「ん…真名ぁっ!!」
「―――――ッ!!」
ドクン……
限界を迎えた私の精が楓の太ももを汚す。楓も絶頂を迎えた。
もう何度目になるかも分からないキスをして、私は力なく楓の上に被さった。
荒い息の私の下で、楓も全身で呼吸している。
だけど、幾ら体を重ねようと、体が満たされても、心が満たされることは無い。
それは私の心の奥で叫ぶ、もう一人の自分だった。

私は、苦しかったんだ。


苦シカッタ? 怖カッタノ間違イダロウ?
……そうだ、私は怖かった。だから、あの人が死んだ時


ソウダ、アレハオ前ノセイデ死ンダンダ
………………

愛スル人ガオ前ノセイデ死ンダ、自分ノ前カラ消エタノダ。
……!!


コノママデハ、楓モ死ンデシマウ。アノ時ノ様ニ、オ前ノセイデ。マタ大切ナモノヲ…
やめろ、やめてくれ……!!


スベテハ、オ前ノセイダ
全て私の……?


ソウ……

私(オ前)の、せい(ダ)だったんだ。



「はぁ、はぁ……楓…」
「んっ……真名」
少しずつ整えられていく呼吸。下から楓が見上げてくる。
熱に浮かされた、その瞳で。いつもなら、またこの瞳に興奮してしまうのに、
今はそうは、ならなかった。心が、冷たかった。
楓は私と共にいるべきではない。
いや、私の方が、楓の傍にいるべきではなかったんだ。
もし、これ以上一緒にいれば、楓を傷つけてしまう可能性がある。
苦しませたくない。そんな思いが、黒く冷たく、私の中で渦巻いていた。

「楓……別れないか……?」



そんな苦しみから解放されたくて、ポンと弾けるように出てきた言葉。
この言葉を言うのに、すさまじい労力を使った気がした。
同時に訪れる、ほんの少しの解放感。
これでやっと、楓が苦しまなくてすむと思った。
だが、

「なぜ……でござるか」
小さな、震えるその声に気づき、楓を見て、
「なぜ、そんなことを言うので…ござるか…?」
驚愕と絶望に見開かれた、その瞳を見て、
心臓が、止まったかと思った。何も、考えられなくなった。

「拙者といるのが、嫌になったで……ござるか…?」
てっきり怒るかと思っていたが楓は辛そうに、悲しそうに……
そんな目で私を見ないでくれ…本当の気持ちでは……
何も言わない私に、楓は問いの言葉を投げかける。

「拙者のこと、嫌いになったで……ござるか…?」
楓が無理に笑顔をつくっているのが分かった。
「……そんなに嫌いでござるか…?」
必死に私の胸に、その顔を押し付けてくる。
その悲痛な声に、私の心臓は太いナイフか針で突き刺されたような、そんな痛みを受ける。
何か言わなければいけないのに、言葉が口からでてこない。


「黙っていては…分からないでござるよ」
そんな私に気づくことはなく、さらに問いかけてくる。
胸が、涙で冷たくなるのが分かる。

「……何故、拙者を抱いたでござるか?」
腕が、震えていた。その腕で楓を抱きしめることもできずに、
ただ楓の問いを聞くことしかできなくて……

「それとも、真名。拙者を……ただの……」

性欲の、処理に使ったのでござるか?

絶望に包まれたその言葉が頭に響いた瞬間、恐ろしいまでの恐怖にかられた。
「違う…………!!」
たまらず、声を出す。震えて、小さな声になったが、胸に顔をつけていた楓には届いた。
「…真名…?」
「……違う、違うんだ……」
胸から顔を離し、楓の瞳が私を覗き込む。
瞳に映った私は、とても情けない顔をしていた。
だけど、今の私は、そこまで気が回せなかった。
「違うんだ……楓……」
まるで壊れたロボットのように、違うとしか言えなくて……震える腕で楓を、抱きしめる。
楓の体は、熱が引いてひんやりとしていた。

「何が……違う…でござるか…?」
胸に押し付けた楓が、苦しそうに声を出す。
慌てて力を緩めると、楓は真っ直ぐ、キッと私の目を見た。

その目はすでに真っ赤で、涙が流れている。
怯んだ私の隙を、こいつは見逃さなかった。

「拙者のことが、嫌いになったのでござろう?
嫌いだから、もう、別れようと言ったのでござろう?」
「違う……」
「拙者のことは、もう愛してない、けど、シたかったから、仕方なく性欲の処理に、使ったのでござろう?」
「!! 違う……!!」
強い、瞳だった。その瞳で私を睨み、冷たく次々と語ってくる。
そんな楓の言葉に、私はバカの一つ覚えみたいに、違うとしか言うことができなくて。
楓は大きく深呼吸して、そして冷たい怒りをあらわにした瞳で、まっすぐ私を睨んだ。

「拙者は、ただ真名の性欲処理に利用されたということでござるな…」
「違う……!!」
「何が違うのでござるか!? 別れようと言ったのは真名の方でござろう!
抱いた後にそんなこと言うのは……そういうことでござろう…!!」
「違うんだ!!」

