第二話「不可解な殺害」02
「探偵」は、悩んでいた。
ただ使用人を殺すだけならば、他の人物を殺す必要はない。
特に、ウィンだ。「使用人たちに知られてはならない秘密が犯人にはあった」のなら、「知ってしまった」のであろう姉妹と、仲がよかったベクを殺すのはわかる。
しかし、ウィンだけは話が違った。確かに、「他に言いふらした」のが犯人に不都合だったのかもしれない。ならば、ウィンが動く前に殺してしまえばよかったのではないか。
犯人は、「探偵」にウィンの死を見せたかったのでは。そう考えて、ブレイブはその考えを一旦捨てる。
動機と一切関係がないように見えたからだ。すこし意識の隅に追いやって、今の状況を整理する。
はじめに殺されたのはティアとセリオ。死因は毒。食事に含まれていたようだ。
次に殺されたのは、ブレイブらが到着してすぐ。ウィンが、焼かれて死んだ。すでに機体は原型をとどめていない。
そして、ベクが殺された。おそらくウィンの死とほぼ同時刻に死んだ。死因は毒。近くには淹れたての紅茶と、その中には毒物が含まれていた。
すぐに浮かんでくる疑問点。それは、なぜベクが殺されたのか、というところ。
そもそもウィンを焼き殺したのなら、同時刻に紅茶に毒を入れることはできない。ということは、間接的に料理に毒を仕込ませる「何か」があったのだ。
いや、ウィンのほうを間接的に焼き殺した可能性もある。なんにせよ、何かの仕掛けが・・・
そこまで考えて、ブレイブはふと気づいたように口を開いた。
ブレイブ「一度厨房に戻ろう。話がある」
コスモ「何か、わかったのかい」
ブレイブ「お前も何か出てきたようだな。先を急ごう。"被害者が増える前に"」
厨房には、まるで何かに取りつかれたかのように歩き回るアルフの姿があった。
そして、棚を空けて、「それ」が入った壷を取り出し、茶菓子の生地に含ませようとしていた・・・が、
すんでのところでブレイブに止められた。静止が入ったのだ。
ブレイブ「やめておけ。その砂糖には、毒が入ってる」
アルフ「はい」
コスモ「どうやら・・・様子がおかしい。少し連れて行って休ませよう」
ブレイブ「・・・ああ、そうだな」
そもそもロボに食事の概念が入ったのは、ほんの数世紀前だった。
ジアス細胞をまとった機体が、自分の惑星から持ってきたというのが、豆を加工して作られたらしい「チョコレート」。
そこから一気に菓子・飲料・そして食料全般へと広まった。
そしてそれは時に殺害の道具になることもあった。・・・今回のように。
今までオイルしか口にしたことのなかった惑星の住民たちは、チョコレートを口にして、世の中にはこんなに甘いものがあるのか、と呟いたそうだ。
しかし、「それら」にアレルギー性を持つロボもいた。
彼らは、「それ」---たとえば、パンのような小麦製品であったり---を口にすると、たちまち発作を起こし、最後には修理不能の状態、つまり「死」に至る。
それを恐れ、当時の住民は安全性を調べるため、軍がすべての機体にアレルギー修正パッチを当てた。
しかし、修正パッチで修正できない毒物も、その中にはあった。
まるで砂糖のような白さをもつ「これ」も、その一つなのだ。
しかし戦争で軍は瓦解した。このようなものを修正できるほど拡散力のある機体はいない。
そうして、毒物は野放しにされて、事件を引き起こした。
その悲劇は、いまや全ての家庭が同様に受ける可能性のある悲劇へと発展していた。
アルフ「・・・」
コスモ「アルフさんを調べてみたが、どうやら記憶修正チップが使われている痕跡だ」
ブレイブ「使用者は?」
コスモ「わからない。だが、この家のものであることは確かだ」
ブレイブ「疑わしいのはアヤカかな。唯一メカニックの技術がある」
コスモ「『生きている中では』だね。正確にはウィン氏もだ」
ブレイブ「ああ、そうだったか」
コスモ「まあ、アヤカさんの所へ行ってみよう。話はそれからだ」
アヤカ「・・・はい」
ブレイブ「君が、やったのか?」
アヤカ「多分、そうだと思います」
コスモ「多分・・・?それは、どういうことだい?」
アヤカ「わかりません。ただ私は、機械的に仕事をこなしていただけ」
ブレイブ「・・・おいコスモ、ちょっと来い」
この世界には、感情を持つ機体と、そうでない機体がある。
感情を持つ機体は、いわゆる「光の民」の末裔から進化してできた、今の一般的な機体。
そうでない機体は、「今の機体」が作ったAI、人工知能のようなものだ。
通称、『RAI』・・・レイ、そう呼ばれている。
RAIは軍によって規制を受けた。感情を持たない完璧な機体は、食料のそれよりも悪事に利用されたからだ。
ほぼ完璧に規制を受けたはずだ。だが、アヤカはどう見ても、RAIだ。
機械的に過ごし、感情を持たない。おそらくは、メカニックとして雇われたのではない。「何か」に使われている・・・。
ブレイブ「・・・アヤカはかかわっていると見て間違いない。何かわかるか」
コスモ「僕には情報を提供するしかできそうにない。僕の推理力が足りないんじゃなくて、とてもじゃないが僕の口から発表できるような真実ではなさそうだ」
ブレイブ「仮にも軍のトップだったお前がRAIを野放しにしていたことになるからな。俺もそれでトラブルになるってのは避けたい」
コスモ「・・・ウィン氏は、大金持ちだよ。富豪だ。それがヒント、というかほぼ答えだ。そうだろ?」
ブレイブ「ああ。さぁ、"謎"を解き明かそう」
(つづく
最終更新:2012年09月29日 23:38