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843 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/12/07(日) 22:36:35 ID:sp49-109-143-168.tck02.spmode.ne.jp [3/6]

日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「欧州飛行事始」


 アルビオンのリ・レコンギスタを逃れた欧州諸国に飛行船と航空機が持ち込まれたのは、必然だった。
クリミア戦争においてロシア帝国軍がそれらを組織的に運用し、アルビオンに痛手を負わせたのだから。
特にアルビオンの航空艦を撃沈せしめ、さらにはアルビオンのお株といえた航空攻撃を実現したのが大きい。
これまでに空を飛ぶにはよくて気球が限界であり、その性能はケイバーライトによる航空艦とは比較にならないほど低かった。
まあ、これは飛行というものを試み始めたころに当然通過するものであって、決して悪いことではない。
むしろケイバーライト機関による飛行が無法すぎるだけであり、一足飛びすぎるのだ。

 ともあれ、欧州諸国はロシアに負けるなと、大日本帝国から輸出された飛行船や航空機に飛びついたのである。
これがあればアルビオンの航空艦に対してこれまでの兵器以上の抑止力を持てるわけだから、当然だ。
これまでの兵器とは比較にならないのは実証済み。あとは研鑽をすることで忌々しい船を落とせるのだ。
 あるいは、各国は最悪の事態に備えていたと言えるかもしれない。
 つまり、オーバーホライゾン作戦の時のように航空艦の長距離侵攻によって政治的中枢を吹っ飛ばされる可能性を考慮して、
その際に「前方への脱出」として、アルビオンを道連れにするか、一矢報いる手段を求めていたのである。
この時代、航空艦を除けば敵国を直接攻撃する手段は海軍の艦隊であるが、どうしてもアルビオンには勝てない。
海軍力という意味もそうであるが、海上艦艇では要衝を抑えるアルビオンに刃を突き立てるには不利であったのだ。
その点で言えば、飛行船ならば最短ルートで突っ走れるわけで、突き刺さる可能性は海上艦艇よりも高かった。


 同時に、各国が手に入れたのはこれまではアルビオンが独占していた空の航路、空運だった。
空路による輸送は地形や河川や海といった他の輸送手段では足止めや迂回を余儀なくされる要素を無視できる。
自分の位置を観測して航路を決定する航法技術があるならば、理論的に最短距離を突っ走ってしまえるのだ。
無論、気象や気候という問題は付きまとうし、空を行く航法技術に関しては蓄積が必須。
それを差し引いたとしても、最終的には帳簿を黒くできるのだったら安すぎる出費であった。
 そういうわけで、ポーランドやドイツ帝国、その他中央アジア諸国は積極的にこれを輸入していった。
これにはアルビオンの影響をもろに受ける立場のはずのオスマン帝国や北欧諸国などもこれに続いていく。

 何しろアルビオンは航空艦を融通してくれない。航空艦は常にアルビオンの国家の目の届く範囲でしか運用されていない。
同盟国や植民地などでは航空艦はもちろん活動していたのだが、それだって国営かそれに準ずる勅許会社にしか許されない特権だった。
その為、金はふんだくられるくせにサービスなどは発展していないという、利用する側からすれば色々と不満の残る有様だったのだ。
まあ、これは無理からぬ話である。何しろ、希少なケイバーライトを奪われては困るという安全保障上の問題につながるのだ。
相手が仮想敵国であるというならば、それに備えて常にアドバンテージや主導権を握ろうとするのは間違いではない。
国家というのは早々に相手に気を許してはならないので、むしろ覇権国家としては正しい。

844 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/12/07(日) 22:37:33 ID:sp49-109-143-168.tck02.spmode.ne.jp [4/6]

 だが、アルビオンを恐怖させたのは、航空戦力が売りに出されたということ以外にもあった。
 大日本帝国が飛行船などとともに、自国で運用していたルールや規則を輸出したという点だ。
 つまり、これまではアルビオンが我を通していたところに大日本帝国の息がかかった規範が広まるということ。
ルール・アルビオンという牙城にして覇権が崩されてしまうことに他ならないわけである。
希少な空運を担う航空艦を独占し、それによって競争力を得ているのだから、その価値そのものを崩されてはたまらない。
アルビオンの言葉と都合と意志が優先されていたのに、アルビオンが各国に枷をはめていたのに、抜け出されるのだ。

 圧をかけようとはしたのだが、市場というのは正直なもの。
大日本帝国および大東洋同盟という経済圏で、激しい競争を経て磨かれたきめ細かなサービスと、多くの事故から得られた教訓を得て、
安全性などが向上した飛行船と共にアルビオンの勢力圏を席巻し、遅きに失したアルビオンの空運における覇権を脆くも打ち破った。
ケイバーライトよりも安いヘリウムガスを使い、あるいは最適化を模索し続けたことにより無駄を削減した故の値段の安さ。
貨客船として快適に過ごせるようにと様々な設備を取り入れて、不便で制約の多いアルビオンの航空艦より優れた内装。
何よりも、アルビオンの影響を脱することができるという途方もなく大きい。少なくとも、自国の富がアルビオンに吸われる割合を下げられる。
同盟国や影響下にあったはずの国が飛びついてしまうのも無理からぬ話であった。
そうやって気持ちよく金を落とせるほうに人は靡くものだ。アルビオンの権威を押し出したところで、目の前の利益を消せるわけがない。

 アルビオン側にいた頑固な、あるいは旧態依然とした体制を墨守しようとした派閥に精神的な止めを刺したのは、皮肉にもアルビオン自身だった。
覇権国家の片割れが送り出したとはいえ、既に普及してしまったルールに従わないと、不利益を被る側になってしまったのだ。
アルビオンが作り上げた覇権の本質は空運と海運の掌握による物流網の掌握にある。
逆に言うならば、覇権を維持するためにはそれらを切り捨てることはできず、ともすれば振り回される側になるのだ。
覇権を人質に取られて経済の側に好き勝手にされる、と表現してもいいだろう。経済についての理解や議論や学問の発達が遅いアルビオンは、
その視点を持つことができないがために、訳も分からないままに翻弄されたとも。
 斯くして、覇権を維持するためにもアルビオンは大日本帝国との妥協を選ばざるを得なかったのだった。
航空についてのルールや規範について、国家の垣根を超えた共通化とすり合わせを行い、共同歩調を歩んだのだ。

 とはいえ、後世の後知恵にはなるのだが、少なからずアルビオンの性急な行動を後押ししたとされる。
なまじ先鋭化さえもしていたアルビオンにおいて、妥協などというのは到底許されないモノ。それを糊塗するためにも、
あるいは大日本帝国の影響を断ち自国の影響を増すためにも、何か勝利を得なくてはならない---アルビオンは焦りを抱えていた。

 そんなアルビオンをよそに、各国は空への切符を手に入れ、これまでの鬱憤を晴らすように突き進んでいった。
 直接武器を持ってあらそう戦争ではない、国力と技術と知恵によって繰り広げられる、静かで、それでいて苛烈な競争が始まったのだ。

845 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2025/12/07(日) 22:39:43 ID:sp49-109-143-168.tck02.spmode.ne.jp [5/6]

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クリミア戦争で「ケイバーライトに依存しない飛行」が実証されてしまったがために、
アルビオンは後手を掴まされました。実質的な敗戦も影響していますね。
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最終更新:2026年05月18日 19:26