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445: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:13:43 艦こ○ 神崎島ネタSS――「御指名」 ――1937(昭和12)年8月20日 帝都東京 本所 「ああ面白かったよ。」 喜色満面で笑う米内光政大将の姿に、山本五十六中将は愛想もこめて苦笑いをしてみせた。 ぷくぷくと沸き立つ鉄鍋の上では、軍鶏の身が躍り、ややしなびてきた牛蒡が少しずつ震えるようになっている。 「私が司令長官の間は戦争は起こるまいというから思い切りやらせてもらったが、やはり相手がいるのはいいね。」 からりと笑う。 暑い盛りであるのに鍋を囲んでいるから二人とも背広の上着は脱いでいた。 先ほどまで、第3艦隊参謀であった小沢治三郎大佐となにがしか話し込んでいたらしいが、山本がきてからすぐに彼は去ったために何を話していたかはわからない。 だが、今のような陽性の雰囲気とは正反対であったことは確かであった。 「何より、砲撃戦を実際に模擬弾でやることができるというのはいい。」 「確かに。」 今回の演習は、山本も神崎島鎮守府側から司令部要員として参加した。 実際は、これら統合指揮における後方兵站任務が行えるのがおそるべきことに神崎島鎮守府の人々だけであったために、その経験を積む必要があったからなのだが… (そのため、仮想敵国役をつとめたのがあちらの長門をはじめとする実戦部隊指揮官たちになってしまった) そのため、艦隊決戦時は陸海軍の将帥とともに、チャーターした二式大艇改に乗ってその様子を見学することすらできている。 いわゆる三式弾の原理を応用し、空中で炸裂する模擬弾はもとは艦砲による消火を意図した消火弾の転用だったのだが、電探と電算機による弾道解析によって「本来は命中した」ものが各艦に随時通知される仕様となっていた。 要は、砲弾が空中で炸裂する以外は実戦さながらの砲撃戦が展開されたのである。 消火剤の白い煙が命中あるいは至近弾による視界の一時的悪化を再現していたこともあって、各砲術はそれぞれヒートアップしたと聞いている。 上空で見守った山本たちも、手に汗を握って艦隊戦を見つめたものだった。 「漸減邀撃作戦では、勝てませんね。」 「うん。今のままでは勝てないね。日本海海戦なみの僥倖があったところで、米艦隊には。」 だからこそ、今は演習の戦訓をまとめるために喧々諤々の議論を戦わせて徹夜続きである軍令部や参謀本部をはばかることなく山本と米内は言い切ることができた。 「数が違いすぎます。神崎島側を指揮下におければ話は別ですが…」 この先は禁句と山本は口を閉ざす。 これがわかっていたからこそ鎮守府側はあれほど無茶をして自らの地位を確定させていたと頭ではわかっていても、やはり惜しい。 「数があったとしても、今のままではまだうまくいき難いと思うよ。」 山本も頷く。 陸海統合作戦という新たな概念は、先の第二次上海事変における実施によって帝国陸海軍の新たな希望になりつつある。 だが、それでさえ数々の連絡の齟齬を、神崎島側の優秀な気象予測斑が補ったのが今回の演習だった。 446: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:14:23 「運良く台風がきていたから利用させてもらった。長門君たちは安全策をとってぎりぎり台風の外延部に退避してくれたが、米海軍はむしろ突っ込んでくるかもしれんね。 ほら、ハルゼーとか」 「ああ…」 ここしばらくは戦史の個人的な分析を密かな楽しみとしている山本も苦笑した。 あの国の海洋気象学は、第四艦隊事件で痛い目に遭っている帝国海軍のはるかに後塵を拝しているのが現状だった。 だがそれを補って余りあるのが「数」だった。 「それに、8月や9月に決戦が起こると決まっているわけでもない。それに決戦は一度きりでもないからね。」 「決戦の連続、と形容した方がいいかもしれませんね。」 