158 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/15(土) 20:09:15 ID:sp1-75-75-144.smd03.spmode.ne.jp [2/5]
端的に言えば、サンマグノリア共和国---その政府と軍は窮地にあった。二つの問題を突き付けられて。
直近に迫っていたレギオンの脅威は確かに掃われたので、無慈悲な機械共に国民が虐殺され、領土が蹂躙される事態は防がれるだろう。
だが、今度は沸騰する国民感情に基づく責任問題にまで発展した。
ギアーデ帝国との戦争になったという政治的失態、緒戦において大敗北を喫した戦争指導能力への疑問、有効な手を打てずなし崩しで救援を受け入れたこと。
わずか数日のうちに失態をしでかし、その尻拭いを他者にやらせて安穏としているのはどう考えてもプラスには見えない。
なにしろ序盤戦だけでもかなりの兵士たちが死んだ。それこそ、東部方面を担当し、真っ先に接敵した部隊は文字通り全滅。
情報を後方に送るために離脱した人員以外がまともに生き残っていない時点で、どれほどのものだったかは言うまでもない。
軍人であるとしても、彼らとて有権者であり納税者。彼らの家族もまた然り。
あるいは軍が時間を稼いでいる間に避難ができた、あるいは日企連により保護・救出された共和国民も黙っているわけがない。
彼らは動かせない資産を、家や故郷や仕事というものを一気に失ってしまったのだ。今後の生活という問題はどうやっても付きまとう。
そんな彼らが失態をした政府や軍を許せるわけもなく、その怒りや憤りは投票という形で如実に反映されてしまうのだ。
これは理性よりもさらに厄介な感情に端を発しているから、納得や満足を得るのが極めて難しい。
ヴァーツラフやジュロームが予想したように、これらの事態を招いた政府や軍は混乱を避けえない。
少なくとも誰かが引責をしなければならず、その生贄が誰なのかを押し付け合うという不毛な状況になっているのだ。
もうひとつが、大日本企業連合である。
なぜ、と思うかもしれないが、これまで散々述べたようにサンマグノリア共和国から見れば政治的にも心情的にも仮想敵国だったのだ。
そんな彼らがサンマグノリア共和国に突きつけたのが、道理や常識に基づいた要求だ。
つまり、報酬の要求。PMCを共和国政府が雇用し、共和国軍の傘下に入れて救援を行わせたというからには、その戦果や働きに応じた報酬を払わなくてはならない。
でも、どうやって?増税?国債の発行?あるいは報酬を支払うために国庫を開く?
弱り目につけこまれて吹っかけられる可能性や今後の共和国に負担になるような要求がされる可能性がある。
仮想敵国に差し出された救援の手に飛びついたばかりに負担を強いられるというのは、どうやっても納得しがたい。
交渉の余地はあると言っても、パワーバランスが崩れている以上、相手の理性に期待するしかないのは非常に恐ろしかった。
かといってわが身の可愛さに支払いを拒否した場合、発生するのは強制執行もしくは軍事的な侵攻だ。
日企連はギアーデ帝国の技術の粋を集めたレギオンを倒せる無人兵器群を途方もない数保有している。
これほどまでに強いのかというのが戦前では分かっておらず、今になって明らかになった。
つまり、いざとなったらそれらが共和国に牙をむくのだ。領土内にレギオンよりも深く入り込み、その気になれば首都まで一直線に迫るそれが。
レギオンでさえも強かったというのに、それを一蹴した戦力がうろうろしているというのは、それだけでも脅威だ。
目の前に突きつけられている銃口と全く変わらず、それがいつ自分達に火を吹くのか分からない。
ひょっとすればギアーデ帝国よりも恐ろしいことをしてくる可能性がある。
159 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/15(土) 20:09:48 ID:sp1-75-75-144.smd03.spmode.ne.jp [3/5]
そうなった時、果たして日企連に助けを求めた人間は責任をとれるのか?事態を収拾できるのか?
