726 :孝之:2012/04/22(日) 02:01:29
武装した人間、そして馬。 ……暗闇の中、生者が集まっている。
レムリア軍夜襲部隊だ。その数はおよそ5000。だが、おそらくは気付かれているだろう。
何しろ昼間の戦闘であれだけの力の差を見せつけられたのだ。『尻尾を巻いて逃げ出す』か、『自棄になって夜襲を仕掛ける』かどちらかしかない。規模は兎も角として、夜襲を警戒していない方がどうかしていた。

おのれ帝國! レムリア魂を見せてくれる!

血走った眼で辺りを見渡す。それでも夜襲しかなかった。例え敵陣に重厚な防御がなされていたとしても、昼間に突撃すれば、更に『あの』砲撃まで加わるのだ。とてもではないが、敵陣まで辿り着けない。だが夜間なら……

『あの』砲撃も無いだろうし、昼間よりは敵の防御も弱まるだろう。こちらの指揮系統も滅茶苦茶になるかもしれないが、差し引きでまだ夜襲の方が分がある。例え一兵となっても必ずや辿り着いて……

何としても一矢報いる! 奴等に目に物見せてやるっ!

最早この戦いの勝敗は決している。そんな事は分かっている。だがそれでも戦わなければならないのだ。
何よりも、自分自身の名誉の為に。


発端はグラナダの裏切りだった。何をとち狂ったのか奴らは突如グラナダ『王国』の復活を宣言。大使の追放という暴挙に及んだのだ。当然認められるわけがない。
我ら東方総軍で10万に及ぶ討伐軍を編成、軽挙の報いを受けさせようと思っていたのだが……やはり帝國軍が現れた。そして決戦だ。
『火焔の王』が、それも幾人もの『火焔の王』が召喚されたかのような砲撃。そして止めが機械竜による空襲。防空網は機能しておらず、敵の機械竜に一方的に叩かれる有様。
これで残されていた砲と戦竜は全滅。砲撃は日没まで続けられて半数以上が戦死。更に半数が負傷して、そうでなくと恐怖によって使い物にならなくなってしまった。
軍議の席では誰もが無言だった。それが全てを表していた。もはや撤退するしか方法が残っていないだろう。

「諸卿は何故黙っておられるのです! これだけ一方的にやられたのですぞ!」

突然テーブルを叩く音が聞こえる。猛将の誉れ高い、第三騎士団長だ。

だが否だ! 撤退なぞできるか!

もしも撤退したならば我らの名誉は地に落ちる。そうなれば自分達に未来はなく、おそらくは自裁のうえ家門断絶は間違いない。それにだ。

「ひゃっはぁー、こりゃあいい。入れ食いだ!!」

シャワーのように降り注がれる鉄の雨! 正確に狙いを定めてくる爆発する鉄の棒!

「はっはっはっ、いよいよ俺達の時代だぜ! 頭の固い連中に俺達の実力を見せてやるぞ!!」
『『了解!!』』

……防空網は機能していないのだ。撤退したとしても、50キロ。おそらくは良くて20~30キロくらいしか逃げられまい。つまり明日もまたあの攻撃を受けると言う事だ。例え『あの』砲撃が無かったとしても、結果は変わらない。全滅だ。
それならば動けるものだけでも夜襲だ! そして何としても一矢報い、我ら東方諸侯の意地を見せつけてやるのだ!

「全軍による夜襲を提案します。朝になればただやられるだけです。ですが夜なら、少なくともあの砲撃はないでしょう」

頼みの戦竜も、魔道砲も、丹念に潰されて全滅。非戦を勧告する紙を空よりばら撒かれて士気は最低。それでもだ。もはや夜襲するしか方法はない。
このまま撤退するなど、不可能なのだ。何としても敵陣に辿り着いて、必ずや一矢報いてやる! それにだ!

「異世界のルーデルの称号は俺が貰ったぜ!!」

第三騎士団長は怒りと屈辱に顔が歪み、顔が紅潮するのが抑えきれなかった。
降伏勧告のビラはお願いのポーズを取る水着の少女。何故かエロ同人誌も同時に投下され、それを落してきた機体にはア○マスのキャラ。誇り高い彼としては死んでも降伏など御免だった。

奴等はふざけてるのか!? 降伏なぞ、そんなことできるかっ!!

レムリア軍は全軍による夜襲を決断した。

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最終更新:2012年04月26日 17:48