そして、帝国海軍はすりつぶされた。 「うん…これ以上をやるのは、私には無理だな。」 すっきりした顔で米内はいった。 「ところで山本君。」 「はい。」 山本は、今日こんな場所で軍鶏鍋をつつくことになった理由がきたと思った。 「わが国の上の方が施した一連の仕掛けで、日中開戦からの対米線の芽はつまれたといってもいい。少なくとも対独戦の後になるだろう。」 山本は頷く。 中国大陸で治安活動を行っている米軍と入れ替わりで内地や満州へ撤収しつつある陸軍の特務機関の情報は、あらゆる点でそれを支持していた。 「北のソ連が、日ソ不可侵条約の締結を打診してきた。」 山本は総毛立った。 早い。 「事変の結果、中華民国は好むと好まざるを問わずにドイツへの接近を開始した。 当然だろうね。あの大失態の責任をなすりつける先は、もはや中華ソヴィエト連中にしかない。 周恩来が南京を脱出したとの情報もある。国共合作はもはや完全な崩壊状態だ。となると――」 「満州に陣取るわが軍が問題になると。関東軍の梅津さんはよくおさえてくれていますね。」 「危ない連中は、そら、再教育中だからね。それに彼らは新しいオモチャに夢中だ。」 ずずっと、溶き卵ごと軍鶏を流し込む。 しみる。 「それに、スペイン内戦この方、ソ連への視線は厳しい。欧州では、ポーランドが東部国境の兵力を拡充したとの報告も…」 「ドイツとの間で兵力相互告知協定が締結されたからね。見返りは、官民のポーランド回廊の通行自由だそうだが…」 つまりはそういうことだった。 「で、だ。当分の間、わが国はフリーハンドになったわけだ。その間に、この問題をどうにかしなけりゃならん。」 米内は言葉を切った。 山本が言葉の先を予想する前に、米内は続ける。 「山本。君、次の連合艦隊司令長官をやってみる気はないか?」 447: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:15:01 【あとがき】――それでも2年はやるつもりらしい米内さん。
445: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:13:43 艦こ○ 神崎島ネタSS――「御指名」 ――1937(昭和12)年8月20日 帝都東京 本所 「ああ面白かったよ。」 喜色満面で笑う米内光政大将の姿に、山本五十六中将は愛想もこめて苦笑いをしてみせた。 ぷくぷくと沸き立つ鉄鍋の上では、軍鶏の身が躍り、ややしなびてきた牛蒡が少しずつ震えるようになっている。 「私が司令長官の間は戦争は起こるまいというから思い切りやらせてもらったが、やはり相手がいるのはいいね。」 からりと笑う。 暑い盛りであるのに鍋を囲んでいるから二人とも背広の上着は脱いでいた。 先ほどまで、第3艦隊参謀であった小沢治三郎大佐となにがしか話し込んでいたらしいが、山本がきてからすぐに彼は去ったために何を話していたかはわからない。 だが、今のような陽性の雰囲気とは正反対であったことは確かであった。 「何より、砲撃戦を実際に模擬弾でやることができるというのはいい。」 「確かに。」 今回の演習は、山本も神崎島鎮守府側から司令部要員として参加した。 実際は、これら統合指揮における後方兵站任務が行えるのがおそるべきことに神崎島鎮守府の人々だけであったために、その経験を積む必要があったからなのだが… (そのため、仮想敵国役をつとめたのがあちらの長門をはじめとする実戦部隊指揮官たちになってしまった) そのため、艦隊決戦時は陸海軍の将帥とともに、チャーターした二式大艇改に乗ってその様子を見学することすらできている。 いわゆる三式弾の原理を応用し、空中で炸裂する模擬弾はもとは艦砲による消火を意図した消火弾の転用だったのだが、電探と電算機による弾道解析によって「本来は命中した」ものが各艦に随時通知される仕様となっていた。 要は、砲弾が空中で炸裂する以外は実戦さながらの砲撃戦が展開されたのである。 