923 :じんつう:2012/05/01(火) 23:24:53



――――――美少女元帥の憂鬱~第6話~――――――



会合の会場である某高級料亭の一室は葬式のような雰囲気に包まれていた。

「せめてポッポが首相でもこちらと同じように誰かが転生していてくれればまだ良かったのに......。」

嶋田が右手で胃を、左手で頭を押さえながら呻くように言った。そして右手をポケットに伸ばして最近
愛用している胃薬を取り出して錠剤を口に放り込む。ちなみに今飲んだ胃薬は嶋田が少女になった関係で甘いものが
好きになったので製薬会社が開発した“甘い”味がする胃薬である。本人は当初絶句していた(現実を認めたくなかった)が
今ではすっかり愛用してしまっている。ついでに胃薬としての効能自体も(これも嶋田さん用に)強化されており、それも
手放せない理由の一つとなっている。
あと、キャッチコピーが“あの嶋田首相も愛用しています!!”となっているためかは不明(ということにされているw)だが、
数ある胃薬のなかでトップの愛用者数を誇っていたりもする。

「直接対話した特使からの報告や随員として向こうに渡ったメンバーの調査からなどからして、向こうの世界は“史実”の
“日本国”で間違いないようですね。」

ただでさえ、体力を持て余していそうな年代の人でも容赦なく過労死へと導きかねえない仕事量がさらに
倍増する現実を認識したくない人(おもに嶋田さんとか嶋田さんとか嶋田さんとか....)に止めを
刺すかのように辻が言い放った。そしてどこからか大きな溜め息が一つ。

「しかし、本当に“史実”の世界ならば前世の肉親や知人や同僚たちにもまた会うことが出来るということなのか?」

年齢の割には余りにも若すぎる風貌の南雲が少しだけ期待を込めて言った。
何故南雲の見た目が若いかというと、とある研究機関が開発した不気味な試薬(見た目は青汁)を面白がった辻に
無理やり飲まされた南雲は50歳ほど若返ってしまい、ちょうど対米戦争時の風貌になっていた。おそらく、向こうに
行ったら軍オタが殺到するんじゃないだろうか。

南雲以外にも期待していそうな顔をしている人間もいた。しかし、辻はそれを否定する。

「ダメです。下手に会いに行って我々が転生者だとばれたら不味いです。そもそも自分が転生者だと明かさない限りはその人たちも
自分を認識してはくれないでしょう?」

先ほど期待感を顔に出していた面々が落胆する。まあ、確かに辻の言うとおりでもある。

「まあ、仕事で向こうに行くことになったら遠くからチラッと見るくらいならいいだろう。やはり会いに行くのはダメだが。」

嶋田がそういって宥める。

「しかし、特使の随員として向こうに渡った連中は.......やはり本屋などに直行、目当ての物を大量に購入、か。
よくそんな暇があったものだ。」

向こうの日本に派遣した特使は転生者ではないが、その随員には何人か転生者が含まれていた。本当は嶋田と辻で選抜しようと
していたのだがそいつらの強烈な熱意(全員合わせて某金田大佐ぐらいと考えてくれればいい.....)のまえにあの2人が
耐え切れずついに折れてしまったのだ。どうせそんな暇など無いと思っていたのだがどうやってか暇を作りだしてしまったようだ。

924 :じんつう:2012/05/01(火) 23:25:31

「本当は平成日本に耐性の無い特使を補佐するために送ったのだが大丈夫だろうか。」

嶋田が溜め息交じりに言う。

「まあ、仕事はちゃんとやり人たちではありますからね。」

辻がフォローする。

「しかしその熱意を数百分の一でも仕事に向けてくれれば効率は数倍以上に跳ね上がるだろうに....。」

嶋田がまた嘆息する。もうここ最近の嶋田さんは溜め息しかしていないのではなかろうか.....。

「今更そんなことここの人間に期待しても仕方ないでしょう?雑談はそれまでにしてそろそろ本題に入りましょうか。」

雑談の流れを切って辻が話を本題に入れる。

「向こうの日本、特亜三国そしてアメリカへの対応、一体どうしたものやら。」

これは平成世界を知る夢幻会のメンバー全員の目下の悩みだった。
平成日本、というよりポッポが最大の悩みだった。彼は誰にでもいい顔をしようとして全てを破綻させるから一体どうなるかが
予想できない。しかもそれを素でやってしまうから余計に混乱させられる。

「あと、“自称”平和団体......これは無視すればいいとして問題はマスコミです。どう考えても彼らが“大日本帝国”に
好意的な報道をするとは思えない。これによって向こうの日本国民のこちらへの印象が悪化しては不味い。」

平成日本への対応における最大の悩みがマスコミ対策だった。彼らは相手が“大日本帝国”となれば徹底的に叩くに違いない。
そして、それをひっくり返す手段がないのが難点だ。正直、大震災が起きて災害救助でも行わない限りいい報道はされないだろう。
それすらまったっく報道されず無視されることもあり得る。

「すぐにいい案がすぐに思いつきそうな問題でもなさそうですので次に行きましょうか。」

頭を抱えている嶋田の代わりに辻が議題を変える。

「特亜3国は無視を決め込めばいいだろう。最悪、空母で脅しをかければ黙るだろう。」

「それは少し危険では?中国と韓国は下手すると暴発する可能性がある。それに、向こうは2009年なのにこちらはまだ1990年だ。
 いくら実際の軍事力、技術力は互角以上といえども20年近く年代が空いていると舐められることになる。」

日本を除く他の国家への対応における問題が年代の開きだった。
実際の技術力は“アメリカを”基準として憂鬱日本が互角か上回っているが、年代が開いてしまっている以上初期の段階では
舐められる危険があった。


「そこは観艦式でも見せてやればいいでしょう。ちょうどもうすぐですし。」

辻が観艦式を提案する

「いいな、史実米海軍の面々の顔が青くなるのが見れそうだ。時期もちょうどいいし。」

頭痛から解放された嶋田が同意する。
“あの”史実米軍の人間の顔が本気で青くなる光景はなかなか見られないだろう。

925 :じんつう:2012/05/01(火) 23:26:49
しかし、対米戦後も延々と首相をやらされたあげくようやく引退できると思った時に暗殺されかけ、ようやく死ねるかと思いきや
 若返った上にTS、今度はもう諦めた祖国に出会うとは神様は何を考えているのだろうな。」

見た目に似合わず嶋田が老人みたいなことを呟く。

1988年、嶋田は白人至上主義者の青年に狙撃された。
弾丸は心臓まで達し、嶋田の死は確定されたと誰しもが思った。

しかし、嶋田は死ななかった。―――代わりに少女になってしまっていた。

犯人に問いただし(拷問&尋問)ても、弾丸に毒を仕込んだこと以外は分からなかった。

「まあ、この世は分からないことばかりだ。それを追い求めるのもいいだろう。」

相変わらず見た目に似合わない独り言を呟く。最近の嶋田はこういうことが多いようだ。

嶋田が妙な悟りのようなものを開いた後も議論が続けられ、史実世界への対応が決まった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年08月26日 20:01