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SS/スレ11/474 - (2006/10/14 (土) 13:07:17) の編集履歴(バックアップ)


月光

暗闇が僅かにふるえる。
雨音のように、風のように、優しく耳をくすぐる。
水中から拾い上げられた石のように目がさめて、
滴る雫のように纏わりつく眠気を振り払い、彼は体をおこした。
耳をすませば懐かしい音色に心うばわれ、
一歩、また一歩、と鈴のような響きに歩みよった。
闇の中花咲き乱る、墓標のそばへ。
あと数歩の所で座った影がふりかえる。

「……ごめんなさい。起こしてしまったかしら」
「いや、いいんだ。それより続き詠ってくれよ」

無限鏡のように笑顔がうつる。
影は小さく肯いて、再び静かな旋律で部屋を満たした。

しばし経って、再び静寂が広がる。

「どうしてこんな時間に大譜歌を詠ってたんだ?」
「……言えないわ」
「……そっか。
 ティアは変わらないな」
「服のこと?」
「……本当に変わらないな」

二人、浮かぶ表情は笑顔のまま月を見上げる。

「……今って、すごく平和だよな」
「ええ……数年前の事を考えられないくらい平和ね」
「きっともう、戦争は起こらないだろうな」
「そうね。預言はもう詠まれないし、
 ピオニー殿下もナタリアも……戦争を起こすには優しすぎる。
 争いのない世界は存在し得ないけれど、
 治安も安定してきているし、きっとしばらくは平和なままだと思うわ」
「うん、それに……おれももう、消えないですむみたいだし」
 たった一言にぴくり、と肩が僅かに跳ねたのを彼は見逃さなかった。
「だからもう、弱くなってもいいんだぜ。
 なにかあってもおれが守るしさ。
 ――あ…いや、守らせてほしいな、なんて」
「ルーク……」
「っおれ、もう寝るよ。おやすみ」
慌てた様子で立ち上がるのを、ティアは服をつかんで制止した。
「――そうやってすぐ逃げる。あなたも変わらないわ。悪いクセが」
「う……ゴメン」
ティアが手を放すとルークはおとなしく座り直した。
「逃げるくらいなら言わないで」
「……ゴメン」
「あなた、一応もう成人なのよ。
 あんなこと言って逃げるなんて無責任じゃないかしら」
「……悪かったよ」
「そんなままじゃ守ってもらうなんて無理ね」
「……もう言わないよ」
「卑屈になるのもやめて頂戴」
散々に責められて、哀しげに俯いたルークの肩に優しく手が触れる。
覗き込むように見つめるのは笑顔。

「私、ずっとあなたを――」



  • いいんでんない? -- 瑠紅 (2006-10-14 13:07:17)
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