290 :ひゅうが:2012/05/10(木) 16:13:37
ネタ――小話 「限界」


1960年代にドイツの総統が部下にこう言った。

「軍事力で日本とその同盟国に対抗するのは実入りが少ない。ここはわがドイツの技術力と経済力で彼らを上回り、平和裏に彼らを屈服させよう。」

経済長官は難題に頭を痛めたが、数日後に計画の原案を持ってきた。

「総統、これが経済成長20年計画の原案です。」

「ご苦労だった。・・・なんだこれは?! 枢軸ブロックの関税撤廃と外資参入の全面的許可?! しかも対価として大規模軍縮や勢力圏からの撤退だと?! 君はドイツを日本人に売り渡すつもりか?!」

経済長官は激昂する総統を落ち着かせてから説明をはじめた。

「総統、わが枢軸勢力圏の現状をご存じですか? 労働力は対ソ戦争の結果不足し、それを補うための奴隷収奪にまで手を染めてもなお足りない。技術革新を志せば、強大な海洋国家同盟やソ連に対抗するための軍事費に足を引っ張られる。」

「しかも北米ではあのSA(突撃隊)もどきのテキサスカウボーイたちが我々の政策の手足を縛っているか。よく分かっている。」

「そうです。そこで私は50年代のアジア諸国にならうべきと考えました。よく考えてみてください。彼らはあの広大な領域にこまめな庭づくりでもするかのように手を入れて資本を投下し、そして惜しげもなく譲渡したあとで自らのテリトリーへ引っ込みました。ならば――」

「東欧や西欧、それに北米を彼らの前に投げてよこせば自然と彼らはそちらに気を取られ軍縮、しかも我々も軍事境界線をロシアへ絞れるということか。だがそれでは今のアジアのように我々は周囲を親日国で囲まれてしまうぞ。」

「よいではありませんか。我々も親日国になれば。そうすれば勢力圏の維持に四苦八苦する日本に対しこちらは経済成長に専念できます。科学技術への投資へもまた然り。本質的に『敵』であるソ連戦線を抱えているなら援助すら期待できますな。」

総統はうなった。確かにこれなら経済面でも勝利が夢ではない。

「だが、経済長官、君は政治を知らない。誇り高きドイツ人があの日本人の――有色人種の膝下に跪くなど許容できようか?」

苦し紛れにそういった総統に対し、経済長官は鼻を鳴らしてこう言ったという。

「総統、つまるところそれがドイツの限界なのです。」

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最終更新:2012年05月19日 15:54