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日蘭支援ネタ 鎮魂の太平洋



ハワイ沖…かつてアメリカという国の大博打が行われ鉄底の海。数多の船が眠るこの場所に一隻の艦の姿があった。
その艦の艦首には金髪を靡かせる少女が一人、そして見つめるは年老いた男達。
少女のその胸には花束を抱く、その花は白百合と薔薇、敦盛草。
十字の教えにおける純血を示す花…赤い紅い新大陸に興った国の花、そして『あなたを忘れない』という花言葉を持つ母衣の様な花。


「海よ。古き偉大なる貴女の内に眠る数多(あまた)の同胞(はらから)、姉妹達よ。
この紺碧の永久の平和を祈念した汝らを我は永久(とこしえ)に忘れじ。
その記憶を刻み我は永久に水面に在ろう…!」


そう叫ぶと花を水面へと投げ入れられ遠く空砲が鳴り響く。
戦艦の主砲だ、誰かを弔うかの様にハワイの海に響き渡る。

その光景を誰にも見られず艦橋の上から見る人影があった。
花を放り投げた少女と同じ装いをした金髪の女性、その瞳は永久に水面にあるという言葉聞いてどんよりと死んでいた。
女性の周囲には何やら赤髪茶眼のふわふわ癖毛短めツインテールの人形サイズの人型始め同様の人型が数十体がふよふよと浮かんでいる。
明らかに人類ではない。
そして女性はふわふわ赤髪ツインテールが何やら発言するとむんずと掴み高速で振り出すがツインテの再度の発言に何かガックリと項垂れる女性。


届け届け、想いよ届けという少女の声が流れる。


この艦の名は松島、かつてアイオワと呼ばれた戦艦である。





公式記録としてガッツリとFFRもとより大日本帝国及び世界にもその存在を刻んだオセアンを皮切りに、
この世界というものはそういった公式記録に残るそういった『出る』のは多い。
先の大戦での略奪に虐殺にさらされた支那植民地だけでなく支那兵の蛮行の振るわれたFFRフランス本土に戦略爆撃と本土決戦の行われた旧合衆国国。
多くの船と人が失われた大海戦に暇がないグレートブリテン島や旧合衆国本土近海に鉄が水底を埋め尽くしたハワイ沖。
セイロン島沖やケープもそういった場所だ。
無論戦火にさらされた日蘭にもそういったものが出るが旧四カ国同盟に比べれば雲泥の差である。

そういった地には日蘭の時のやんごとなき血の方々が訪れ失われた命を慰めている。
それらの地には死後もなお故国を死守せんと親衛隊や軍艦などが度々出ていたが時のやんごとなき方らが訪れるとピタリと止む例が多々あった。
逆に旧四カ国同盟は長い間そういったものが『出る』期間が長く続いた。
しかしまあそういったものが『出る』というのはかなり外聞の悪い話である。
自国民の戦死者は救われないと喧伝しているようなもの。
影響力衰えど旧四国同盟の大半の信仰対象である十字の教えや民間伝承に照らせば軍人の末は彷徨える某かワイルドハントと言ってるようなもの。
まあ日本的に言えば成仏させようというものである。

唯一、ある程度順調に鎮めていったのはオセアンという前例のあるFFRくらいなもの。
まあそれも全部が全部恙無くとは行かず全てが鎮まり時折出てくるくらいになったのはFFR神話が成立し霧の向こうへと葬る(おくる)習慣が定着してから。
BCでは『再発見』された民族叙事詩が完全に国家神話となり時の女王のバックボーンとなった後。
十字の教えがその神話により独自進化し力を取り戻し、妖精女王の御業…その系譜とされる古い白魔女の業が力を持つと信じられる様になってから。
CISにおいては労働という聖なる行いを通したより良い生活という喜びにより生者を救う教えと化した十字の教えの一派が改宗したアフリカ移民の土着宗教やらなんや取り込んで悪魔合体して明らかに十字の教えと違う死者を救う力を持つようになってから。
そうして漸くその多くが鎮まった。

ではその間旧同盟諸国は何もしていなかったのか?
いやそんなことはない十字の教えの者や呪術師などが加持祈祷、聖別した武器なども試した。
しかし正しき十字のお教えの筈が敗れ去り、信仰を力失った悪魔祓いも聖別された武器も効果はなく、
縋った古い魔術や呪術も神秘は黴た残りカスの様なもの故に効果なく、
本当の意味で信仰という正しい力を持ったものにより正しく鎮められるまで…各国において新たな信仰の確立する時期を待たなければならなかった。

