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78:弥次郎:2026/01/21(水) 23:47:02 HOST:sp49-109-142-201.tck02.spmode.ne.jp

憂鬱SRW 融合惑星編「The Hound Dog in Megapolis」SS「前日譚 欠けた虹の橋」3


  • 惑星2113 現地時間西暦2113年 日本 東京都 公安局ビル 分析室


 朱が食事をとり、休息をとった上で、外交艦ハッキング事件に対する極秘捜査は開始された。
 まず行われたのは、SOPに則りどこの誰が不法アクセスを行ったのか、である。
 これに関しては、エミュレーターサーバーを管轄している地球連合と問題の回線を管理する外務省に問い合わせをすることで簡単に答えを得た。

「信用調査会社、ウェブ評価会社、メンタルケア・デザインプランナーその他諸々。
 作られては消えていくような泡沫のサイトからのアクセスもあるわね」

 分析室で調査の結果を眺める唐之森はアクセス元の多様さに目をむいた。
エミュレーターサーバーで弾かれたアクセスは結構な数に上っており、いずれもが民間で、政府の回線には入れないはずの発信元ばかりだ。

「……これが不正なアクセスなのかと不思議に思えますね」
「まあ、この手の会社って1日で数千から数万作成される泡沫サイトのチェックを行うために、AIによる一括調査をしたりするから、
 届け出などを徹底していないといつの間にか評価を付けられて、プランニングやコンサルタントに必要な費用を請求されたりするのよね。
 それくらい、ページを総当たりで調べている会社ばかりだもの」
「けど、それがアクセスできた理由にはならないですよね?」

 朱の疑問に唐之森は頷いた。

「そうね。一般回線を利用するサイトならばともかく、回線さえも別なのにアクセスできたのはおかしい。
 仮に回線に入れたとしても、そこから先には外務省の設置したファイヤーウォールが敷設されている。
 これを抜けるには、政府専用のアカウントと紐づけされた認証データとパスワード、さらに物理的なアクセスキーによる認証が必要な仕組みよ」

 厳重極まりない。回線も別、ファイヤーウォールによる隔離もあり、それの通過には専用の資格がいるというものだ。
物理的なキーによる認証という徹底ぶりは、それほどにデリケートだとみなされたための配慮なのだろう。

「でも、どうやって抜けたのでしょうか?」
「裏口はどこにでもあるものなのよ。
 このファイヤーウォールだって、完全に遮断しているわけじゃないの。
 システムのメンテナンスやデバック、あるいはシステムエラーが起こった時の抜け穴があるの」

 それは、システムが安全かつ健全に運営されるために必要なもの。どうやっても存在するバックドアだ。
 鍵をかけるのはいいが、鍵を無くした時や、かけた鍵そのものが壊れた時にどうにかしなくてはならない。

「けれど、こっちは正規アクセスルートの何倍も厳重よ。
 使われるのは極々限られた時だから、管理者権限も必要ね。
 どっちからのアクセスだとしても、その方法が露呈しているなら管理の大問題。
 悪意のあるならば間違いなく重罪……だから犯罪係数などが上昇するけど、ね?」
「連日のエリアストレス上昇などが起こっていれば露見しにくいわけですか」
「時間をかければ何とかわかるかもしれないけど、どれだけかかるかは未知数ね」

 そこまで言い切ってから、唐之森は考えにふけっている雑賀にバトンを渡した。

「教授はいかがお考えですか?」
「そう、だな」

79:弥次郎:2026/01/21(水) 23:47:57 HOST:sp49-109-142-201.tck02.spmode.ne.jp

 雑賀の目は、分析室のモニターに並ぶアクセスした容疑者のリストに向けられていた。

「俺には別な意図があるように見える。
 勿論、これも犯罪なのは確かだが、これは何らかの犯罪に利用されているだけじゃないかってな」
「えっと?」
「危険な川を渡りたい、だけど、自分は危険な目に遭いたくない。
 橋が使えないなら、誰かが率先して踏み込んでくれた方が助かるって話さ」

