623 :ひゅうが:2012/04/18(水) 06:41:29

ネタ――「Y(ヤマト)ショック」~英国の場合~



――西暦194X年 某日 大英帝国 帝都ロンドン「円卓」


「由々しい問題だよ。諸君。」

「突然仰られても困りまするが。」

「諸君。わが大英帝国の現状は知っての通りだが。」

『円卓』の議長はコホンと咳払いをして言った。

いわく、英国は過去も現在も未来も海上にある。
そしてそこを守るロイヤルネイビーと商船団こそがその力の根源である。

しかし最強を誇ったのも今は昔。
心臓こそ止められていないものの、世界最大の海洋たる太平洋はエンペラーのバスタブと化しているしパナマからアイスランドのレイキャビクにかけては日英共同防衛圏という名の新たな海洋帝国の勢力圏に取り込まれていた。

今は日英安保という名の準同盟関係にあるからいい。
だが裏を返せば、大英帝国はかの極東の侍たちとその主による海洋覇権に取り込まれているのだ。
今はなき植民地人たちのように強欲でなく、太平洋(中・北部太平洋)を得られればそれで満足しているようだが、「選択権を有している」のは少なくとも彼らだった。
大英帝国としてはあまり歓迎できる状況ではない。

そして――日本人たちは、太平洋を制した巨大な海軍のお色直しの真っ最中だった。
2隻の5万トン級空母を基幹とした13隻に達する正規空母群の艦載機は順次ジェット化され、古びてきた水上艦艇群は旧式の「金剛」型が退役し「扶桑」型や「伊勢」型といったかつての主力戦艦も予備艦状態におかれている。
だが、あの「長門」型以降については戦闘力が維持され、かつ凶悪すぎる防空システムがさらに強化されつつあるという。

甲板に余裕のあるポストWWI戦艦の「伊吹」型など、後部甲板に対空誘導弾を搭載するという話まである始末。
かつて600機以上に達する第一線航空機が集中攻撃をかけたにもかかわらずそれに耐えきった日本海軍機動部隊の防空網はさらに強化されつつあるのだ。

そしてこの日、大英帝国にさらなる凶報がもたらされた。

「日本海軍が新型戦艦の建造を開始した」というのがそれだった。



「しかし、それがなぜ問題なのです?」

「日本海軍は空母機動部隊にその力の中心を移したのでは?」

「日本海軍が戦艦の建造に邁進してくれるのならむしろ朗報では?」

「左様。その間に我々は『マルタ』級大型装甲空母の建造を行えば――」

議長はゆっくりと首を振った。
大英帝国の新たなる中枢として設立された「円卓」の議長は、彼らが誇る情報部を通じてもたらされた資料を彼らに回覧させることにした。



「な…なんだこれは…」

「全長は300メートル超か。相変わらず贅沢しているな…」

「おいおい、タイホウ・クラスで感覚がマヒしてるぞ。これを見てみろ。」

「基準排水量8万5千トン以上!?」

「主砲は?主砲口径は!?」

「じゅ…18インチ!?しかも3連装だと!?バカな。いつのまに!?」

円卓は混乱という名の坩堝と化した。
それはそうだろう。
彼らがようやく作り上げた海軍は、最大でも5万トンを越える艦艇を有しない。

624 :ひゅうが:2012/04/18(水) 06:42:06
そこに、この情報がもたらされたのだ。
いわく、主砲は最低でも18インチ9門。20インチ以上の主砲採用も確実に可能という。
単純計算で彼らの主力たる36センチ(14インチ)主砲の4倍近い重さの徹甲弾が40キロの彼方から降り注ぐのだ。
これに正面から対抗できる力をロイヤルネイビーは有していない。

ひとしきり驚愕した後、彼らは再び絶望する情報を資料の中に見つけた。


「少なくとも数百機の艦載機による攻撃を想定か。」

「片舷に5発や10発程度の魚雷じゃ沈まんな。戦闘力を失うかどうかも怪しい。」

「…うちの攻撃機でそもそも魚雷を命中させられます?」

「…ムリダナ。」

「じゃあハン(フン族の意、ドイツ人の蔑称)どものルフトバッフェは?」

「無理では?船体でこれです。施される武装は、あのアメリカ機動部隊の攻撃を耐えきった対空火器の発展型です。」

「しかも…情報部によれば核攻撃すら想定の範囲内だと。」


ざわっ。と全員が驚愕する。
従来の兵器とは一線を画する原子力兵器。
枢軸諸国と大英帝国が必死で開発していながらもようやくトリウムではなくウラニウムを使用すると判明したばかりのこの新兵器に、既に日本海軍は対抗する術を見つけているのかもしれないのだ。


「我々が彼らに追いつこうとすると、彼らはすでにその先にいっているか。恐ろしい。」

「盾と矛か…。」

議長は苦笑した。
するしかなかった。

戦艦という種類の艦艇は、文字通り矛盾の存在だ。
他艦を撃沈できる主砲を有しながら、自艦はそれに耐えられる装甲と防御区画を有する。
まるでそれは軍事力の本質のようなものだ。

そしてそれは核兵器という悪夢が出現した現代でもまったく変わらない。


「むしろ我らは喜ぶべきかもしれんな。あの地上の太陽に対し対抗する術があるのだ。少なくとも弾頭を大量配備し押しつぶすなどという財政的悪夢をとらないでもよいかもしれぬ。」

「閣下。そもそも我々がどうやって満載10万トン近いかそれを越える艦やその防御区画を作るのです?」

――大英帝国を支える男たちに、現実逃避の余裕はないようだった。

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最終更新:2012年04月26日 17:34