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26 :ひゅうが:2012/02/01(水) 21:33:34 ※ 本作は銀河英雄伝説の中に独自設定と考察をぶちこんでおります。そういったものが嫌いな方は閲覧を取りやめられることを強くお勧めいたします。    また、閲覧によって生じたいかなる精神的・肉体的苦痛についても当方に責任はないものといたします。    同意できる方のみ、どうぞ。 銀河憂鬱伝説ネタ――「理由」(『ワルキューレは汝の勇気を愛せり』を演奏しながらお読みください) ――帝国暦479(宇宙暦789=皇紀4249)年3月3日 銀河系オリオン腕    ヴァルハラ星系 帝都オーディン 新無憂宮 後宮 「委細は滞りなく進んでおるか。」 「は。」 国務尚書リヒテンラーデ候は堅い声音で一礼した。 フリードリヒ・フォン・ゴールデンバウム、銀河帝国皇帝の地位にあり、フリードリヒ4世と呼ばれる自分に曲りなりにも忠誠を尽くしてくれたのは、彼のほかは古くからの臣であるグリンメルスハウゼンくらいなものだった。 自分の見せる姿に驚き、憤り、ついには軽侮しつつも忠誠を尽くしたリヒテンラーデ候の態度は昨年より何かが変わっている。 何一つ決めてやるものかと思っていたのだが―― 「そうか。ならばよい。ルードヴィヒはどうしておる?」 「動揺しておいでです。さすがに唐突でありましたからな。」 候は笑う。 「そうか。さすがにそうであろうの。あれが即位するとは余も思わなんだ。」 「と、仰いますと?」 「簡単なことよ。汝ら以外の者にとって、果断で才能に溢れておる皇帝はどのようなものか?帝国の現状を変えようと理想に燃える21歳の若き皇太子――しかも皇妃は権門ならざれど伝統と格式に優れるノイエシュタウフェン公家・・・どうかの?まさに暗殺してくれと言わんばかりではないか?」 「・・・恐れ入りましてございます。陛下。だからこそ陛下は――」 驚きつつも感じ入るリヒテンラーデ候。まぁこれくらいなら言ってもよかろうと私は思った。 「余はの。本当に即位するつもりはなかったのだ。兄上のどちらかあたりが即位されれば臣籍に降り、中小貴族の娘御と婚儀を挙げ、荘園を経営しつつ適度に仕事をこなそうと考えておった。」 「は。」 リヒテンラーデ候は、滅多に使われることのない後宮の「待機室」の防音構造でも反射するかどうかわからないかすれた声を出す。 私は、対面する位置に置いてある椅子に候をいざなった。 それまで立ったままであった候は遠慮しつつも座った。 後宮勤務である男――グリンメルスハウゼンの手の者がワインを持ってきて二つのグラスに注ぐ。 それを一口呑んだ候は少し顔をほころばせ、続いて怪訝な表情になる。 「気に入ったかの?余の仕込みじゃ。運よく446年にあたっての。余が仕込んだ5年分のうちの1年じゃったが、まぁうまくやったよ。」 「陛下が自ら?46年といえば御年23であったと――」 「おや?知らなかったのか? まぁ無理もなかろう。グリンメルスハウゼンの手の者がすべて証拠を消しておったからの。 当時の余の名はフリードリヒ・フォン・ジッキンゲン男爵子息じゃったからの。」 リヒテンラーデ候の目が見開かれ、驚愕のあまり口をぱくぱくさせる。 「まぁ無理もなかろうて。子息は457年に死亡、家は断絶ということになっておるから。 おおそうそう。その数年前に子息の妻は謎の事故に巻き込まれ死亡。子は帝国騎士の家に嫁いだよ。娘はクリスティアンといった。だが、2人目の子を産んでから3年後にはかなくも逝ってしまったが。」 ガシャン! 茶器を取り落す音が響く。 見ると、カシのドアの前で、口元をおさえて震える女性がいた。 リヒテンラーデ候は、その見事な金髪と私を何度も見比べている。 できれば、聞かせたくはなかったが。グリンメルスハウゼンめ、いい仕事をしすぎる。 27 :ひゅうが:2012/02/01(水) 21:34:06 「そんな・・・だから・・・私には――」 「すまなんだの。アンネローゼ。」 陛下は、愛おしげにグリューネワルト伯爵夫人を見つめていた。 「カストロプめが愛人になどと言い出さねばこんなことにはならなんだのだが。 お前と弟御には随分辛い思いをさせてしもうた。」 「いえ・・・いえ!」 口元を覆う伯爵夫人。 「余は、この通り放蕩息子であるからの。木を隠すのなら森の中と考えたのも浅知恵じゃったようじゃ。 随分辛かったろう。すまなんだ。」 陛下は立ち上がった。 ようやく、私――クラウス・フォン・リヒテンラーデは事の次第を悟った。 陛下がなぜこんな手の込んだことをされたのか。 かつて・・・陛下には愛する妻がおられた。 しかし、兄たちの内紛が原因でそれは失われ、しかも自らは皇太子に立たれなければならなくなった。 泣く泣く、生まれていた一人娘は信頼できる帝国騎士の家に引き取られることになる。 時は流れ、彼女は一人の帝国騎士と結婚した。 陛下は陰ながらその幸福を見守っていたのだろう。だが運悪く2人目の子供を産んだ彼女は死去。 その忘れ形見である二人の姉弟は幸福に暮らしていた―― 美しく成長した姉を、一人の大貴族が戯れに妾にしようと動き出すまでは。 考えてみればおかしいことではないか。 陛下は、あのベーネミュンデ侯爵夫人との間に4度子供をもうけられている。しかし、グリューネワルト伯爵夫人とは一切子供をもうけておられない。 本来なら、そのまま里へ帰されてもおかしくはない。 が、陛下は過剰なまでの夫人のところへ渡られ、しかも観劇などには必ずといっていいほど連れていかれている。 そう――祖父がかわいい孫と連れ立って出かけるかのように。 「国務尚書。」 「は。」 私は片膝をついた。 「グリューネワルト伯爵夫人に、ローエングラム伯爵家の門地を与える。これは勅命である。また、これを剥奪せんとするが如きは余が自らの手で誅殺せしめる覚悟である。左様心得よ。」 「ははっ!!」 ――その時、歴史は動いた。   同時に生じたものと比べるとささやかではあるが、それでも確実に歴史は動いたのである。

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