920 :2号:2012/04/15(日) 16:00:37



「三菱の社長さんずいぶん寄付したって?」
「ああ、社内にも有志の寄付を募る御触れを出して募金箱設置したってテレビで言ってた。ほら今も」


そう言って青年が指差した街頭テレビには「〇〇〇〇円を寄付した三菱の・・・」というキャスターが映っていた。


「・・・全国で一斉に受付開始って。海軍さんはずいぶん気合が入ってるんだな」
「募金の集まり次第では主砲やなんかの規模が大きくなるらしいからな。
 俺もちょっとだけ寄付してきたよ【戦艦募金】」



戦艦大和に関するある話




 連続した災害の復興も一段落がついた頃、
海軍と大蔵省主催で全国の銀行、郵便局に様々な数字の並んだ電光掲示板と募金箱が設置された。

【新型戦艦建造に善意のご協力をお願いします】

 そんな大段幕と共に設置されたパンフレットには現在から未来の国際状況の予測、
それによる新型の大戦艦の必要性を説く内容が書かれており、
建造のための資金の足しにする為の寄付を呼びかける物だった。

 この頃の帝国海軍は頭を抱えていた。
ただでさえ縮小される海軍なので、できる限り予算を節約したい・・・なのに新型戦艦の建造が決定した。

予算の工面に涙ぐましい努力をしている頃に夢幻会の会合で某人がこう言ったのだ、「私にいい考えがある」

921 :2号:2012/04/15(日) 16:01:14


 大々的に国民に寄付を募る。

 一言で言ってしまえばこれだけだったが彼は悪辣だった。
大小様々な方法を取り混ぜたものだった。


小は人を使った募金活動だ。

 ただし小、中学生など子供をボランティアで動員し駅や商店街で「一厘だけでいいから」と声を懸けさせてのもの。
得られた募金は生徒会で集計して校長に預けさせ、校長と生徒会長が一緒に募金所に来るように全国の校長に要請。
もちろん無理強いは反発を招くからしない。


大は企業や個人の名誉欲や自尊心をくすぐる。

 各設置場所に付属するような形で寄付金詳細状況という金額を表示した電光掲示板を設置。
その掲示板の横には企業名、個人名という欄があり上位10組までの名前が細長い黒板にチョークで書かれており、
どこの企業、個人がいくら寄付したかが一目でわかるようになっている。

 さらに冒頭にもあったように有名人による寄付などをテレビやラジオで全国に放送する体制をとる事で、
企業の宣伝にもなると競争心を煽り、寄付合戦を起こす事も忘れない。



 この他にも完成式典の際、上位10組を招待し甲板に限定しての試乗やその場での嶋田との話す機会の提供。
46センチ砲から果ては80センチ砲までどれだけ寄付が集まれば可能か?
船体の規模や機能がどれだけの資金があればどのくらい強化できるかをパンフレットで提示。
寄付金合計が表示された掲示板を見ながら妄想する楽しみを提供するなど。


 これに良識派も眉をしかめたが将来のインターネットなどを見据えた全国規模での情報共有体制の構築など、
公共インフラへの投資による経済の更なる活性化などの利益から最終的には了承。

 大蔵省からの提案という事にして海軍へ伝達。
海軍も建造費の圧縮の為に大蔵省の提案に飛びついた。

922 :2号:2012/04/15(日) 16:02:04


かくして【戦艦募金】と民間で言われる活動が開始された。

 死期を悟った老い先短い老人が御国の為にと寄付した、
なけなしのおこずかいを持った少年が強い戦艦を作って欲しいと寄付したなどの美談をもたらしつつ、
日本列島改造計画と連動した公共インフラへのさらなる投資は国内経済を活性化させた。

 事前に震災の際などに現地に急行した長門の甲板などを緊急開放して救援活動を行っていた事が報道されていた事もあり、
寄付金は当初予想よりも多く、企画した側も驚くほどになって大蔵省の大臣に高笑いさせ、嶋田を苦笑させる事になる。


おわり

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最終更新:2012年04月26日 16:43