552 :①:2012/04/15(日) 00:34:20
大和コンペが終了しましたので、とある作家さんのキャラの小ネタを投稿。
久しぶりにパナマ怨念が取り付いたので
相変わらず駄文ですが読んでくらはい

~ある会議の後~


 その日藤堂明海軍中佐は、しばらく足が遠のいていた新橋の飲み屋に来ていた。
 対米戦最中に海軍軍令部に転任して以来、新型戦艦の研究という任務に就いたが、対米戦が終わるや否や対墨戦となり、しばらくまともに家に帰れない状態が続いた。対墨戦もようやく終わりも見えかけたところで、本来の任務に没頭できるようになった。生まれたばかりの愛息の顔も見れない状態が続いたので、最近は仕事が終わると真っ直ぐ家に帰っていたが、今日は飲まずにはいられなかった。

 (疲れた…あの連中は正気なのだろうか?…)

 今日は海軍が新型戦艦の性能の要求項目を夢幻会と摺り合わす会議であった。

 軍令部の案はまだ一本化されていなかった。
 46センチ砲を主砲とする案は決定していたが、速度と装甲性能で意見がまとめきれていなかったのだ。
 対米戦で有用性が、というより凶暴性が証明された空母と艦載機による集中運用と攻撃力は「戦艦」との決戦を想定していた新型戦艦の根本を覆させた。
 これからの海戦、いや、海軍の主力は高速を発揮する空母とそれを護衛する高速艦、それに無限の動力源である「原子力」を機関とする潜水艦とそれに搭載する核ロケットになるのが明白だからである。
それにもかかわらず、祖国である日本と海軍は藤堂たち軍令部のプロジェクトチームに新型戦艦の性能研究を続けさせた。

 「鉄砲屋」である藤堂にとっては、それはうれしいことではあったが一抹の寂しさを感じていた。
 藤堂の目から見てももはや戦艦は時代遅れで、海の女王ではなくなるのは明らかであった。
 それゆえ、寂しさを感じつつ彼らは新しい戦艦の性能を研究した。

 「もう戦艦の役目は艦隊決戦じゃない、ライバルのアメリカは脱落、イギリスは老嬢ばかりで国王陛下も短小。ドイツは髭をそったサムソン。正直、空母だけで何とかなる」

 「そうなると空母の護衛だが…戦艦が空母に近づけるわけないし、対空力も誘導弾が発達すれば数多い駆逐艦の方が有利になる」

 「残るは上陸作戦の支援砲撃だが…これも艦載機の大型化が進むと46センチ砲の砲弾重量1tなんてすぐ役に立たなくなるぞ」

「アメリカはさておきイギリスなんかは植民地が多いから、戦艦なんかやめて空母と巡洋艦で海軍戦力中核とするだろ?戦艦なんか…」

そこまで言って藤堂たちは言葉を濁す。後に続く言葉はわかっていたのだ

「戦艦なんか、もう何の役にも立たない」

その言葉を隠しつつ、藤堂たちは案をまとめようとしていた。

553 :①:2012/04/15(日) 00:34:59
2.

想定と言葉を念頭に入れつつ、

「たぶん戦艦を作る国はもうない」

という前提の元、それでも生まれてくる不憫な娘のために

  • 各国現有戦力の戦艦を凌駕する主砲と装甲
  • 空母直衛艦として行動できる速力と航続力
  • 上陸作戦時に支援できる指揮通信機能

を最低限守られるべき要求項目としたのだ。これが一つでも欠ければ彼女はすぐに陳腐化してしまうからであった。
これを踏まえて藤堂たち軍令部員が艦の性能を試算してみたが、それでも藤堂たちをうならせる結果が出た

46センチ砲3基9門 最大速力31ノット 航続力18ノットで一万海里
全長298メートル 最大排水量90000トン


「化け物じゃないか…」
「こんなのを空母の直衛の為に使うのか?」
「実用性あるのか?」

思案を元に議論が噴出した。
実用性を考えて砲を減らすとか、速度を落とすとか、装甲を落とすとか様々な案が出されたが、要素を少しでも落とすと空母時代の海軍で彼女が生き残ることが出来ない、中途半端な性能になる。
結局、最終的にはこの案で行こうということになった。

