170:弥次郎:2025/11/01(土) 23:47:03 HOST:sp1-75-73-107.smd03.spmode.ne.jp
大陸版日企連×86 SS「悪霊の進撃」2
サンマグノリア共和国は大いに荒れていた。
予期されていた筈の、ギアーデ帝国からの宣戦布告と開戦。そこから瞬く間に押し寄せた敵の新兵器。
そこまではよかった。予測もあったことで軍を展開し、迎撃態勢を整えていたのだ。国境沿いでの迎撃は準備は万全だったはず。
だというのに、これはなんだ?
直前までつながっていた通信が途絶え、数時間が経過した後にやっと届いたのは、部隊が文字通り壊滅させられ、蹂躙されたという報告のみ。
なぜ?なぜなぜ?なぜなのだ?
軍本部は大いに荒れた。
情報が錯綜し、指揮系統は混乱し、何が正しく何が間違っているかがわからなくなる。
「ジェローム」
「ヴァーツラフ」
そんな中にあって、ジュローム・カールシュタールとヴァーツラフ・ミリーゼの二人は、軍本部で顔を合わせていた。
互いに高級将校で、仕事があり、相応に忙しくあるなかで、ようやく時間がとれたのだ。
互いの顔を見て、思わず苦笑するしかない。開戦からこっち、まるで休みなしで仕事が舞い込んでいたのだ。
ギアーデ帝国による通信妨害もあって、前線と後方の情報の伝達さえもおぼつかなくなり、何がどこでどのように起こっているのかの把握さえおぼつかない。
そんな中であっても、ギアーデ帝国軍の動きを予測し、予備戦力を配置し、国民の避難を行わなくてはならないのだ。
そんなのだから、仕事は山積みという言葉を軽く超えている。
「……今は大丈夫なのか?」
「なんとか、な」
いや、大丈夫なわけがない。ジュロームは自分で言っておいて、内心そうため息をついた。
開戦と同時に進撃してきたギアーデ帝国の「レギオン」は、正に雪崩のように国土を襲ってきている。
人の軍隊ではありえない進行速度・物量・地形踏破能力・戦闘能力で足止めを図ろうとする部隊を次々と突破している。
既存の戦闘教義も何もが通用しない環境下に追い込まれており、組織的な抵抗さえも難しい。
「酷い有様だな」
「ああ……あっという間に蹴散らされている。これではギアーデ帝国軍が出てくる前に全滅しかねん。
おまけに、情報の錯そうで軍本部さえこのザマだ」
「……陸軍も空軍もか」
「どうにもレギオンは自分達が航空戦力に弱いことを最初から理解していたようだ。
だからこそ、山のような対空砲持ちと霧のように大量に展開する極小個体でふさいでいる。ジェット機はこれでは飛べん」
前者はともかく、後者はどういうことか?