そして日蘭側も政府一部では『出る』この問題を重く見ていた。
旧同盟諸国の一部に湧く社会不安、それもよりによって死者に起こされるというシロモノ。
自国の死者に安寧がないと広まればそれはやがて大きな歪みとなる。
各国に支那植民地などを押し付けることによって得られた平和という次の総力戦への準備期間をこんなことで浪費したくはなかった。
そんな時であったハワイ沖、鉄底海域に度々出現していた旧アメリカ海軍太平洋艦隊の亡霊の出現がピタリと止んだという報告が入ったのは。

706635:2026/01/28(水) 07:04:15 HOST:119-171-248-180.rev.home.ne.jp




その日の夜、艦はハワイ近海にて先日より発生した大嵐の中にあった。
ほんの数ヶ月前には遠洋航海でFFR北アフリカ州のとある港に寄港、現地で姉妹艦の一部貰ったりした戦艦だ。

かつてアイオワと呼ばれた艦の魂は艦橋の上から遥か前方のソレらを認めると言葉を零し天を仰ぐ。
Wildhunt…日本ならば百鬼夜行か、溢れる言葉はかつての母国の…いやその基礎を作った欧州の国のとある怪異を示す言葉。
そんな彼女の視線の先には嵐が吹き荒ぶ海が広がりその降りしきる豪雨の緞帳の向こうに薄っすらと存在感のない何かがいる。
見知った姿、しかも複数だ。

彼女の次にその姿を認めたのはこの雨の中で監視を続けていた見張員、前方に艦型不明の戦艦と思われる大型艦多数との悲鳴にも似た報を上げる。
しかし、何をバカなという怒声が返ってくる。
艦の電子の目には何も映らず、同盟国の海竜達はここにはおらずFFRのリシュリューやBCのPOWなどは現在大西洋やインド洋に存在する。
太平洋に日蘭以外の戦艦は”今”は存在しない。


「太平洋に英仏や同盟国、日蘭以外の戦艦がいるなど何時の時代の話をしている!」


報告を受けた艦橋にいる人間の怒声、その言葉を聞いた若い頃に戦中を経験した艦長と副艦長は慌てて外へと目を向ける。
艦橋のガラスの向こうは叩きつける雨のベールに覆われ何も見えない、だが注意を向けると確かに何かを感じる。
何もかも隠す嵐の幕。しかしその嵐も数分、外は嵐の目に入ったのかの様に先ほどまでは嵐が嘘の様に外はひどく静かで波も穏やかとなった。
しかも…。


「晴れ…ですか…艦長、我々は嵐の中心付近にいるはずですよね…。」

「はは……太陽まで出てるぞ、出るにはお誂え向きだな…。」


急速に海が穏やかになる筈がない、しかし実際に事象としてそこに存在する。
嵐の真っ只中とは思えぬ静かな海、こんな逢魔時は良く出ると怪談話にも出てきそうな雰囲気。

その異様な状況、狼狽える艦橋の者達を尻目に二人は甲板へと向かう。
甲板へ繋がる最後の水密扉を開くと何処から流れ込んできたのか肌に張り付く様な生臭く生温い嫌な空気が纏わりつくがそれを無視し艦首へと向かう。

艦首に至った二人はそこで見た。
何かにいる…艦首に至った二人は艦首の先の先の先の先の先の先の先の先、陽の影の覆いの向こうにそこに認めた。認めたくはないがその存在を見た。
いや、出てきたのか、文字通りに化けて。


その視線の先にこの世に非ざる存在を認めると二人は嫌な汗をかく。
戦艦だ、それも一隻だけではない両手の指では足りない程存在している。
その上それらの艦の船体にはあらゆる所に浮いているのが不思議な程の損傷が認められ、
長年に渡り海底に沈んでいたかの様に海藻を纏いフジツボがへばりついている。
明らかに幽霊船ですと言わんばかりの艦影、二人にはその艦型に見覚えがあった。


