運命
ガンパウダーとニトロのお話。
ループオフの状態で落とし穴に突き落とされたガンパウダーは今日も独りだった。
今日は雲の浮かんだ綺麗な晴天。
心地のよいおいしい空気に包まれ、ブロックの独り座り込むガンパウダー。
空気はおいしくても、人と人の間に広がる空気は全くおいしくない。
皆、俺に近づいてくれない。
近づくどころか、振り向くことさえない。
これが、俺の『運命』なのか。
ガンパウダー「・・・」
「・・・どうしたんだ。そんなに下ばかり見てて」
声をかけてくれたのは、ウッド(木)だった。
ガンパウダー「・・・」
ウッド「・・・なんだよ。喋りかけてるのに、無視はひどくないか」
そう言ってウッドは俺の隣に座る。
…見て分からないか。
俺はただ下を向いてるんじゃない。まるで自分自身を見つめている感じだ。
ウッド「なあ、まだ引きずってんのか?ニトロのこと」
ガンパウダー「・・・引きずってるんじゃねえよ」
ウッド「じゃあ、どうしたんだ?」
ガンパウダー「・・・」
答えられない。
事を口にするだけで、すごく耐えられない気持ちになる。
自分から言うことができなくて、相手から気づいてくれるのを待っている。
俺は本当に情けないやつだ。
ウッド「そんなにさ、全部自分がどうこうとか、あんまり深く考えるのはやめな。
考え込んじまうと、忘れることができなくなっちまうだろ」
ガンパウダー「・・・」
ウッド「・・・それでも忘れられないか?」
ガンパウダー「・・・」
こいつはまだ分からない。
俺が、今こんなに深刻な状態なのに、そんな簡単に忘れられると思うか。
ウッド「・・・もうさ、ニトロに抜かれちまったのは、それはもう誰もが知ってる事実だ。
そうなっちまったなら、なっちまったってことで終わり。それでいいじゃんか」
ガンパウダー「・・・」
ガンパウダー「なっちまった、だけならいいさ」
ウッド「・・・?」
ガンパウダー「そうなってから、周りのやつの俺に対する視線が変なんだ。
ニトロが人気になっただけで、俺は放っておけばいいのに」
ウッド「・・・」
ガンパウダー「今日、後ろからボムを投げられて、体が削れた。まあ、いくらでも再生できるから
いいけどな」
ウッド「・・・」
ガンパウダー「前まで親しかったパウダーに、『邪魔なんだよ、通れねえだろクズ』って言われたよ」
ウッド「・・・」
ガンパウダー「俺は、ニトロを恨んでるわけじゃない。ニトロが生まれてから、周りの様子が
明らかに変わってる。そして俺は、こうやってずっと独りだろ?」
ウッド「・・・」
ガンパウダー「簡単に忘れられることじゃねえんだよ」
ウッド「・・・」
ウッド「・・・そうか・・・そうだよな・・・」
嫉妬じゃない。
ただ、ニトロが生まれたことで、俺の存在まで変化してしまったのが憎い。
なんでこんなことになったのかが、全く分からない。分かる者もいない。
それから少しすると、ニトロがやってきた。
ニトロ「お、ウッド、ガンパウダーと話をしてたのか」
ウッド「おう、ニトロ。こいつ、やっぱクヨクヨしてんだよ」
ニトロ「そっかー・・・よっ、ガンパウダー」
ガンパウダー「・・・」
何でこいつは・・・こんなに平気なんだ。
腹が立つ。
こいつは全く悪くないのに、ものすごく腹が立ってくる。
でも、今日はよく声をかけられるな。
ニトロ「まだ、俺のことで悩んでるのか?」
ガンパウダー「・・・」
お前じゃない・・・お前じゃないんだ・・・
ニトロ「・・・」
ガンパウダー「・・・」
するとニトロは、こんなことを言い出した。
ニトロ「俺はなあ」
ガンパウダー「・・・」
ニトロ「俺がこうして人気になれたのは、ガンパウダー、お前のおかげだと思ってる」
ガンパウダー「・・・?」
ニトロ「だってさ・・・もし、お前がいなかったら俺の立場はどうだ?」
ガンパウダー「・・・」
ニトロ「ただの『爆発物』役だろ?」
ガンパウダー「・・・」
ニトロ「でも、お前がいてくれることによって、『ガンパウダーと比べたらこっちの方が面白い』
って比較されて、それで初めて俺が人気になったんだ」
ガンパウダー「・・・」
ニトロ「だから、お前がいてくれたから、俺が今人気になってる。それはすごく感謝してるさ」
ガンパウダー「・・・」
ニトロ「別に、俺自身は、自分の才能がすごいとは思わないけどな」
…本当なのか。
こいつは、俺に感謝している。
俺がいることで、ニトロと比較され、それで人気になった・・・
これは本当に、俺のおかげと言っていいのだろうか?
人にこんなことを言われたのは初めてだ。
まだ、それでいいのか、信じられなかった。
ニトロ「俺が人気になって、お前が汚されるのは・・・それは、周りのやつの心がまだちょっと
子供なんだろうな」
ガンパウダー「・・・」
俺がいなくても、こいつは人気だったんじゃないか。
どうしてもそう考えてしまう。
でも・・・
こいつは、俺にそう言ってくれた。
だから・・・
ニトロ「・・・じゃ、俺プレさんに呼ばれてるから。行くからな」
ガンパウダー「・・・」
そう言ってニトロは去っていった。
ウッド「・・・よかったじゃんか。ガンパウダー」
ガンパウダー「・・・」
ウッド「俺も、ニトロがいることでお前が汚されてるのに、お前がニトロを恨まないところは偉いと思うぞ。
じゃ、俺も行くからな」
ウッドもニトロの後を追うように走って去って行った。
ガンパウダー「・・・」
俺がいることで・・・今のニトロがいる。
毎日毎日、他の粉のやつらにいじめられ、穴に突き落とされるような日々だった。
それが俺の運命だったのかは分からないが・・・
俺が、自分を責める理由などないということ。
それだけは、今のあいつとの会話を通して分かる。
ガンパウダー「・・・」
俺は空を見上げてみる。
さっきまで浮かんでいた雲が消え、さっきよりも綺麗な晴天だった。
よければ感想お願いします
- すごいですね 感動しました~ -- た~つ (2011-01-28 17:32:57)
最終更新:2011年01月28日 17:32