消火剤の白い煙が命中あるいは至近弾による視界の一時的悪化を再現していたこともあって、各砲術はそれぞれヒートアップしたと聞いている。 上空で見守った山本たちも、手に汗を握って艦隊戦を見つめたものだった。 「漸減邀撃作戦では、勝てませんね。」 「うん。今のままでは勝てないね。日本海海戦なみの僥倖があったところで、米艦隊には。」 だからこそ、今は演習の戦訓をまとめるために喧々諤々の議論を戦わせて徹夜続きである軍令部や参謀本部をはばかることなく山本と米内は言い切ることができた。 「数が違いすぎます。神崎島側を指揮下におければ話は別ですが…」 この先は禁句と山本は口を閉ざす。 これがわかっていたからこそ鎮守府側はあれほど無茶をして自らの地位を確定させていたと頭ではわかっていても、やはり惜しい。 「数があったとしても、今のままではまだうまくいき難いと思うよ。」 山本も頷く。 陸海統合作戦という新たな概念は、先の第二次上海事変における実施によって帝国陸海軍の新たな希望になりつつある。 だが、それでさえ数々の連絡の齟齬を、神崎島側の優秀な気象予測斑が補ったのが今回の演習だった。 446: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:14:23 「運良く台風がきていたから利用させてもらった。長門君たちは安全策をとってぎりぎり台風の外延部に退避してくれたが、米海軍はむしろ突っ込んでくるかもしれんね。 ほら、ハルゼーとか」 「ああ…」 ここしばらくは戦史の個人的な分析を密かな楽しみとしている山本も苦笑した。 あの国の海洋気象学は、第四艦隊事件で痛い目に遭っている帝国海軍のはるかに後塵を拝しているのが現状だった。 だがそれを補って余りあるのが「数」だった。 「それに、8月や9月に決戦が起こると決まっているわけでもない。それに決戦は一度きりでもないからね。」 「決戦の連続、と形容した方がいいかもしれませんね。」 そして、帝国海軍はすりつぶされた。 「うん…これ以上をやるのは、私には無理だな。」 すっきりした顔で米内はいった。 「ところで山本君。」 「はい。」 山本は、今日こんな場所で軍鶏鍋をつつくことになった理由がきたと思った。 「わが国の上の方が施した一連の仕掛けで、日中開戦からの対米線の芽はつまれたといってもいい。少なくとも対独戦の後になるだろう。」 山本は頷く。 中国大陸で治安活動を行っている米軍と入れ替わりで内地や満州へ撤収しつつある陸軍の特務機関の情報は、あらゆる点でそれを支持していた。 「北のソ連が、日ソ不可侵条約の締結を打診してきた。」 山本は総毛立った。 早い。 「事変の結果、中華民国は好むと好まざるを問わずにドイツへの接近を開始した。 当然だろうね。あの大失態の責任をなすりつける先は、もはや中華ソヴィエト連中にしかない。 周恩来が南京を脱出したとの情報もある。国共合作はもはや完全な崩壊状態だ。となると――」 「満州に陣取るわが軍が問題になると。関東軍の梅津さんはよくおさえてくれていますね。」 「危ない連中は、そら、再教育中だからね。それに彼らは新しいオモチャに夢中だ。」 ずずっと、溶き卵ごと軍鶏を流し込む。 しみる。 「それに、スペイン内戦この方、ソ連への視線は厳しい。欧州では、ポーランドが東部国境の兵力を拡充したとの報告も…」 「ドイツとの間で兵力相互告知協定が締結されたからね。見返りは、官民のポーランド回廊の通行自由だそうだが…」 つまりはそういうことだった。 「で、だ。当分の間、わが国はフリーハンドになったわけだ。その間に、この問題をどうにかしなけりゃならん。」 米内は言葉を切った。 山本が言葉の先を予想する前に、米内は続ける。 「山本。君、次の連合艦隊司令長官をやってみる気はないか?」 447: ひゅうが :2017/01/08(日) 22:15:01 【あとがき】――それでも2年はやるつもりらしい米内さん。

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