ヴァーツラフは空軍の人間ではないが、どういう原理なのかは自ずと察することができた。
171:弥次郎:2025/11/01(土) 23:48:36 HOST:sp1-75-73-107.smd03.spmode.ne.jp
「……なるほど、エアインテークに飛び込んでくるのか」
「その通りだ。前線で空軍が墜落した機体を調査して分かったことの一つだ。
最初にコンタクトした時に気が付けて、最優先で持ち帰るように命じたからこうして私たちも知ることができた」
ほら、と写真付きの報告書が差し出される。
写っているのは蝶のような何かと、それを吸い込んでエンジンが破壊された戦闘機の写真だ。
つまるところ、起こっているのは添付の文章にもあるようなバードストライクだ。
これによって、レギオンを有効に叩けるはずの航空戦力は当てにできなくなってしまった。
プロペラ機なら飛べるが、ヘリでは速度や搭載火器の量などで劣り、あっという間に落とされるのが目に見えている。
これでは輸送が実質的に陸路かプロペラ機に制限されてしまう。今後の戦闘にも、国民や資産の避難にも支障をきたすだろう。
なんとも苦しい状況が一つ露わになった。それでも、ジュロームの顔色は変わったように見えない。
「……案外、平気そうに見えるが?」
「悪い状況であることがまた一つ重なっただけだ。今更な話だろう」
「それもそうだな」
そう。レギオンの情報が少しずつ蓄積されているのは良いことだが、こっちにとって何の慰めにもならない情報が多いのだ。
今の状況で何か手掛かりを得られたところで、何かが好転するかといえばそういうわけでもないのである。
時間をかければ対抗策が打ち出せるかもしれないが、そうしている間に軍事力が払底するか、あるいは首都まで陥落しかねない。
必要な時に必要な手を打つことができなければ、軍隊としては落第なのだ。
それと、とジュロームは声を潜めて友人に言う。
「だいぶ上層部の方でも混乱が著しい。
これからどうするかよりも、責任の押し付け合いが始まっている」
「……こんな時にか!?」
「こんな時だからだ。誰もがこうなった理由を知りたがって、互いに疑心暗鬼になっているのだ」
そう、敗北を受け入れられなくて、逃げ出しているのだ。
あるいは負けていることを信じられず、その責任を誰かに擦り付けたくなっているのだ。
まさに末期戦の様相。彼らは幸か不幸か経験したことのない、人の醜い面の露わになる瞬間。
選び抜かれ、鍛えられたエリート故に、自分たちの失敗や瑕疵を認められず、負けている状況からどうにかできると無謀にも信じている状態。
それをしょうがないこと、と割り切るのは簡単ではあるが、このままでは何も解決しない。
このまま待つならば、待ち受けるのは破滅だというのに、そのことさえも認識しようとしない。
172:弥次郎:2025/11/01(土) 23:49:53 HOST:sp1-75-73-107.smd03.spmode.ne.jp
「……まずいぞ、このままでは何をしでかすかわからん」
「どうにかしたいが、そもそも統制がな……」
何か、何かが欲しいのだ。
この混乱の状況を覆すような何かが。
統制を取り戻し、軍が組織として真っ当に再起動できるようになる何かが。
(神頼みでもしろというのか……)
ヴァーツラフが内心悪態をついたところで、軍令部に急ぎ足で駆け込んできた伝令が声を張り上げた。
「至急です、至急!
先ほど、東部方面のポルト=デ=シュヴァル基地から、レギオンが損害を受け、撤退を開始したとの報が!」
「なんだと!?」
どよめきが、広まった。
戦術的にも戦略的にも負けていて、後はどれだけ生かすかのトリアージを求められていたのに、勝てた?
「どういうことだ、ポルト=デ=シュヴァルの部隊は壊滅したと聞いていたが……?」
「ああ、基地に籠城してどうにか時間稼ぎをすると報告があったな」
そんな声が漏れる中、伝令は続けた。
「救援軍が駆け付け、レギオンを駆逐したとのことです!」
「救援!?そんなのはどこから……」
思わずジュロームは声をあげ、同時に気が付いた。
東部方面のポルト=デ=シュヴァルといえば、最近話題になっていたではないか。
そう、それは全く常識の通用しない「ゲート」の出現地であり、異世界から現れた企業と接触が果たされた土地だ。
つまり---
「救援したのは、企業軍---大日本企業連合からの派遣軍です!」
その予感を肯定する言葉が、伝令の口から吐き出された。
その時にカールシュタールの体を走ったのは、喜びであると同時に、悪寒だった。
不可思議なことに、その悪寒は、ギアーデ帝国が宣戦布告してきた時と同じようなものだった。
本来の流れを捻じ曲げ、異世界の軍が突如として介入。これが決定的に運命を変えることを今はまだ、誰も知らなかった。
173:弥次郎:2025/11/01(土) 23:51:16 HOST:sp1-75-73-107.smd03.spmode.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
半月足らずでサンマグノリア共和国の枷が外れたということは、それだけ連戦連敗でひでぇことになったということ。
じゃけん、バカになり切る前のちょうどいいタイミングで踏み込みましょうねえ。
最終更新:2026年02月24日 16:19