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747 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/10(月) 00:13:21 ID:sp1-75-72-20.smd03.spmode.ne.jp [8/12]

大陸版日企連×86 SS「不安という天蓋に覆われて」


  • 星暦世界 サンマグノリア共和国 首都「エベルト・エト・エガリテ」 道路上


「……ここも荒んでいるな」

 首都に入った日企連の渉外担当者を乗せた車両は、途中からサンマグノリア共和国による警護と案内を受け、道路を通行していた。
その中で気が付いたのは、戦時ということもあってかだいぶ空気が悪いということだった。
人々が街中で言い争い、あるいはつかみ合いの喧嘩に発展して警察に止められ、はたまたシュプレヒコールをあげるデモの一団がいる。
建物を見れば暴徒化した市民の手によって破壊されたと思しい窓ガラスや扉などが応急修理をされているのが見える。
そういった破壊活動がなくとも、人々はうつむき、暗い顔をして過ごしている。
情報統制もされてはいるのだろうが、やはり人づての噂は遮断しきれず、漏れ出て風聞を巻き起こしている。
あるいは、いきなり他国との通信が悉くオフラインになったというのも影響しているのかもしれない。
ギアーデ帝国が宣戦布告をして軍を差し向けてきたというところまでは広まっていて、そこから政府や軍が沈黙しているならば、想像もつくというものだ。
 これはエベルト・エト・エガリテに限った話ではない。ここまで通過する都市や街は多かれ少なかれ同じ状況にあった。
特に前線が近いほどに、何が起こったのかを理解してしまい、実際に避難民が逃げてきたことで混乱が深まったのだろう。
日企連が救援を行ったとはいえ、一度大敗北をしてしまったという事実が消えてなくなることはないわけで、良くない空気を生み出している。

「いや、これでもましな方というべきかな。
 少なくとも攻め込まれる状態ではないんだから……」
「だが、外部に救援されたというのはあまり誇れることではないわけだから、表立って公表しているかどうか。
 情報に飢えているようなのは間違いないしな」
「日企連の評判も決していいわけじゃなかったというのもあるな。
 そんなところに助けられてもうれしくないという市民の声は無視できないのだろう」
「だから宙ぶらりんか……」

 車外を見る渉外担当者達の予測は正しかった。
サンマグノリア共和国は確かに日企連によって助かった。政府や軍が窮地にあったからこそ助けを求めた。
 けれど、飛びついたのは上の人間であって、現場の将兵などが必ずしも受け入れられるものではない。
交流が始まってからは日企連のことは共和国内でも報じられていたのだが、それは必ずしも肯定的ではなかった。
異世界であるとはいっても企業が支配者となっている世界というのは俄かには信じがたく、憶測や風聞が飛び交い、恐怖が煽られる。
なまじ世界初の民主共和制国家ということがアイデンティティーの一つであるがために、それ以外の政体を受け入れにくいという土壌もあったのだ。

748 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/10(月) 00:14:15 ID:sp1-75-72-20.smd03.spmode.ne.jp [9/12]

 また、別にサンマグノリア共和国と日企連は同盟を結んでいるわけでも何でもない、ほんの少し前に接触したばかりの間柄なのだから。
それらの事情があるのに、ギアーデ帝国が強すぎたからとはいえ、自らの不始末が原因でその勢力を引き入れるというのは受け入れがたい人間がいるのが普通だった。

「……でもまあ、それはあくまでもサンマグノリア共和国の事情だ。
 我々がそこを関知するところではない」
「そうだな。ちゃんと報酬を支払ってくれて、今後の通商もしてくれるならば万々歳だ」

 努めて、彼らは前向きであろうとした。
 それはこんな鬱々とした、雰囲気の悪い首都の様子を見せつけられている状態への、せめてもの抵抗だったのだろう。
市民から向けられる胡乱な視線---猜疑あるいは恐れ、あるいは理不尽な怒り---を感じながらも、彼らは進む。
進んでいるというべきか、それとも落ちていっているというべきか。
この国で生まれた悍ましさの爆心地(グラウンド・ゼロ)へ。


