805:奥羽人:2025/08/13(水) 18:40:27 HOST:sp49-105-100-195.tck01.spmode.ne.jp
深夜の応接室……窓の外は月の薄明かりが差すばかり。
重たい空気が室内に淀み、煙草の煙がゆるやかに立ち昇っている。
「……やっぱりなあ、色々努力したつもりだったが、結局は軍の暴走に飲み込まれちまった」
ひとりの男がため息混じりに言う。
灰皿に押し付けた煙草の火が微かに赤く揺れた。
「まあ、時代が悪かった……としか言えないな」
別の男が肩をすくめながら、苦笑する。
「そうだよなあ。あれだけ根回ししても、結局、日米開戦は止められそうにない。もう政治的にはどうしようもない」
「開戦が決まった以上、後戻りはできん。やれることをやるしかない……研究開発だな」
静かな声で誰かが言う。
「まあ、我々の得意分野だ。金と技術でなんとか、敵を押し返せるモノを生み出すしかないわけだ」
部屋の空気は重いが、どこか達観したような諦めが漂う。
男たちは互いに顔を見合わせて、苦笑混じりに頷いた。
「…やれやれ、歴史はもう動き出した。俺たちは自分の土俵で、せいぜい悪あがきをするしかない」
北太平洋の冬の風が、甲板を駆け抜けていく。
空はまだ暗く月明かりを湛え、水平線は冷たい金属のように重く佇んでいた。
第一航空艦隊の空母群は、規律正しく並びながら波を切り裂き、ひたすら所定の海域へと進む。
「発艦!」
甲板上の作業員が腕を振り下ろすと、艦首側の新鋭戦闘機……零式艦戦が甲高い咆哮を上げた。
次の瞬間、発艦用カタパルトが解き放たれ、機体は風を切って走り出す。
甲板の端に差しかかる一瞬、機が少しばかり沈んだ後、一気に上昇へと転じながら空へと舞い上がった。
「行ったな……」
艦橋の観測所で、双眼鏡を握りしめた士官が呟く。
その視線の先では、二機、三機と連なりながら、編隊が次々と艦隊の道筋を離れ、暗い空の中へ消えていく。
彼らの機体は、ここ数年で造られた中でも最新のものだった。
零式艦上戦闘機………航続距離、速度、上昇力、どれを取っても敵国の艦上戦闘機を凌駕する。
艦隊に配備されたときから、操縦する者も、整備する者も、口を揃えてこう言った。
「これがあれば、負ける道理はない」と。
隣に立つ参謀が、双眼鏡を下ろして小さく笑みを浮かべる。
「敵の航空兵力は旧式だ。迎撃機が間に合ったとしても、あの機体なら余裕で切り抜けられる。しかも今日は、奴らが一番油断している時刻だ」
甲板では、次の攻撃隊のために整備員たちが忙しく動き回っていた。
着慣れた防寒衣の下で、彼らの表情には不安よりも自信が滲んでいる。
自分たちが支えているのは、帝国海軍の中核を担う新鋭機であり、それが今まさに歴史を動かす一撃を放とうとしているのだという誇りが、彼らを突き動かしていた。
発艦音が途切れ、風と波の音だけが残る。遠く、小さくなった編隊は朝の空を渡り、やがて視界から消えていった。
「……勝てよ」
誰かが呟く。
艦橋の中には、確信めいた静かな雰囲気が広がっていた。
806:奥羽人:2025/08/13(水) 18:42:33 HOST:sp49-105-100-195.tck01.spmode.ne.jp
編隊は暗い大平洋の上空を滑るように進んでいた。
じゃじゃ馬とも評されるエンジンの唸りは機体全体を震わせ、操縦桿を握る手にまで伝わってくる。
冬の冷気はキャノピーの隙間から容赦なく入り込んでくるが、厚手の飛行服と胸に溜まる熱がそれを感じさせなかった。
機の計器盤は安定そのもの。
油温も回転数も、訓練時の理想値を示している。
この機体なら、たとえ敵の迎撃があったとしても、負ける理由はない……誰もがそう信じていた。
海上には島影ひとつなく、ただひたすら紺碧の水面が広がっている。
時折、波間がきらりと光り、編隊の機影を反射しては通り過ぎていった。
パイロットたちは計画を反芻し、攻撃の順序を頭の中で何度もなぞる。
奇襲が成功すれば、敵艦隊は一撃で沈黙する。
そして、その瞬間から、この戦争は帝国のものになる。
いや、そうならなければいけないのだ。
1941年11月26日、日中戦争を巡るゴタゴタの末、米国務長官ハルは暫定協定案を放棄しハル・ノートを作成、同日野村・来栖両大使へ手交。
日本はこれを最後通牒と解し、米国は近日中の対日開戦を狙っていると判断。
ならば、先制奇襲による優位を取るべきとの理論から、日本政府および軍は対米開戦を決意した。
【零式艦上戦闘機】
全長:10.15 m
全幅 :11.50 m
戦闘重量:6500 kg
動力:「栄」ターボプロップエンジン(3500hp)
最大速度:750 km/h
航続距離:2500 km
実用上昇限度:13,000 m
固定武装:20mm機関砲 4門
搭載量:爆弾、ロケットなど1500kgまで
【九九式艦上攻撃機】
全長:11.85 m
全幅 :15.25 m
戦闘重量:8500 kg
動力:「栄」ターボプロップエンジン(3500hp)
最大速度:580 km/h
航続距離:3000 km
固定武装:20mm機関砲 4門
搭載量:爆弾、ロケット、魚雷など計3800kg
807:奥羽人:2025/08/13(水) 18:44:48 HOST:sp49-105-100-195.tck01.spmode.ne.jp
以上となります。転載大丈夫です。
以前投稿した、軍政系に弱い
夢幻会の続きです。
出来ることといえば高性能な物を作ることですが、それがかえって軍と政府の自信を深めるという…
最終更新:2026年04月19日 21:42