答えは聞くまでもなく自明なのであるが、そうであるがゆえに厄介なのだ。
その可能性がある、なった時に悲惨では済まないことになると分かれば、なおのこと責任を問う声が恐怖と怒りによって加速される。
同時に正の感情も大きい。正義感や愛国心という感情こそ、自分たちの大切な人を守りたいという思いこそが、後押しをした。
そうして板挟みにあったサンマグノリア共和国は、途方もない苦痛の叫びをあげていた。
正確に言えば、悲鳴を上げているのは政府上層や軍上層の人間---多くが白系種、特に白銀種で占められている伝統的な支配層だった。
革命によって成立したサンマグノリア共和国は、しかしてその実体としては旧王制の頃と支配層は変わっていない。
王政の打破こそ成したが、根幹を担っている人間は相も変わらず白系種、特にその貴種とされる白銀種だったのだ。
現在においてもその伝統は変わっておらず、上に行けば行くほどに白系種が世襲のように重要ポストを独占している。これが王政と何が違うというのか。
つまるところ、世界初の民主共和制への革命などというものは、結局殺しただけであり、予め裏切られたものだったと言える。
彼らはなまじっか頭がいいから理解できた。責任問題や国民の感情問題、日企連への報酬問題が国家にとって致命傷となりうることを。
自分達の今ある地位や財産や仕事を奪い、維持してきたものを粉砕してしまうだけの恐ろしいものであることを。
では、そんなときに、無謬性に囚われている集団はどのように反応するか?
簡単だ、責任の押し付け合い---ひいては逃避と自己の無謬性の証明に走る。
もっと言えば、自己の擁護。自己愛だけに満ちた、半ば自棄になった迷走だった。
こうなったのはおかしい。
自分達がこうなるはずがない。
優れている我々がそんなことをしでかすはずがない。
その原因があるはずだ。探せ、探せ、探せ、探せ、探せ、探せ。
彼らはもはや現実を見ていない。
恐怖と猜疑、そして転化した怒りに満ちて、それが正しいことなのだと自らに言い聞かせていた。
そして、彼らは混乱した状況下で錯覚してしまった。
自分達ではない。つまり、他の誰かのせい---自分達とは違う誰かせいだと。
それは当然の流れのように肯定され、固定観念と化し、雲った眼をさらに曇らせ、判断を誤らせる。
160 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/15(土) 20:11:23 ID:sp1-75-75-144.smd03.spmode.ne.jp [4/5]
そして、気が付く。自分達ではない誰か---白系種ではない、自分たち以外を指す言葉に。
それは「有色種(コロラータ)」---伝統的に白系種ばかりだった土地故に生まれた言葉。
それがさしている集団は、自分達ではない、他所から来た異民族だ。
彼らは飛びついた。
感情が先に飛びついて、理論や理屈は後追いで補強したのだ。
自分達以外の誰かがこの状況を望んだのだと。
自分達を貶めるためにこそ、奴らはいたのだと。
そうであるのだから、そんな違う奴らを責めてもいいのだ。
奴らこそが元凶だから、攻撃しても許される。むしろしなくてはならない。
愛する誰かを苦しめ、傷つけ、命を失わせ、財産を奪った報いが必要なのだと。
後はもう、止まらない。
赦すな、赦すな、赦すな。
我々を騙し、欺き、愚弄した色付き共に、よそ者に、我々ではない者どもに、鉄鎚を下せ。
報復を。断罪を。罰を。報いを。裁きを。
報復を。断罪を。罰を。報いを。裁きを。
報復を。断罪を。罰を。報いを。裁きを。
赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな、赦すな。
同胞を殺された怒りを。苦しみを。悲しみを。
自分たちの怒りを思い知れ。
そして、その感情の赴くままに諸問題への解決策---窮地にあって「合理的且つ画期的な対応」を選んだ。
これを選ぶことによって自分達は助かるのだと、大切なものを守れると、そう信じて。
自分達ではない誰かは別に守る必要などないのだからと、そう嘯いて。
その時にこそ、サンマグノリア共和国の滅亡は始まり、同時に終了していた。
自由・平等・博愛・正義・高潔の5つの国是を否定し、共和制にあるまじき選択をし、偏った愛と薄汚れた状態を、亡国と呼ばずになんというのか。
その象徴として、大統領令第6609号に基づく戦時特別治安維持法を発令。以て、国難の対応にあたった。
すでに滅んでいる国など、ひっくり返った盆と同じで、もはや救いようがないというのに。
あるいは、共和国の終焉を見通せないほど、共和国が相対している勢力は愚鈍ではないのだと、知ろうともしなかった。
ただひたすらに、彼らは逃げ、逃れ、目を閉じることを選んだのだ。
大陸版日企連×86 SS「Marteau en couleur」
161 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/11/15(土) 20:12:08 ID:sp1-75-75-144.smd03.spmode.ne.jp [5/5]
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Marteau en couleur---色付き共に与える鉄槌
原作リスペクトのお話…反吐が出るぅ…
最終更新:2026年02月24日 18:15