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749 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/17(土) 20:06:06 ID:sp49-109-140-251.tck02.spmode.ne.jp [1/6]


憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 欠けた虹の橋」2


  • 惑星2113 現地時間西暦2113年 日本 東京都 公安局ビル 局長執務室


「君に、極秘捜査を頼みたい」

 公安局に戻ってきた朱に呼び出しを行った禾生壌宗---の姿を借りたシュビラはそのように依頼してきた。
 朱としては、かなり急な用件であり、そして予想外もいいところであった。
 警戒を強めてしまった朱に、シュビラは粛々と様事の経緯を説明する。

「これは地球連合からの依頼でもあるのだが……日本国内から地球連合の外交使節艦に対して不正アクセスが多数確認されている」
「不正アクセス?」

 ああ、とシュビラは頷く。

「知っての通り、出島に来航した地球連合の外交使節艦は、こちらのネットワークインフラを間借りする形で、こちらとの情報のやり取りをしている。
 正確には、あちらの外交使節艦に備えられたエミュレーターサーバーを介し、出島のインフラを経由している」
「確かにそう聞いているわね」
「こちらとの通信規格や規模の差、あるいは情報の漏洩などを防止するためのエミュレーターサーバーだが、
 念のため、その外側にこちらでファイヤーウォールを設置し、それでもアクセスすれば検知できる仕組みを作り、
 不正なアクセスなどを阻止する形をとっている。これは地球連合側の合意も取った上での処置だ」
「……でも、不正にアクセスがあったと?」
「そうだ。具体的にどこからかは地球連合も把握していないが、ファイヤーウォールを飛び越え、アクセスがサーバーで弾かれている」
「回線の混同や不具合の可能性はないの?」
「一応は調べたが、その可能性は極々低い。そもそも、出島とつながる外務省の専用回線を間借りさせているわけで、
 民間とはそもそもが分離されている。物理的な回線の時点で既に別だ。
 だというのに突然つながって、アクセスをされてしまっているのだ」

 思った以上に厄介だ、と朱は思わず手で目を覆ってしまう。
 言うなれば、ネットワーク上における侵入罪であり、ハッキング。犯罪を見過ごしていたというのは、
公安局を抱える厚生省にとって体裁が悪すぎる。早急に対応し、犯人を特定しなくては示しがつかない。
 同時に、回線を管轄しているであろう外務省の問題にもなる案件だ。政府専用の回線さえも侵入されたというのは内外でも問題になる。
突然回線がつながったということは、そこまで物理的に侵入されて工作されたということでもあるから、本当に大問題だ。
 とどめに、これは外交上の問題になるということが朱には分かった。外交艦はその特性上、旧世紀の大使館などと同じく治外法権の認められた地域だ。
既に形骸化していた制度を引っ張ってきて体裁を整えているというのに、それを侵犯するなどとんでもない大罪だ。
地球連合の権利を侵害することでもあるため、それこそホストである日本の責任が追及されるわけでもある。

750 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/17(土) 20:06:50 ID:sp49-109-140-251.tck02.spmode.ne.jp [2/6]

「……なるほど、極秘捜査になるわけね」
「理解が早くて助かるよ」

 禾生壌宗を操るシュビラの一員の声がつかれているような。
 それは一瞬間のことで、朱でさえも思わず見逃しそうな、そんなわずかな変化。
 戸惑う朱を咳払い一つで現実に引き戻し、シュビラは続けた。

「知っての通り、地球連合はこちらへの内政干渉を極力減らしたりとのことだ。
 エクソダスをするという時点で今更ではあるが、それでも建前は守りたいとな。
 我々としても、その要望の通りにしたい」
「……それで、捜査にどれだけの協力が得られるの?」
「一時的ではあるが、公安局局長名義のアクセス権を付与する。
 また、調査にあたっての表向きの理由はこちらでいくらでもでっちあげるので、必要なら連絡を入れてくれ。
 外務省の方にも許可を取り付けているので、あちらからの横やりはない。存分にやってほしい」

