灯り取りの窓が白かった。
 石灰と土埃にまみれた匂い。
 マットの上には、すその濡れた制服のスカートが放り出してある。
 私のではなく楓のだ。
 長瀬 楓。
 のほほんとした性格のクラスメイト。
 その楓は、私の下で下半身をさらけだしている。
 下着は右の足首にかろうじてひっかかっている。楓は犬のように這った格好をしていた。
白いつるりとした尻がこちらを向いている。
 私は楓に自分の性器を突っ込んでいた。
 そこは狭くてキツかったが、気持ちよかった。
 飢えた腹を満たすように、ガツガツと私は欲望をむさぼった。
悪くない感触だ。熱くて、熔けそうだ。頭の中が白く焼けていくような。
 楓は目からぽろぽろ涙をこぼしている。
 楓の頬が、マットでひしゃげて潰れていた。
 なんで私は楓のやつを犯しているんだ…?



窓の外を眺めると灰色だった。
私の気分のように、空はどんよりとしていた。
春先の廊下は底冷えがした。
じんわりと冷たい空気が足元からたちのぼってくる。
この時期は厚着をしていいのか、薄着をしていいのか、
ちょうどいいという所が掴みづらくて困る。
 授業の合間の休み時間、ちょっと空気が吸いたくなって出てきたけど、この空模様じゃあんまり気分転換にはならない。
 がらりと窓をあけると、湿っぽいにおいがした。

「あいや~雨降りそうアルね?」

 私のあとを追ってやってきたチャオがそう言った。窓から身を乗り出すようにして、空模様をたしかめている。

「…何か用か?」
 こいつに関わると、ろくな事がない
「いいものがあるネ♪」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべるチャオに私は大きく溜息をついた。

「聞きたいアルか?」
「聞いて欲しいんだろう?」
「ふふふまぁ、そうネ♪」
スッと何処からか小さな小瓶を私の目の前に出す。
「…これは?」

「なんとビックリ!女が男になってしまう薬あるヨ♪まぁ、女にチ○ポが生えるネ♪」
また馬鹿げた発明を…。

「なぜ私にこれを?」
「いやぁいつもお世話になってるお礼あるヨ♪
さすがの龍宮も溜まっているネ?かといって、ここは女子校ネ…」
「…だからって男になって女を犯せというのか?」
「大丈夫ネ♪効果は2時間くらいで切れるし、犯された女はその時の記憶がなくなるネ♪」
…ハァー。そういう問題なのか?
まぁ、確かに溜まってはいるが…

キーンコーンカーンコーン―…

「ま、使うかどうかは任せるアル」
チャイムが鳴ったというのにチャオは教室と正反対の所へ行く
「…サボリか」
私は三度目の溜め息をつく。
まぁ、次の時間は自習だしな
それにしても、女が女を犯すなんて馬鹿げた話だな


(…真名殿)

なぜ…今、あいつの顔が思い浮かんだんだ?

私は小瓶を見上げた。

「どうせ記憶が消えるんだ。楽しまないとな。それに…」

あいつが私で乱れる姿を見てみたい…なぜそう思うかは…わからない

小瓶のふたを開ける、中の紫色の液体を口に含み、飲み込んだ。

「楓、少し相談があるんだが…いいか?」
「む?真名が相談なんて珍しいでござるな?」
「すぐ終わるよ(お前が抵抗しなければ)」
少し驚いた表情を見せた楓が私の手でどんなやらしい顔になるか楽しみで仕方がない
そして私は楓と二人で教室を出た。



「ひあっ…!真名っやめっ」

「やめろって言うわりにはヒクヒクしているぞ?」

「くっ…んやぁ…」

「熱いな、お前の中…溶けそうだ…くっ!」

「――ああぁっ…!ひっ、あっ、――――っ!!」


「すごい雨だな…」
 雷が鳴ってる。
ドンッという落雷の音がするたびに、体育倉庫がビリビリと震えた。

「…結構近いでござるな」

 楓は横になったままだった。
白いやわらかな肌に血と精液がついている。顔は涙と唾液で汚れている。
目を半分伏せてぼんやりとしている様が、やけに大人っぽく見えた。
まるで知らない人間を見ているようだ。
 ポケットをさぐると、ハンカチが入っていたから、楓に渡してやった。

「…ありがとうでござる」

のろのろと身体を起こして、汚れをふいていく。
…痛そうだった。


「…真名」

 楓は私の顔を見た。

「……なんだ?」

 私の視線と楓の視線が絡んだ。
楓は信じられないほど、真っ直ぐな目をしていた。
犯された直後だというのに、怯えも恐れもなかった。
綺麗な目は、凪いだ海みたいに、ただ静かだった。

その瞬間、胸が熱くなった。

「なぜこんなことを…?」

なぜ…か。私にもわからない
どうして他の奴ではなく楓なのか…
この胸の熱さは何なのか…

「真名は、拙者のことが憎くてこういうことを…?」
「いいや」

きっぱりと首を振った。ムカツクとか嫌いならこんな事はしない

「キライで突っ込めるんだったら、他の奴にも突っ込めるさ」

「では、いいでござる」

 楓はいつものように…いや、いつもと少し違って笑った。
 その笑顔には含みや、私への恨み、そういうものがまったく感じられなかった。
 ただ、きれいな笑顔だった。
 あの楓がつくるとは思えないぐらい、きれいな表情だった。

 私は何も言えずに、ぼうっと見とれていた。

「真名、どうしたでござるか?」

 私が呆けている間に、楓は身繕いをすませていた。
 マットから起きあがり、引き違いのドアに手をかけている。

「あ、ああ」
「もう帰る時間でござるよ」

 楓はドアを開けた。
 雨音が凄かった。滝のように雨が降っている。向こうが見えないぐらいだ。
 楓は、私を振り返らずに走っていく。
 ばしゃばしゃと走る音が遠くに消えていく。

 私はぼうっとしたまま、雨の矢の中に消えていく楓の背中を見つめていた。


…あぁ、今頃気づいたよ。
私がお前に抱いている感情に…だが気づいた時には、もう楓はいなかった。
「…効果は2時間か」
腕時計に目をやると、ちょうど2時間たったところだった。

END

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最終更新:2007年10月28日 01:40