基準排水量:8万5千トン以下
武装:46センチ砲9門以上(51センチ砲でも可)
最高速度:27ノット以上

試算より若干性能を落とした要求項目。
それでも彼女がこの先生き残るには譲れない基本案であった。

「あんなケチの夢幻会が、空母の直衛の為にこんな贅沢な艦を作らせてくれるはずがない。これを贅沢だと言うのなら、俺たちは「もはや海軍の主力は戦艦ではありません。新時代の海軍に戦艦が必要ならこれぐらい贅沢な戦艦が必要です」といってやればいいんだ」

と藤堂の最後の一言で案が決定したのだ。

藤堂もこの言葉の最後につけるべき一言を飲み込んでいた。それは夢幻会との会議で言おうと思ったのだ


「これを認めないというのなら、日本はもはや戦艦を建造すべきではありません」


鉄砲屋が戦艦を否定する。

それは「戦艦」という恐竜が滅ぶ、一つの時代の終わりを告げる言葉なのだ

滅びの言葉を内に秘めて、藤堂たち軍令部員は悲壮な覚悟を持って夢幻会の会議に望んだのだ。

554 :①:2012/04/15(日) 00:35:48
3.

会議の冒頭、軍令部から要求項目の試案が出された。


基準排水量:8万5千トン以下
武装:46センチ砲9門以上(51センチ砲でも可)
最高速度:27ノット以上

会議室がざわめいた。
会議室には様々な人物たちがいる、前線から急遽帰国した士官、工廠から来た技師、艦政本部の設計陣…

みな手元の書類を見ながら口々に小声で話している。

その光景を見ながら藤堂は

(当然だな…)

と思った。空母と潜水艦が新しい女王の座を奪おうとしているのに
老女王が「新しくて大きくて豪華な衣装を頂戴!」
と大声で喚いたのだ。

新時代を迎えようとしている夢幻会の海軍軍人にとっては、それは欧州の古き民話に出てくる女王のように思えるだろう。

「鏡よ、この世で一番強くて美しい女王はだあれ?」

「申し訳ありません女王様、それはもはやあなたではありません…」

鉄砲屋である藤堂たち部員にもわかっていることだったのだ。
いわばこれはセレモニー。
鉄砲屋が戦艦を否定する言葉によって、日本における戦艦の時代は終わるのだ。

(もしかしたら、これも彼らが仕組んだことかもしれないな…)

経済の効率化と政治力の強化によって対米戦を勝利に導いた夢幻会。
彼らはとかく権威主義的で硬直化しやすい日本海軍の思考を、鉄砲屋に自己否定させ、それを生贄にすることによって、新しい時代への幕開けとさせるつもりなのだろう。

もうすぐ戦艦無用の大合唱が始まる。
それは鉄砲屋の藤堂が海軍にとって必要でなくなるときであった。

(俺も親父に習って沖縄で「海の男」を育てるかな…)

そう考えた藤堂の耳に斜め前の士官の一人事が聞こえてくる
名前は確かH造船技官、部内で「夢幻会SS中核メンバー」と噂されている人物だった。何の気なしに藤堂は耳を傾けた

「思ったより難易度が高いな…」


(難易度が高い?どういうことだ?)

そして会議が再開されたとき、藤堂は耳を疑った。

555 :①:2012/04/15(日) 00:37:09
4.

会議が始まって3週間。
会議は紛糾していた。

(日本はもはや戦艦を求めていない?誰が言ったんだ?そうだよ、俺だよ)

藤堂は目の前で展開される会議の内容にあきれて、口も利けなくなっていた。

藤堂たちは初日の会議冒頭、夢幻会から罵倒されると思っていたのだ。

「こんな贅沢な無用の長物は日本に必要ない」

それで会議は終了、ものの十分もかからない会議のはずであった、それなのに…


口火を切ったのはTaという造船少将だった。

基準排水量:7,4000t
全長:273m
全幅:38.9m
速力:30kt
航続距離:16kt/10,000浬(計画値) 18kt/8,000浬(計画値)
武装:45口径460mm三連装砲3基9門

対46センチ砲弾の装甲ではなく、40センチ砲弾防御の、いわば巡洋戦艦のような常識的な案。

しかし、藤堂達の受け取り方は違った。
てっきり戦艦無用論が展開されると思っていたのに、常識的な案を夢幻会が提出してきたということは…

(彼らは…、夢幻会は本気で戦艦を作るつもりか!?)