「艦長…あれは…。」

「ああ…間違いない…サウスダコタ級、いやそれ以外もいる…。」


サウスダコタ級、この世界で最も建造された戦艦でありハワイ沖で最も遭遇する幽霊戦艦。
なにせハワイ沖の海底には第一次、第二次ハワイ沖海戦を通しおびただしい数のサウスダコタ級そしてその他米艦艇がその乗組員ごと沈み鉄の海底を作り上げた。
戦艦という鋼の監獄に囚われた報われぬ魂、合衆国が捨て去ったそれが鉄の底を作り上げているのだ。
だがそれでも通常遭遇するのは一隻や二隻程度、これだけの数が一度に顕れるなぞ二人は聞いたことがない。
しかも遭遇するのは多くは漁船やタンカーなど少人数しか乗らない船だ。
ましてや二人だけではない多くの乗組員が乗るこの松島の前に顕れるなど…いや…まさか…。


「松島…いや…アイオワだからか…?」


アイオワ、艦長の口が頭に浮かんだ言葉を呟いたその時だ、艦内のありとあらゆるスピーカーが耳障りな音を吐き出し始めたのは。


『アメリ…海…何処にあ…や!? 何………ヤッ!?全世……知ラ…欲す!』


背筋が凍るような悲鳴の様な人の様な人ではない雑音にも思える悲痛な音を、言葉にもならぬ悲鳴をスピーカーが発す。
男とも女とも思えるいや性別人種問わずにミキサーに掛けぶちまけた様なその声は松島の乗員全員の心臓を鷲掴みにする。

707635:2026/01/28(水) 07:06:05 HOST:119-171-248-180.rev.home.ne.jp

「か、艦長…どうすれば…。」

「どうするも何も…。」

「そ、そうだ!オセアンの時のように…!」

「バカを言うな…出来るわけないだろう。」


この場に合衆国海軍艦艇はいない…いや正確には松島の元がそうだが今は帝国海軍籍。
そして合衆国海軍軍人なぞこの場にいる訳がない…故に戦争が終わったと彼女らに伝え眠らせる術は松島にはない。
頭を抱える二人、特に艦長の方は夢幻会会員であるためにこの状況に頭を抱えていた。
魂の存在を知る彼の推測からすればここは異界…人非ざる者らの腸(はらわた)の中であることを察して余りある。
その時だ幽かな声が艦長の耳に確かに女の声が聞こえたのは。