私がいつまでも違うとしか言わなかった為だろう。
ついに楓は大声を上げてきた。必然か、次第に答える私の声も、大きくなってくる。
「違わないでござるよ…別れようということは、拙者のことが、もう好きでは
ないということでござろぅ…?」
だんだんと楓は力を失ったかのように声が小さくなる

「違うんだ!聞いてくれ!楓!!」
「聞きたくないでござるょ…もう何も聞きたく……」
そう呟いて、楓は私の腕から逃げ出そうとする。
少しでも、今の私から離れようとして。
「………チッ……!!」
「なっ……!!」
私はそんな楓を逃がさないよう、楓の腕を強くつかんで、ベッドに強く押さえつける。
自分の体を被せることによって、暴れる楓を抑えようとする。

「っ!?……は、離すでござるよ……!!」
「楓、聞いてくれ。私は……!」
「いやっ!聞きたくないでござっ……」


「私は……怖かったんだ……」




「聞きたく……え…?」
そこで、ようやく楓の動きが止まった。
目を大きく開けて、ポカンとした表情で私を見る。
言った意味が分かっていないのが、顔にありありと浮かんでいた。
「楓……私は……怖かったんだ」
そうして私は、恥も、何もかも投げ捨て、楓にすべてを話した。
すべてを話し終えた後、また急に恥ずかしくなって、赤くなった顔を楓から背ける。
今の私は、すごく、情けなくて……かっこわるいと思ったからだ。

「では、真名は拙者を傷つけたくなかったから、別れようと?」
「ああ」
「拙者を、嫌いになったからでは、ないのでござるか?」
「当たり前だ。そんなことある訳ないだろ。」
「そう…でござるか」
真っ直ぐ見て言ったのだから、信じたのだろう。
楓はホッと、体から力を抜いた。「よかった」と呟いた。
心から、安堵した表情で。

「楓……」
私もやっと伝えることが出来て安心し、楓を押さえつけていた腕の力を緩めた、その一瞬

バチンッッ!!

一瞬、何が起こったのか分からなかった。
さっきまで目の前の楓を見ていた筈なのに、今見えるのは私の部屋の窓で。
しかし、あまり時間の経たないうちに、左の頬がズキズキと痛み出し……

呆然と、楓の方に顔を戻す。
そこには右手の平を赤くして、また涙を浮かべた目で私を睨む、楓の顔。

「真名のバカ!!」

その楓の言葉で、私はやっと、楓に思いっきり叩かれたということを理解した。

「な、なんだ楓いきなり……」
「確かに、真名は何も言っては、くれないでござる。それが、すごく…苦しいでござるよ。
独りでだけでは、ないのでござるよ?拙者にも頼って欲しいでござる。」
そう話し始める楓に、何か言おうとしたが、黙って聞いてとその目に黙らせられる。

「拙者を…一人にしてほしくないでござる。」
ゆっくりと、私の肩に顔を押し付ける。
迷ったが、私はそっと割れ物を扱うように、楓を抱きしめた。

「……拙者は、真名のものでござるよ?」
楓は優しく、言い聞かすような声でそう呟く。
その言葉に目を見開き、楓の方に顔を向ける。
すると、柔らかな微笑みをした楓と目が合った。

「拙者にとって真名は、本当に大切な人。いや、大切という言葉だけでは、表しきれない
そのくらい、大切で、大好きな人でござるよ。」
ほんわりと、何かが暖かくなっていく。
楓の言葉に、何かがゆっくりと溶けていくのを感じる。
楓が、私の右腕を握る。思いを伝えるように、強く。

「なのに真名は、拙者を傷つけたくないからと、別れるなんて……
拙者の気持ち、一つも分かってくれてないではござらんか。」
「……楓」
私は、骨が軋みそうになるくらい楓の体を抱きしめる。
「楓…すまない」
「もういいでござるよ、真名」
そう言って楓も、私の背に腕を回した。
私はまたバカみたいに、今度はすまない、としか言えなかった。


あれから暫くたって、今、私と楓はキスを交わしている。
最初のときのような貪り奪い合うようなキスじゃない。
お互いの存在を確かめるような、深くて、甘いキス。


「ん、んん……ぁ」
舌を絡めて、甘く吸って、自分の唾液を送りこむ。
首筋にまた新たに自分の印をつけ、舌の先で赤く熟れた乳首を転がす。
楓はその一つ一つに反応を返してきて、それが、またたまらなく愛しい。
「楓……」
私は楓の股を開き、指を楓の中へと宛がう。
楓は大きく目を見開いたけど、いいかと聞いた次の瞬間ふっと笑い、

「来て欲しいでござる。真名」
頬を赤く染めて、ほんの少しだけ自分から股を開き、私を誘った。
その響きに、また体が熱くなっていく。

くちゅっ……

ゆっくりと、楓の中に指を入れる。
入った途端、まるで待ちわびていたかのように、楓の内壁が指に絡みついてくる。
さっきシたばかりだからか、楓の顔にも苦痛の表情は浮かんでいない。
ただ私のものを受け入れて、快感に打ち震えているようにしか見えない。