  • 星暦世界 サンマグノリア共和国 首都「エベルト・エト・エガリテ」 大統領府付近

 大統領府とその周辺の安全確保、訪れる日企連の外交使節の護衛。
そういう名目と体裁で、まだ無事だった陸軍の戦力で日企連の警戒を任されたヴァーツラフとジェロームの二人は、揃ってため息をついていた。
警戒する気持ちもわからなくはない。大統領府のあるエベルト・エト・エガリテも治安が悪いから警察だけでなく軍も出張るのもある意味当然。
 けれど、国民に情報を中途半端に情報を明かしてしまい、起きている事態に右往左往するばかりの政府には少なからず失望があった。
数日前までは平和で、少なくとも美しかった街並みが荒れるなんてことはなかったはずだ。
市民だって政府からの勧告や命令の元で、戦時ではあっても平静を保てていた筈だというのに。

「前線に向かえていれば見なくて済んだのだろうか……」
「いうな、ジュローム。
 負け戦というのは、どこにいても醜いものを見る羽目になると聞く。
 ギアーデ帝国にニアンテミスを奪われた時の記録を見たことはあるか?」
「いや、そこまではな……100年も昔のまで見ていたのか?」
「ギアーデ帝国について、特にやり口を学んでおくのは嗜みだぞ。
 過去の戦訓や情報も案外馬鹿にならないところがある」

 それでも、とヴァーツラフはつぶやく。

「ここまで醜いモノを目にする羽目になるとは、過去の記録では見たことがなかった」
「……そうか。今度はお前が記録しておいてやった方がいいな」
「そうだな。無事に生き残れたら、後世のためにも残してやらないとならないな。
 ジュローム、お前も協力しろよ?」
「しょうがないな……」

 ともあれ、と二人は居住まいを正す。
 まずは勝つための行動をする必要があるのだ。具体的には任務をこなし、今回の日企連との交渉をうまく進められるように場を整えること。
遠くを見れば、渉外役たちを乗せた車両の先触れが二人のいる検問所に向かってきているのが見える。

749 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/10(月) 00:15:41 ID:sp1-75-72-20.smd03.spmode.ne.jp [10/12]

 確認などを済ませ、検問所を通過していった車を見送り、二人は意識を前方へと向けた。
 眼前、大統領府付近の道路は軍人や警察官を除けば、市民の姿は0に近い。
幸いにして、市民は荒れている状況下であっても最低限の常識などは持ち合わせていたようだった。
大統領府や軍本部といった重要施設に向かって突撃するような、そんな軽率な行動をする市民はいない。
まあ、装甲車や戦車やヘリが陣取った上で、多数の銃口や砲口が睨みを利かせていれば、流石に冷静さを取り戻すのだろう。
 そして二人の話の話題は、先ほど通過していった日企連へと移った。

「今回の交渉は、確か今後の方針についてだったか?」
「そう聞いている。軍本部からも人が大統領府に呼ばれていたからな。
 ギアーデ帝国といかに戦うのか、今後の防衛体制はどうするのか……おおよそはそこについてだろうな。
 日企連はこちらが雇った傭兵という形なのだから、雇用主は共和国。その活動については雇用主の意見と指示が必要だ」
「傭兵だよりとは、革命よりもさらに昔の時代まで巻き戻ったかのようだな」
「国軍というものが整備されていなかった頃か……恐ろしく昔だな」

 サンマグノリア共和国においても、少なからずPMCというのは存在する。
存在してはいるのだが、その業務内容は過去に存在していた傭兵とは異なり、今日のPMCの業務は直接戦闘などは少ない。
民間が保有することを許される程度の武力で警護や警備を担うか、あるいは軍の後方支援業務を行うことが多い。
サンマグノリア共和国においては軍から退役した人員の受け入れ先という面が強いため、軍とはそれなりに関係が深いと言える。
 そこまで考えて、ヴァーツラフはふと思い出した。

「そういえば、ギアーデ帝国では実質的に傭兵がまだ現役だったな」
「戦闘属領民(ヴァルグス)か」
「ああ。帝国の領土で暮らしているから帝国民ということにはなるが、その扱いは平時の権利と引き換えの即応戦力。
 集落というレベルで広い属領が多数存在して、それらは帝国の主流とは違う民族で占められている
 言い方は悪いが、自分の家の庭をいくつも区切って狩りに使う獣を育てているようなものだ。
 領土ではあるが領土ではない。人ではあるが人としては見なさない。区別しているのさ」
「なるほどな」

