桜がほころびかけた4月のある日の早朝、
ここ別府湾の沖で親子が漁をしていた。
夜明けから間もない朝で、海面は一面の霧が立ち込めていた。
潮の流れの中、艪で舟を操作していた少年がふとその手を止めた
「父ちゃん、発動機の音が」
「ん?」
音は霧の中を移動していた。
北の方角からこちらに近寄ってきている。
やがて霧の中から黒い影がゆっくりとこちらに向かってきているようだった
慌てて父親が少年の手から艪をもぎとって小船を操作する
黒い影はやがてゆっくりとその姿を親子の前に現した
巨大な船体、大口径の砲塔、高い鐘楼…
まるでそれは島が動いていたようだった。
衝突するかと思ったが、実際はあまりに巨大だった為
近いように見えただけだった。
「あれが大和か…」
「大和?」
「そうだ、あれが大和だ。日本の漢の新しい艦だ。お前もあんななような男になれ…」
稲尾和久少年はまだ幼い眼を巨大な舟に向けた。
大和は汽笛を一声すると、霧の中に消えていった。
まるで幻のように…
※「忘れないように、よーく見ておけ」はふさわしくないので書き換えたら
オチがなくなった…
最終更新:2012年04月26日 17:38