 なんとも至れり尽くせり。
 だが、それだけの権限を与えないと捜査さえできない案件なのは確かだ。
 同時に、この権限の付与が意味するところを察する。

「極秘捜査ということは、やはり執行官は動かせないのかしら?」
「できれば避けてほしい。ことは秘密裏に終わらせたい。
 分析官ならば動かしてもいいだろうが……くれぐれも内密にな」

 やはり、本当に単独での極秘捜査だ。人手を出せない分、権限を大きくしてスムーズにいくようにという考えか。
 それでも分析室の力を借りれるならば、百人力ではある。分析室で何をしたのかのログを残さないようにする方法も考えるか相談しなくてはならないが、
そこについては専門家である分析官の唐之森志恩を頼ることができるだろう。
 あとは、と朱は付け加えることにした。

「雑賀教授の力も借りるわ。これだけのことを秘密にできる相手でもないのだし、知識のある人間が必要よ」
「許可するが、分析官共々、口外しないように釘を刺しておいてほしい。
 秘密にする意味がなくなってしまうからな」
「そういうことをする人じゃないけど……一応ね」
「わかっているならばいい。
 建前的には、潜在犯をこの手の機密に関わらせられないのだからな」
「潜在犯でもいなくては成り立たないでしょう?」
「だから建前的には、と言っている」

751 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/17(土) 20:07:32 ID:sp49-109-140-251.tck02.spmode.ne.jp [3/6]

 後は資料を、と紙の束をドローンによって渡された。
 ご丁寧に、物理的な鍵を複数かけられる、外部から中が見えないケースまでついて来ている。

「手書きではないが、スタンドアロンの端末で印字し、印刷した。
 他人に閲覧されないようにしてくれたまえ」
「データでは漏洩する可能性もあるから、ということね」
「……ああ。政府の回線にさえも潜り込んでくるならば、もはや安全な場所はオフライン環境しかない。
 我々とやり取りが必要な時は直接ここに来てほしい。口頭でのやり取りのみで機密を守りたい」

 一つ気になることといえば、シュビラとここにいる構成員とのやり取りだ。
脳味噌は交代で禾生壌宗の役目を熟しているが、通常時は通信でやり取りをしていた筈だ。
うっかりでも回線に内容を乗せてしまえば、傍受や盗聴の可能性もあるというのに。

「貴方たちは大丈夫なの?」
「手間だが、本件にかかわる情報のやり取りは、通信によるやり取りは行わないことにした。
 やるとしても、物理的な手紙を運ぶか、交代を頻繁に行うことで代替とする形だな」
「手紙……アナログね」

 こともなげに言うシュビラに、朱は呆れを隠せなかった。
 だが、それ以上に安全な方法がないのも事実だ。アナログな手段は、そうであるがゆえにハッキングものぞき見も難しいのだ。
勿論、カメラや録音機によって覗かれる可能性が全くの0ではないのだが、そちらの方は対策のしようがあるのだ。
 ともあれ、とシュビラは仕切り直す。

「分かっていると思うが、これは地球連合の外交特権の侵害にまで及ぶ可能性の事案だ。
 外交がここで途絶える可能性はないだろうが、それでもここで失点してはエクソダス後が怖くなる。
 この国の未来は君にかかっている、頼んだよ」
「言われるまでもないわ」

 朱はそう言い切ったが、内心としては冷や汗ものだ。
 槙島の事件を追いかけていた時以上の危機が目の前にある。
食料がどうとか、暴動が起きるとか、サイコハザードというレベルではない。
時間がかかり過ぎればエクソダスの未実行につながるのだ。その果てに待つのは宇宙怪獣の襲来による破滅と死だ。
その事実が、どうしようもないほど朱の心と体を突き動かしていた。

752 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/17(土) 20:08:27 ID:sp49-109-140-251.tck02.spmode.ne.jp [4/6]