『どうする?』


暫しの間が開き再び声が響く、続き複数。



『どうするも何も…あの姿の皆を認めた以上、このままじゃ帰れないわよ…アイ…ワ。』

『でもどうするんだ、姉貴(…ロラ…)?』

『メ…ー、それを含めての相談でしょう。』

『だけど……タッキー、この場で現実に艦体持つのはア…オワ…、マツ…マだけよ?』

『ロ…ーヌの艦体は遠くアフリカの大地…しかももう動くことは叶わない。オ…ゴ…はどう思う…?』

『ロレー…、貴女は何かいい考えはないかしら?』







『あるわ…ココが鉄底海域、死と生の間ならば。』






女の声が途切れ、その瞬間視界が歪む歪む歪み歪んだ。
自分の身体に異常はないのに三半規管と視覚情報の違いに脳が悲鳴を上げ吐き気を催し膝をつく。


「ハァハァ…。」

「ッ…か、艦長…大丈夫ですか…」

「副長は…。」

「頭がクラクラしますが何とか…。」


そして。


「か、艦長!アレを!」

「アレは…コロラド級にサウスダコタ級戦艦だと…!?」



松島の周囲に突如として現れた五隻の鋼鉄の檣楼達、艦長はハッとし艦橋の方を見やる。
そこにある筈なのだ松島…戦艦アイオワと未だに共にある彼女達の一部が。

その内の一隻、コロラド級と思しき船の艦橋付近で輝くものがある。
探照灯の光だ。
未だに悲鳴の如き怨嗟を吐き出し続けるスピーカーの先の声の主らに諭す様に明滅する

708635:2026/01/28(水) 07:07:13 HOST:119-171-248-180.rev.home.ne.jp



【コチラハコロラドキュウセンカンコロラド、メリーランド、サウスダコタキュウケンタッキー、オレゴン、ロレーヌ…】



【ソシテアイオワデアル。】

『アメリ…海…何処にあ…や!? 何………ヤッ!?全世……知ラ…欲す!』


【ツゲル、アメリカカイグンハソノシメイヲマットウセリ。】

『アメリ…海…何処にあ…や!? 何………ヤッ!?全世……知ラ…欲す!』


【ソコクヲマモリジンミンヲマモリヒトノヨヲマモリタリ。】

『アメリ…海…何処にあ…や!? 何………ヤッ!?全世……知ラ…欲す!』


【クリカエスアメリカカイグンハゼンメイレイヲスイコウシソノシメイヲマットウセリ。】

『アメリ…海…何処にあ…や…?何………ヤッ?全世……知ラ…欲す。』


【キカンラノテイシンハムダデナカッタ。ソコクハアメリカカイグンハイマダヨウジョウニケンザイナリ。】

『ア……海…何処にあ…や…何………全……知ラ…欲す……。』








女の声がする。




「生き残ったアメリカ海軍戦艦アイオワとして合衆国海軍を代行し最後の命を発します。
現時点を以て全ての任を解く…武装を解除し速やかに浄土へと渡れ、以上。」






「アメリカ合衆国海軍、そして未だ現世にある我らは貴艦らの挺身に感謝する。」





「お疲れ様、皆……。」


『………………………。』









『『『『…………ありがとう…………ロレーヌ、コロラド、メリーランド、ケンタッキー、オレゴン…それからアイオワ。』』』』






光が走り目が眩む。再び目を開けた時には戦艦の姿は自分らの乗る松島以外なく、月明かりに照らされた凪いだ夜の海だけが広がる。
狐につままれた様な顔をする艦長と副長、それに乗員達。
この日の出来事は松島乗員の記憶そして航海日誌以外記録に残らず、電子敵機械敵記録には何もなかったとされていた。
ただ、月だけが全てを見ていた。

この日を境にハワイ沖周辺では幽霊戦艦の目撃頻度は年間を通しほぼゼロになった。
そしてこの話を聞いた時のやんごとなき方の働き掛けで旧アメリカ合衆国構成国は日本と合同でハワイ沖に散った米艦艇らの合同慰霊祭が実現。
以後毎年に渡りこの事件に関わった松島の甲板上にて行われる様になった。

709635:2026/01/28(水) 07:09:37 HOST:119-171-248-180.rev.home.ne.jp






戦後半世紀、あの幽霊戦艦事件に遭遇した老境に達した元松島の艦長はハワイ沖にいた。


「海よ。古き偉大なる貴女の内に眠る数多(あまた)の同胞(はらから)、姉妹達よ。
この紺碧の永久の平和を祈念した汝らを我は永久(とこしえ)に忘れじ。
その記憶を刻み我は永久に水面に在ろう…!」


ブロンドの髪の少女が花束を松島の甲板よりかつての敵味方関係なく鋼鉄の巨竜達が眠る海へと放り投げる。
あの事件、以後毎年この事件に関わった松島の甲板上にて行われる様になった。

毎年自分も慰霊祭に参加してきたがあの事件や戦争を知る知人や戦友は減っていき身体にガタが来ている故に慰霊祭に参加出来るのも今回で最後かと感傷的になる。
何時からだろう、花を手向けていた生き残った軍人らが減っていき今では松島(アイオワ)に扮した旧アメリカ合衆国構成国の少女が慰めの言葉と花、歌を手向けるのが常になっていた。
自国の…いや、かつての故郷のサブカルチャーがしっかりと文化として根付いている様に苦笑を覚える。


「しかしここまで長かったなあ…。」


大人しく慰霊祭を見守る旧アメリカ合衆国構成国の老兵達と若い海兵らを見やる。
初期の慰霊祭はそれはもう酷かった、慰霊祭でのアメリカ合衆国とそれ以外での対立や険悪な空気なぞ珍しくもなかった。

それが今や慰霊祭が終わった後の松島での精進落としではアルコールを飲みながらアニソン(鉄血歌)を共に熱唱するまでになっている。
無論戦場で相対すらば手加減などはしないが成長したのだろう人も国も。

海鳥達が穏やかな波間に流れる歌の様にこの海に眠る魂らへその鳴き声を贈ると、
艦魂の松島(アイオワ)に扮した少女の囀る流れた鉄と血を慰める歌のメロディーが流れ始めた。
元艦長は少女の声に合わせ口ずさむ。



「繋ぐよその手を…静かな優しい海へきっと届け…か……ん……?」



ふと松島の艦橋を見上げる。金の髪の女達が見えた気がした。

710635:2026/01/28(水) 07:11:22 HOST:119-171-248-180.rev.home.ne.jp
以上になります転載はご自由にどうぞ。
オセアンがあれならば鉄の海と化した彼女らも出るよね、出れば鎮めるよねいう話でした。
未だに南太平洋や東南アジアの海では日本海軍艦艇が出るとの話もありますし…。

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最終更新:2026年07月11日 23:34