「ここにもない」
いくつの次元をたどってきただろう。
元の世界に帰るための鍵と扉を探しているが、何の手がかりも見つからない。
「もう・・・」
俺の精神は限界を迎えていた。
透明な空を見上げながら、その足を動かすのをやめた。
「ここで・・・」
極限状態で俺の頭に浮かんだものは・・・元の世界の日常だった。
「あそこで融合が引けていたら・・・俺が勝っていたんだろうか」
「いや、あいつのことだ。俺の戦術の上をいくとんでもない運を味方につけるんだろうな」
「俺は・・・あいつに勝てない・・・」
沈黙は俺を饒舌にした。
「今までに俺の言葉をこれほど長く聞いた者はいただろうか」
「誰もが俺の存在をぞんざいに扱い、いないものとして接してきた」
「今とそう変わらないな」
久々に笑った。
笑い声は静かに空へと吸い込まれていった。
ユベル「12の次元を融合し統一世界を生み出す」
ユベル「そこで君と二人だけで暮らすんだ」
ユベル「いいだろう?ジュウダイ」
なんだこのヴィジョンは?
空に浮かぶように現れた映像には怪物とあと一人、見慣れた男が映し出されていた。
「あいつは・・・ジュウダイ!!どこかの次元で戦っているのか」
「おそらくこの次元は他の次元を映し出すことがあるんだろう」
あとからわかったことだが、どこの何が見えるのかには俺の精神が強く作用しているようだった。
「次元の統一か・・」
次元が統一されるということは、俺の元いた世界も消えるということだ。
正直、今の俺にはどうでもよかった。
元の世界に戻ろうとはしていたが、思い返せば俺の居場所はどこにもなかった。
ほかの次元にも俺を必要とした誰かはいなかった。
(名誉のために言っておくが、大事な女性はいたんだ)
(しかしこのときの俺の精神は異常だったのだろう)
「こんな世界消えてしまえばいいんだ」
ジュダイ「俺とユベルを超融合」
「余計なことを・・・」
世界は救われた。
「どうしていつもこうなんだ」
あいつによって救われた。
「俺は誰にも必要とされないんだ」
たった一人残された世界で声もなく泣いた。
しばらく、空を見つめる日が続いた。
ぺガサス「トムの勝ちでーす」
「はいはいチート乙」
下っ端「これがDホイールの最終形態だ!!」
「俺が考えたやつと違う」
アストラル「遠く離れた二つの魂をオーバーレイ!!」
「さっき見た!!」
空を見上げるたびに映る映像は変わった。
そこには必ず正義を胸に戦うものの姿があった。
そしていずれの彼らも強かった。
「俺とはずいぶん差があるなぁ」
しばらくして俺はある事実に気づいた。
彼らにあって、俺にないもの。
「・・・主人公」
「俺は彼らに劣る決闘者では決してない」
「だが、主人公でもない」
「だから俺は、こんな場所に一人でいるんだ」
「俺が今から主人公になれる場所はない」
「どの次元にも、どの町にも、主人公たる主人公がいた」
「俺が主人公になるには・・・」
ZONE「私の力で未来を変えましょう。破滅の未来が訪れないように」
「これだ」
次元を自由に行き来できる力。
俺にとっては複製するにたやすい。
この力を使って、存在するすべての主人公を消してやる。
遊戯を、
遊星を、
遊馬を、
数多の主人公を、
そして、
遊城十代を!!
主人公がいなくなった世界に君臨する俺は・・・俺こそが・・・
「主人公だ!!」
...
...
...
三沢は考えた。
テレビのチャンネルを変えるかのように、視る世界を選べないかと。
次元を行き来できる装置の開発は順調に進み、同時に三沢は考えた。
時間軸を中心に展開したアピアランスベースのサーチを行えばもしや・・・
幾ばくか後、次元空間転移装置が完成し、同時に、それは次元選択可視装置でもあった。
任意の空間への移動が可能であり、かつ、この次元から他の次元を選択して視ることができる。
加えて、回数は限られるが、時間跳躍のパラノイヤが可能である。
時間跳躍のパラノイヤ
任意の時代の任意の場所に移動可能。
跳躍には限度があり、設定可能時代座標は三か所まで。
つまり三回だけタイムトラベルが可能。
秀才とうたわれる三沢であってもこの数だけは変えられない。
三度、三沢は考えた。
過去に転移し主人公の意思をつまめば・・・彼は主人公に立ち替わることができるだろうか。
即座に否定する。
主人公とは生まれながらに主人公なのだ。
未来からの干渉にも多分に対応するだろう。
たとえ、生まれたその瞬間だとしても。
その時、空にビジョンが移った。
見慣れぬ姿の三人の男たちが、過去への干渉を行い、歴史の改ざんを目論んでいるようだった。
三沢はしばらく、しかし彼らの企みはとん挫した。
やはり主人公の力ゆえだ。
「主人公に立ち向かった時点で、俺は敵になる」
「しかし主人公を無力化することはできない」
「すなわち・・・俺が主人公に勝つには・・・」
三沢の精神に反応し、新たなビジョンが浮かび上がる。
それは最近起きた遠い昔の物語。
名のなき戦士の物語。
なぜ名前が残っていないのか。
遠い昔の伝承でありながら、シンクロの力が予言されているのはなぜか。
偽物とされ続けたこの書物が語る事実に、三沢は気づいた。
「なるほど、あれは俺が書いたもの・・・いや、俺がこれから描く物語」
次元選択可視装置のチャンネルを古代トロイ朝
アンマライ・レモンド王国に向ける。
長きにわたる繁栄ののち突如歴史から消滅した王国。
玉座に座るその姿は伝承そのままであった。
「やつがシャカイナか。世界の加速を止めるため悠久の時を超え、デュエルの根本を書き換えた」
「名のなき戦士。間違いなく主人公。そして歴史上、
最初の主人公」
「この世に生を受ける前に主人公でなくなれば、その力は失われる!!」
「シャカイナの戦術もすべて伝承のままであるなら俺が負けるはずはない」
「伝承と同じデッキを用意するか・・・」
「6属性をバランスよく組み合わせたこの・・・六部衆をもって」
「俺が、最初の主人公になる!!」
装置の中心に備え付けられた小型モーメントが、急速に回転し始めた...
...
...
...
...
...
...
...
...
...
シャカイナが光の玉となり,男の中へと消えていく。
男の体は黄金色に輝きだした。
しばらくして男の中から恐怖と絶望が消え失せる。
男は立ち上がりデッキを手にする。
「これが俺の”真”の力・・・」
男は前を向いて歩き出す。
自らに科せられた使命を全うするために。
彼の名は「最初の主人公」
シャカイナに変わり誕生した
オリジネイターの一人なのだ。
「・・・いや、オリジネイターにはならなくていいな」
男は胸に手を当て、静かに握りこぶしを作った。
こぶしを開くとそこには赤い玉が光っている。
「これで俺はオリジネイターではなく、最初の主人公になったわけだ」
「始まる・・・主人公の消失が今ここから!!」
男は王城の前に乗り付けた装置の操作を行う。
「楽しみだ・・・俺の世界の始まりだぁぁぁああぁぁ」
...
...
...
せかいはもとのれーるをはしりだしたのか。それともべつのみちがひらかれたのか。あるいはもともとこうなるべくうんめいだったのか。
このときのみさわは、まだなにもしらなかったんだね。
さーて、じかいのみさわくんは?
最終更新:2012年07月14日 07:04