  • 公安局ビル 屋上


「なるほど、だから俺をここまで連れ出してきたわけだ」
「すいません……こうでもしないと、ちょっと不安で」
「いや、正しい判断だ。
 秘匿性の高いであろう政府の専用回線まで乗り込まれるなら、ここ(公安局)だって安全じゃない。
 壁に耳あり障子に目ありと警戒するのは正しいさ」

 朱は真っ先に雑賀を呼び出し、安全と思われる場所で顔を合わせていた。
念のため盗み聞きのための機械が周囲にないことも確認しており、ようやく喋ることができるのだ。
雑賀の側も、自分を呼び出す朱の声が尋常ではないことを察し、すぐさま行動に移した。
頼ってくれてうれしく思いつつも、彼女にのしかかっている責務の重さに雑賀は思うところがあったのだ。
為しうるからといって、誰か一人に何もかもを擦り付けていいわけがなく、それを恥じないでいられるほど雑賀は楽天家でもない。

「それに、頼ってくれてうれしいよ。
 君にばかり任せきりは流石に心が痛むよ」
「はい……また、頼らせていただきます」

 ともあれ、と雑賀は時計をちらりと見たうえで、提案する。

「まずは飯にしよう。
 考えをするためには、まずは腹を満たさないとな」
「……あっ」

 その時、ようやく朱は時間を思い出し、また、腹が空いていることを自覚する。
 忙しさが途方もなく、また各所を移動をし、仕事を次々と熟すあまり、余裕がなかったのだ。

「君はまじめで、とても優秀な教え子だ。
 だが、無理はいけない。自分を大切にな」
「わ、私……」
「おっと、謝らなくていい。陥りがちなことだからな。もっと別な言葉が聞きたい」
「……ありがとうございます、先生」
「上出来だ」

 それを待っていたんだ、とほめると、肩を叩いて屋上の出入り口の方へと促す。
身を粉にし過ぎなのだから、誰かが本当に労わってやらなくてはならない。
本当なら、これほどの重責を担う彼女には誰かが傍らで共に戦い、共に悩み、時に励まし、時に守ってやる必要があるのだ。
それこそ、為しうる誰かが為さねばならない仕事だというのに、誰もやろうとしていない。
いや、彼女には本来いたのだ。その人間は、今となっては鎖を引きちぎって飛び出し、遥か遠くにいる。

(狡噛、お前は今どこにいるんだ……)

 国外にいるであろう狡噛に内心呼びかけてしまう程度には、朱にとって必要だったのだ。
 少なくとも、熱意と行動力で朱についていくことはもちろん引っ張っていくことができるのは、彼女に同じくらいの若さと情熱のある狡噛だった。
自分のところに朱を連れてきた時の様子、逃亡してきた狡噛から伝え聞いた話、そしてこれまで常守朱という人間を見てきたからこそ言える。
歳をとり、世を捨てて隠居を気取っていた自分などでは相手は務まらない。
 あるいは、彼女と同じように熱意と行動力と人間性を備えた誰かがいればいい。彼女の負担を減らしてくれる可能性が高いのだし。

(そうでなくては、彼女が潰れてしまう)

 そんな未来がありそうで、あまりにも恐ろしい。
 真面目な人間ほど、責務を抱え込んで、どうしようもなくなって、潰れてしまう。
そうなったときに起こるのは、この国の破滅だ。本当にそれだけは回避しなくてはならない。
いや、これから先を考えれば、彼女を支えられる誰かがいた方がいいに決まっているのに。

(歯がゆい……)

 許せないのは、国か、システムか、それとも自分なのか---答えは出せそうにない。

753 名前:弥次郎[sage] 投稿日:2026/01/17(土) 20:09:02 ID:sp49-109-140-251.tck02.spmode.ne.jp [5/6]

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ちょっとエクソダス前の事件を少し。
困ったことに火遊びする人がいるから是非もなし。
そのせいで朱ちゃんが激務です。
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最終更新:2026年06月23日 17:33