 そういうジェロームだが、先だっての友人の言葉が脳裏をよぎる。
レギオンに徹底抗戦した結果壊滅した部隊の報を見て、ヴァーツラフはこういったのだ。「有色種ながら優秀だったのに」と。
「ヴァーツラフ、その言葉は、自分達とそれ以外を区別する言葉なのだぞ」と口の端までせり上がったが、飲み込んだ。
友人は、まるで言葉に込められている意味や意識に気が付いていなかった。その言葉も思わず出たのだろう。
だからこそ、言いたくなってしまい、しかし何も言えなかった。
今も、同じような言葉がせり上がってくる。その言い草は、戦闘属領を作って維持しているギアーデ帝国と変わっていないと。
ギアーデ帝国の事情を深く理解している、出来ているということは、そういうことなのだ。

750 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/10(月) 00:16:35 ID:sp1-75-72-20.smd03.spmode.ne.jp [11/12]

 だが、今回もジェロームは言葉を飲み込む。友人のためか、自分のためか、今もわからいままに。

「しかし、国はどうするつもりなのだろうな。
 日企連に救援を依頼し、見事にそれは果たされつつあるわけだが、その報酬はどうするのかと」

 それを知らないヴァーツラフは、そんなことを口にした。
 確かにそうだ。国難に際して大規模な部隊を展開して、レギオンを食い止め続けている彼らにどれほどの報酬が適切なのかと。

「噂では物納でも構わないという話も聞いた。
 あちらの世界では自然が荒廃しているからこそ、復興のためにもそういった資源が欲しいと」
「わからなくもない話ではあるな。
 しかし、物納でもいいとしても、どれだけ要求されるかが心配になる」
「働きに応じて払うとしたら、それこそ国庫を解放して支払うのが筋だろうからな」

 そんな余裕があるだろうか、ジェロームはそう考えてしまう。
 ただでさえ途方もない犠牲を出している状況でさらに出費を行う。
戦後の復興などを考えれば、自分でさえも分かるほどに重すぎる負担となるだろう。
国債の発行や増税などを行うとしても、長い時間をかけて分割で支払うのは避けられないのかもしれない。

「国民やその財産が救われたことはありがたいことだが、それに比例して負担は増える。
 政府にそのアテはあるんだろうか?」
「わからん。それについて考えるのは政府の人間だろうからな」
「……政府か。そうだな、当然だがそうだろう。
 戦後は軍の再編なども必要になるだろうが……」
「やめてくれヴァーツラフ。どう考えても役に立てなかった軍に立つ瀬はないのだからな。
 しばらくは冬の時代になりそうだ」
「無事に迎えられれば、な。
 せめて彼らのために何か貢献できればいいのだが、その力がなくては話にならない」

 思わずジェロームの口から再びため息がこぼれる。
どうやっても自分たちが立つ瀬はない。戦中も戦後も、だ。
せめて負担を減らせるように行動したいところなのだが、大人しく後方にいてほしいというのが日企連の言い分なのだ。
彼らの強さを金で買えるならば安いものだが、それでもその対価は重たい。何かパッと支払えればと思えるが、そのあてもない。

(難しい問題だな。簡単な方法などないと分かっているのが)

 この時、ジェロームは気が付かなかった。
政府及び軍上層がジェロームと同じようなことを考え、短絡的且つ暴力的に---共和国にあってはならないやり方で解決しようと動いていたことを。
彼らもまた、白系種と有色種とを分けて考え、ギアーデ帝国のように区別すればいいのだと思いついてしまうことを。
敗戦寸前にまで追い込まれたことによって極限状態になったがために、とんでもないことを起こすことを、知らなかったのだ。

751 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/10(月) 00:17:38 ID:sp1-75-72-20.smd03.spmode.ne.jp [12/12]

以上、wiki転載はご自由に。

丁寧に丁寧に積み上げていきます、フラグを。

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最終更新:2026年02月24日 18:10