その思いは次の試案で強化された。
というより、案を発表した独り言を言っていたH造船技官が出してきた案はとんでもないものだった

全長331m
全幅51.5m
基準排水量 12万7400トン
満載排水量 13万9200トン
機関 35万馬力
速力 32.5ノット
主砲 50口径51センチ砲3連装4基12門

藤堂はそれを見たとき、頭がふらついた。
夢幻会は本気で戦艦を作ろうとしているのだ、しかもとんでもない化け物を。


そして2週間、藤堂たち軍令部員は事態の展開についていけなくなっていたのだ

H造船技官が軍令部が求めた要求案に対し仕様を変更した案を出したと思えば、

「ちょっとこんなの考えちゃたんだけど…」

と多連装砲塔航空戦艦の私案を出してくるわ、
S中佐は低コストを歌った「超重装甲型」戦艦を提案してくる。
N造船少将は居住性を重視した案を出してくると思えば、Q造船技師から排水量制限緩和なら66センチ砲・480m・30万トン戦艦を出されたときには

(あの…あなたたち、「恐竜の時代」は終わりかけてるんですが…
 「怪獣」つくってナニするんですか?)

どうやら夢幻会の女王様は若返りと同時に、その巨大な主砲でライバルたちを消してしまうつもりのようであった。

排水量制限緩和によって技官たちはさらに最強戦艦を出してくる
G技官の12万トン戦艦
N技官の12万トン戦艦
NG技官の80センチ砲戦艦…

藤堂はこの会議にあたり、忘れていたことを思い出した。

(ここにいる夢幻会の連中は、あの金田中佐の弟子たちだった…)

「諸君!私は戦艦が大好きだ!」

藤堂たちは大蔵省の官僚たちをうらやんだ。
彼らは一人を相手にしていればよかったが、藤堂たちは何人も相手にしなければならなかったのだ。

藤堂たちは砲の製造技術、軍港の収容能力、工廠の整備力の限界を疑問にする。
彼らは技術陣の暴走を何とか食い止めようとする

会議の初日、鉄砲屋が戦艦の終わりを覚悟していたのに、今では逆に暴走する技術陣に戦艦の時代の終わりを納得させようとしていた。

立場がいつの間にか逆転していたのである

しかし彼らは細かい経済力のデーターや工廠能力を出してきて説明する。
しかも弟子たちは今の海軍だけでなく、将来の海軍の姿を見越して新型戦艦を作ろうとしている。

はるか先まで見越した戦艦計画、それを言われると藤堂たちは黙って聞いているほかなかった。

556 :①:2012/04/15(日) 00:38:04
5.

延々と続く「最強戦艦計画会議」
用兵側が造船側の論理をひたすら聞かされる会議。
これがまだ何日も続き、最終的にどんな戦艦になるのか予想もつかない。

(10万トンを超える戦艦…)

それを考えると、本当に出来るのかという思いと共に、もしそれが本当に出来るのなら指揮してみたいと思うのも鉄砲屋として当然の思いである。


藤堂は熱燗を一杯きゅっと飲んで溜息をついた。
その時、店の戸が開いた。入ってきたのは藤堂と同じ年頃の造船技官だった。
見覚えがあった。確か上司が次々と繰り出してくる最強戦艦計画に工廠の立場から整備に関する厳しい質問を繰り出していた技官だった。

藤堂が会釈をすると技官も会釈した。
ちょうどその時、藤堂の隣の席が空いた。技官は座った。

「ま、どうですかな、一杯」
「これはどうも」

女将からもらった盃に藤堂は熱燗を注いだ

「お互い大変ですな」
「はあ、こちらこそすみません、上司がちょっと暴走気味で…」
「ちょっとですか?あれが」
「今はまだマシですよ」

技官と藤堂はカチンと乾杯すると一気に飲み干した

ハア~とため息をついてお互いの顔を見て笑う

「藤堂明海軍中佐です」
「堀井元夫造船少佐です」

二人は何杯も盃を傾けたのであった、明日の会議に備えて。

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最終更新:2012年07月12日 14:23