 雑賀が提示したのは、これが事前の調査だという可能性だ。

「昔は護岸工事や橋を架ける工事なんてのは偉く金と時間がかかる大事業だった。
 ドローンもなく、重機もなく、人の手で膨大な範囲で大量の仕事をコツコツとやるしかないためだな。
 それこそ、崩れないようにと生きた人間を人柱として埋めて神仏に祈念するくらいには、神頼みなところがあった」
「人柱……?」
「聞いたことがあるわね。何らかの願いのために生贄や供物をささげるっていうのは」
「これは何も日本に限った話じゃない。
 ロンドン橋落ちた(London Bridge Is Falling Down)という童謡、マザーグースがイギリスという国には存在していた。
 この童謡の肝は、これまで何度となくロンドンにある橋が災害で崩壊した、あるいは人の手で壊されてしまったことも暗示していることだ。
 『ああ、どうしましょう』と訳される一節は、英語で言えばMy fair lady.というんだが、このレディとは人柱になった女性だという説もある」
「つまり、それだけ川というのは危険だったから橋は重要だったということですか?」
「そうだ。10メートルもない幅の川を渡るのさえも、財産と命を懸けた危険な挑戦だった時代があった。
 自然の力で容易く状況が変化し、流れも変わってしまい、人が渡れなくなる。
 けど、目的のためには川を渡らなくてはならない。ではどうするか?」

 それが瀬踏みだ、と言う。

「瀬踏み。つまり、どこまでが深度が浅くて、どこからが深いのかを実際に少しずつ踏みしめて調べる行為を指す。
 多分だが、これを企図した人間は、どこまでが安全で、どこまで進めば危険が伴うかを調べたかったのかもしれない。
 入る方法はわかっていても、いきなり踏み込むのは危険だからな」
「だから、他人を誘導して調べさせた?」
「ここに並んでいる容疑者とされているのは、調べてほしいと依頼されれば物事を調べる会社や企業、あるいは個人だ。
 それが仕事だからこそ、疑うこともなく提示された条件や状況でアクセスして、どういうものかを調べる。
 そう動くと分かっているならば、これほど囮や瀬踏み役として便利なものはない」
「なるほど。
 ということは、アクセスが弾かれることも、アクセスを検知されることも---ひょっとしたら公安局が調べることも織り込み済みということでしょうか?」
「恐らくはな。これほど迂遠なことをする犯人ならば、どういう反応が起こるかを第三者を操って調べている可能性もある」

80:弥次郎:2026/01/21(水) 23:48:57 HOST:sp49-109-142-201.tck02.spmode.ne.jp

 いや、もしかしたらそれ以上かもしれない、とつぶやくと、雑賀は再び黙考する。
 それを受け、朱は改めて情報を精査し直してみる。
疑うことをせずに動く人というドローン。もしもアクセスが弾かれたならば、当然依頼主に何らかの報告が行くはずだ。
そうとは知らずに彼らは犯罪の片棒を担がされていて、その反応によって犯人は知りたいことを知っている段階なのかもしれない。
それを迂闊に調べたりすれば、何らかの形で犯人に情報を齎してしまうかもしれない。

「秘密捜査だとしても、どこかで必ず足はつく。犯人がそれを目ざとく察知して、隠匿や隠ぺいをしてくる可能性は高いってことですね」
「そうね。政府の回線にまで潜り込めるなら、各所の動きや通信内容を傍受して調べることは可能かもしれないわ。
 こちらが気が付いたとしても、犯人はとっくに目的を果たしているなんてのもあり得るわ」

 その目的は未だに不明。情報の奪取か、工作か、それとも他の目的があるのか。

「局長の話だと、エクソダスにさえも関わる話なんでしょ?」
「はい。エミュレーターサーバーの向こうにあるのは、エクソダスの計画やエクソダスの後の新天地での入植計画もあるとか。
 それ以外にも地球連合に関する多くの情報があるという話です」

 これは地球連合との外交に関わる人間ならば知っている話だ。
 特段隠すことでもないと地球連合からも明かされている情報で、しかし、先んじて開示しすぎるとよくないとの判断から制限がされていることである。
開示されすぎれば余計な情報の錯そうが起こり、サイコハザードやパニックを引き起こしてしまうという懸念があってのこと。

「ということは、それを勝手な都合で知ろうということは……」
「犯人は単に地球連合の権利を踏みにじっただけではない。
 この国の、この惑星にいる人々の未来を好き勝手にしようとする、そんな意思があります」

 なるほど、と雑賀は頷いて、断言した。

「邪悪という言葉では足りない、絶対に止めるべき犯罪者か」
「はい」

 強い意志を以て、朱は断言した。
 未来を勝ち取るため、生きていくためにも行うべきエクソダス。それに手を突っ込むなど、許されないどころではない。
この国がこれまでと同じように、あるいはこれまで以上に良い形で存続するためには、この犯罪は見過ごせない。
朱は改めて今回の事件を解決する意義を噛みしめていたのだった。

81:弥次郎:2026/01/21(水) 23:49:27 HOST:sp49-109-142-201.tck02.spmode.ne.jp

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救済艦長と同じく、絶対に止めなくてはならない犯罪者と認定されました。
こんな迂遠な方法を使う犯罪者…一体誰なんだ(棒読み
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最終更新:2026年07月08日 17:36