112 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/09(金) 19:03:09 ID:sp49-109-143-15.tck02.spmode.ne.jp [3/30]
憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 欠けた虹の橋」
- 惑星2113 現地時間西暦2113年8月 日本 東京都 某所
慎導篤志は表の身分でも裏の身分でも、多忙を極めていた。
彼は厚生省大臣官房統計本部長という地位にあり、昨今の政治問題において大きく関わっている。
厚生省内での仕事はもちろんのこと、色相が濁りにくい適格者たちを率いて外務省に出向して外交を担当させ、
その管理監督を行い、外務省に仕事の報告をしつつ、せっついてくる厚生省にも報告を済ませる。
更にはシュビラシステムそのもの---構成員達が求めることも合わせて報告しなくてはならない。
簡単にいえば、タスクがあまりにも多い。殺人的と言っていいほどだ。
同時に、多くの人間と権力が絡むからこそ、利益をめぐる諍いは絶えないし、省庁間での縄張り争いに鞘当てが何度も発生する。
それへの対処を行うために上に立つ人間であるが篤志が奔走する羽目になる。
篤志は優れたメンタリストでもあるので、誰もが己の仕事を行おうとしているのは察することはできた。
多くの人間と接する分、その行動と精神を分析することができるので、嫌でも理解できる。
だが、同時に未知の状況に放り込まれ、情報の嵐を叩きつけられるからこそ、依って立つ土台を揺るがされて、
どうしようもないほどに不安が高まっていることもわかってしまう。誰もがどうするべきかを見失いそうで、必死に何かにしがみつこうとするのだ。
そのストレスから他者に対して攻撃的になったり、あるいは自己を攻撃してしまうような、そんな状況に陥っている。
総じてメンタルが不安定で日常的な仕事にさえも支障をきたしている有様だ。
統率者であり管理者の自分が気を回していなければ早晩に今の体制は破綻していただろうという予感がある。
(私も若くはないか……)
そして、その負担は篤志にものしかかる。
激務に晒されれば、負担は肉体と精神に来るわけで、特に年を取って弱る体は悲鳴を上げている。
(それに……)
篤志は普段使いとは別の端末---インスペクターに与えられる端末を入れたポケットに目をやり、ため息をつく。
そこにある端末、そしてそこからつながる先にいるビフロストとその関係者こそが、今の状況の元凶であった。
裏の顔としてのビフロストのインスペクターというのも、彼が多忙な理由の一つだ。
表の顔である厚生省大臣官房統計本部長という地位で得られた情報を適宜コングレスマンの法斑劫一郎や他のインスペクターに報告し、
ゲームにかかわる重要なやり取りを行い、自分の要望や希望を通せるようにと努力を重ねている。
彼の目的---国内情勢を安定化させて外国人受け入れを拡張し、息子やその親友とその妻を受け入れられるようにする---ためにはビフロストの力が必要だった。
その為にならば多くのことをしてきたし、多くの人間をサイキックドライビングとメンタルトレースで操って、時には破滅させてもいた。
113 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/09(金) 19:03:51 ID:sp49-109-143-15.tck02.spmode.ne.jp [4/30]
けれども、ビフロストのコングレスマンでさえ、昨今の情勢は急変しすぎて、変数があまりにも未知数であるために、
対処能力が追いついていない状況だ。はっきり言ってしまえば用をなしていない。
3人のコングレスマンの意志はまさしく朝令暮改の有様。地球連合から得た情報によってこの惑星の放棄が決定的になったことで、
エクソダスに向けた準備と、新天地で如何に自分たちの利権や権力を守るかに比重が置かれ、混迷しているのだ。
必然的にコングレスマンから指示を受けるインスペクターは右往左往する指示を受ける。結果は御覧の有様だ。
あまりにも無意味だったり場当たり的過ぎる指示が飛んできて、殺意が湧いてしまったのも一度や二度ではない。
(全く……さて、時間だな)
その時、定時となったことで端末が秘匿回線でコングレスマンの法斑劫一郎とつながる。
定時の連絡、それは地球連合との外交についての報告だ。
『私だ。懸案事項はどうなった?』
せき込む声とともに聞こえてくる声に、篤志は努めて冷静さを取り繕いながら報告する。
「概ね予想通りです。とはいえ、あちらにかなえてもらえる要望にはやはり限度が伴うそうですよ」
だから、と念を押すように伝える。
「シュビラシステムの監視網の隙間、それを維持する方に注力をした方がいいでしょう。
エクソダス後に日本が入植する予定の土地についての情報はお送りした通りで、そちらに入り込む余地が大きいですから」
『……エクソダス事業に関してもか?』
「そちらは芳しくありませんね。入植にあたってはある程度の精査を地球連合の側も行いたいとのことです。
きちんとしたロンダリングを行わなくては、ビフロストの存在がばれてしまいますよ」
『機密として押し通すことは不可能だと?』
「ええ」
以前から散々警告したのに、この始末とは。思わず口にせり上がる舌打ちを飲み込む。
そも、コングレスマン達あるいは自分以外のインスペクターも、地球連合がくみしやすい相手だと勘違いしているのだ。
地球連合がこちらの目線まで下りてきているからこそ対話が成り立ち、話し合いによって理性的に行動できているだけであって、