「んっ…真名ぁ…」
中は熱くて、キツくて……思わず暴走しそうになるのを抑える。
ここで抑えなければ、さっきの二の舞。
また楓を傷つけることになりかねないからだ。

「…楓、大丈夫か?」
私の声に、楓は力なく頷いた。

体中をほんのりと桃色に染めてぴくり、ぴくりと体を震わせながら、
甘く蕩けていくような呼吸を繰り返す。
そんな楓に、心はどんどん激情で溢れていく。
楓も感じているのだと思うと、嬉しく感じる。

「楓……」
乳首をクリクリと弄りながら、楓の反応を楽しむ
すると、喘いでいた楓が突然、
「真名っ…」
と自分の名前を呼んできた
「どうした楓?」

「はぁ……真名のこと、大好きでござる。だから……あ、やぁっ」
ある程度呼吸を整えたのか、楓が喋りだす。
大好きという言葉に反応して、私の指がピクリと動く。
それに連動して楓の言葉が一旦止まる。が、何とか持ち直して話を続ける。



「だから……真名に、拙者の、お願いを、聞いてほしいでござる……」


必死に、理性をかき集める。
今、楓は上目使いで私を見上げている。
ただでさえ可愛いのに、そこでお願いときたら可愛くてたまらなくて……凄いスピードで、
理性が削ぎ落とされていく。確実に、追い詰められている。
それを表に出さないように必死だった。
そんな私のことなど露知らず、楓は静かに願いを告げた。

「ずっと、傍にいてほしいでござる」

まるで、時が止まったようだった。
少なくとも私は、今焦っていたことすべてを、その言葉で忘れてしまっていた。
しかし、それもほんの少しの間で。

「拙者を、隣にいさせてほしいでござる。……ずっと一緒に」
そこまで言って、私の左の頬にそっと触れる。
そこはほんのりと熱くなっていて、申し訳ないでござると、
見ているこっちが痛くなりそうな顔で謝ってくる。
でも、その表情も何かを含んだ呼吸でかき消して。
優しく、愛おしそうに、眉を下げて微笑んで、

「真名を、愛しているでござる」



こんな状態で、顔を赤らめて、告白なんてされると…はぁ~天然なのか狙っているのか…
どっちにしろ楓には、かなわないな。

「楓、もう動かしていいか?そろそろ我慢できないんだが…」
楓は私の鼻に小さくキスをしてきた。
しょ~がないでござるな~真名は。
そう言って笑う楓に何かの余裕が感じられて、ちょっと気に入らない。
だけど、それも次の瞬間には、笑みに変わる。
私は一度入り口付近まで指を引き抜き、勢いよく奥へと突き刺した。

「あぁっ…!」
奥で、円を描くように内壁をえぐる。楓、その余裕、いつまで続くのかな?
「んぁっ…あっま…なぁ」
狭く蠢き、絡み付いてくる楓のナカ。そんなナカを私は激しく抜き差しする。
抜けるか抜けないかという所まで引き抜き、楓の感じるところをピンポイントに突き刺す。
グチュグチュと湿った音が響く。その音が、私達をさらに燃え上げていく。

「……楓」
「あああっ!!ぁ……まなっ…あぁっ!」
うっすらと開かれた楓の瞳は、快楽で染まっている。
その瞳に映る、私の目も。たまらずに、楓の唇に噛み付くようなキスをする。
唾液に濡れた互いの舌が絡み合い、楓の口から溢れた唾液が流れていく。

「ふっ…んぁぁ、はぁっ」
快楽に染まる瞳。喘ぐ声。柔らかな唇。小さな赤い舌。細い首。
淡く染まる肌。熟れた乳首。震え、捩る体。そして、熱いナカ。
そのすべてが私を熱くする。私にとっては、今楓が見せてくれている仕草が、
すべて私の快楽へと繋がっていく。

「楓……」
ゆっくりと唇を離す

『真名を、愛しているでござる』
今、楓は私の前で、自らその腰を振り始めている。
こうするのも、それを見せるのも、“愛している”私の前だけなんだ。
そう思うと、愛しさが溢れ、激情に流される。
「楓、好きだ。お前のことが、大好きだ」
無意識に出てきたその言葉。それは紛れもなく、私自身の言葉で。
震える楓の瞳が、一瞬、普段の瞳に戻った。
そして嬉しそうに微笑む。

「あっやぁっ!真名、好きぃっ……!」
「好きだ……楓」
互いに快楽に溺れ、その中でもお互いに、同じ気持ちを共有しあって。
もう、限界だった。

私は楓の最奥に突き刺した
「もうっ…やあぁっ!!
限界に達した楓が、私の腕の中に倒れこむ
楓の顔を見るとスースーと寝息をたてていた


楓を嫌いになるのは、一生無理だろうな……
「おやすみ、楓」
そう呟いて、伝わる楓の鼓動を感じながら、私は深い眠りについた。
ちょっと震えている楓をキュッと、抱きしめて。

今夜は、幸せな夢が、見れるといいな……

END

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最終更新:2007年11月27日 15:49