214 :名無しさん:2012/05/08(火) 21:25:30
アンケート
ある日の会合にて。
「藤原道長、源頼朝、楠正成、織田信長に徳川家康…、ここら辺りはお馴染みと言えるんでしょうかね」
「明治期以降だと…東郷元帥に乃木大将、やはり軍人は人気がありますね。明治大帝が殆ど得票が無いのは意外でしたが、人ではなく『現人神』であられる、という意識からでしょうか」
「足利尊氏はこの時代の教育だと敵役ですし、我々との意識の違いはあるでしょうね」
「この世界では日○組の成立フラグは叩き折られているし、前世とは教育分野でも改善が期待できるな!」
新聞のあるアンケート結果を見て、和気藹々と語り会う会合参加者たち。
そこに、地獄の底から漏れてきたかのような恨めしさを込めた声が響く。
「皆さん、楽しそうですね…」
皆が振り返った視線の先、そこには普段以上に憔悴しきった日本帝国総理大臣にして帝国海軍元帥伯爵、嶋田繁太郎がいた。
「そりゃ、戦争も終わりましたし」
「災害対策も一段落して国内も落ち着いてきました」
「軍や現政権への支持は安定していて、政権運営に支障もない」
楽しげに返す参加者たち。
「なにより、ねぇ?」
「……………」
「身内から日本史上最高の英雄が出たんですから、喜び祝福しないほど我々は薄情ではありませんよ」
それは新聞の投書欄に寄せられた、一人の少年の質問から始まった。
質問に曰く「にほんのれきしで、いちばんすごいのはだれですか」
新聞社は投稿の掲載と同時にアンケートを実施。結果、当初の予想をはるかに越える回答が寄せられ、他部門からの応援まで投入して集計が行われた結果…
2位以下を圧倒的に引き離して首位に輝いたのは、誰あろう嶋田であったのだ。
「どうしてこうなった…」
頭を抱える嶋田。
「いやぁ、実に素晴らしい!史実の私なんて比較にもなりませんな!」
「東条さん、あなたもこちらでは『常勝将軍』と讃えられているじゃないですか」
「いえいえ、日本史上に輝く偉人にはとてもとても及びませんよ」
「そうだな、今の日本で『嶋田繁太郎』の名を知らぬ者などおるまい」
「ぐむむ…」
「まぁまぁ、戦後もまだ間もありませんし、仕方がありませんよ」
フルボッコとなる嶋田。
そこに割って入り、救い出したかに見えたのは辻だ。
「辻さん…そうですね、人の噂も75日、いずれは落ち着いて…」
そのおかげで気を取り直したかに思われた嶋田、しかし…
「何を言っているんです、嶋田さん。私が言っているのはそういう意味ではありませんよ?」
「ぇ?」
「むしろ逆ですね。今後、あなたの名前は歴史教育においては必須のものになります。古代から教えるなどという謎のカリキュラムなんて導入させませんし、貴方の名前は政治家の、いえ、全ての日本人の模範として語られねばならないんですよ。それを一時の人気などと流されるわけにはいきません!」
「ちょっと、辻さん…?」
もはや涙目の嶋田。だが、さらに追い打ちはかけられる。
「そうだな、伝記や言行録も出版したらどうだろうか」
「時代小説やそれを基にしたTVドラマなんてどうでしょう?」
「いずれ大河ドラマになるのは確定だな!」
こうして嶋田繁太郎の名は高められ、嶋田のSAN値を犠牲としつつも後世へと伝えられてゆくこととなったのだった。
最終更新:2012年05月19日 15:05