決してこちら側の持つポテンシャルが上昇したわけでも、相手が弱いわけでもないのだ。迂闊な行動をすれば、危うくなるのはこちらの立場と未来だ。
そうでもなければ、日本国民を人質にして利益を引き出せ、などという指示は来ないはずなのだ。
いかに自分の立場と職権と能力があっても、出来ることとできないことはある。そんな要望を伝えるなど不可能でしかない。
それに、と篤志は付け加える。
114 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/09(金) 19:04:32 ID:sp49-109-143-15.tck02.spmode.ne.jp [5/30]
「地球連合が言っているように、エクソダスによって疫病や感染症などが持ち込まれ、
パンデミックを起こす可能性がある。
そのためには消毒・滅菌などが行われていないところは限りなく0にしなくてはならない。
エクソダス完了後にも、入植する土地に存在する病気へのワクチン接種などもあるのですから、例外を設け過ぎれば、待つのは国家全体の破滅ですよ」
これに関しては厚生省もその必要性を認めているところだ。むしろ本分であるから、かなり敏感になっている。
厚生省が権力を握れているのも、偏に国民に揺りかごから墓場まで健康で快適な生活を提供するという建前もあってのこと。
下手に伝染病などが流行れば、あるいはその噂が蔓延してしまえば、発生するのはパニックやサイコハザードだ。
サイコパスを偽装するヘルメットによって発生した大災害の比ではない地獄が現出することだろう。
あれはまだヘルメットをしているかしていないか、というもので区別ができるから抑制されていたくらいだ。
目に見えない感染症となれば、今度こそ際限なくサイコハザードが広まり、暴力が連鎖する。
「そも、ビフロストも、ラウンドロビンも役割は本来は終えていて、存在していないシステムです。
裏での動きを不審がられて踏み込まれたら、どうしようもないのはこちら側。
下手に政治ゲームを仕掛けて襤褸を出すよりも、存続をする方に力を割くべきでしょう」
『それを利用しているお前に言えたことではないだろうに』
篤志は劫一郎の言葉に肩を大仰にすくめてみせるしかない。
「お互い様でしょう。
ですが、地球連合は、ワープによる恒星間航行を行える技術と宇宙怪獣との生存競争をできる武力を持ち、それを支える国力を持つ。
政治力も素晴らしく、総じて国力はこの地球の上にとどまる日本どころの話ではない。
そんな相手にこちらのルールを押し付けて利益を得ようと考える方が烏滸がましいものですよ。
天地をひっくり返そうとするのに匹敵する愚かさです」
『お前も存外に頑固だな』
「事実を言っているまでです。地球連合の理性とこちらへの信頼と善意だけが我々のザイル。
それを自分から切ろうとするなど、自殺願望者か狂人の行動でしかない」
それとも、ともったいつけて問いかけた。
115 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/09(金) 19:05:16 ID:sp49-109-143-15.tck02.spmode.ne.jp [6/30]
「他のインスペクターの言葉の方が耳障りが良かったと?」
『それはお前に関係のないことだ。分をわきまえろ』
「……それは失礼しました」
口では謝罪するが、篤志は劫一郎の言葉に滲んだ焦りを見逃さない。
図星なのだろう。ビフロストの存続さえも関わる一大事だからこそ、コングレスマン達は楽観的な予測に飛びつきたくなっている。
そんな耳障りのいい言葉を並べ立てそうなインスペクターには心当たりがあるくらいだ。
だが、その楽観的な行動の結果に引きずられて破滅するかもしれないと思うと、冗談では済まない。
まだ安全なところでゲームをしている感覚だというならば、その認識はさっさと捨ててしまうべきなのだ。
「ですが、迂闊な行動で火傷をするのはご免です。
そうならないために私が情報を集めて報告しているのですから、賢明な判断を」
『わかっている……切るぞ』
そして、病を患う老人との会話は終わった。
劫一郎がどこまで真剣であるか怪しいというのが見立てだ。他のコングレスマンもまだ浮かれているかもしれない。
現状維持と権力闘争に固執してしまう背景を持っているからとはいえ、些か以上にのめり込み過ぎではないかとさえ思うほどに。
「……いや、泥船にしがみついているのは私も同じか」
そう自嘲してしまう。
ともすれば、ビフロストもラウンドロビンも新天地に逃げ出せないか、あるいは逃げ出した拍子に露見する可能性もある。
あるいは判断を誤ったことで地球連合の怒りを買ってしまう可能性さえも。そうなれば、自分とて無事では済まない。
そうだと分かっていても、今の権力と地位を手放すことができないのだから、自分も他人を笑えないのだ。
だけれども、今はまだ終われない。息子とその親友のために。あるいは自分の親友とその娘のためにも。
彼ら彼女らがせめて安全にエクソダスを行い、平穏無事に過ごしていけるような道筋を作らねば、おちおち死んでいられないのだから。
その為ならば、もう少し無理もできそうな、そんな気がしたのだ。
116 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/09(金) 19:06:09 ID:sp49-109-143-15.tck02.spmode.ne.jp [7/30]
以上、wiki転載はご自由に。
久しぶりにPPのSSを。
前々から劇場版とかを見直していたのでかけました。
最終更新:2026年06月23日 17:07