355 :earth:2012/05/11(金) 19:26:44
日独から緩衝地帯としての価値が無くなったと判断されたソビエト連邦は脆くも瓦解した。
壮大な社会実験の末に、ソビエト連邦は共産主義が如何に危険で、人々を不幸にする思想であったかを誰の目にも明らかにして崩れていった。
ソビエトの残骸は日独によって東西に分断され、それぞれの支配を受けることになった。だが広大な旧ソ連の領土を全て統治することは難しく
中央アジアを中心に少なくない領域が無政府状態となった。強力な軍閥が存在する地域はまだマシだったが、それさえない地域は悲惨だった。
そしてそんな地域に元アメリカ人、そして
アジアから連れて来られた人間達が流れ込むことになった。
「糞、奴隷共が!」
小さな村に住んでいた住民たちは手持ちの武器で応戦し、外部に助けも求めたが、どの勢力圏からも離れた場所に援軍など来る訳がなく数の
暴力の前に押し潰された。
「ここを奪えば、住む場所と食糧が手に入る!」
「抵抗する住人共は殺せ! 連中は俺達を奴隷扱いした奴らだ!!」
旧ソ連軍、或いはドイツ軍の兵器で武装した元奴隷達は、そこで生活していた住民の内、男や老人を皆殺しにした。
女達は殺されることこそなかったが、それも彼らが子孫を残すための『道具』として丁重に扱っただけであり、彼女達の未来に希望はなかった。
普通なら非難され、そして処罰されて然るべき行為なのだが……強力な支配者がいないこの地域では、今、最も強い力を持つ元奴隷達こそが
法だった。
そして村を制圧した元奴隷達は、かつて自分達を虐げた国の元国民を隷属させて生活の糧を得ることが出来るようになった。
落ち着きを取り戻した一部の人間は祖国に帰りたがったが、大半は帰還を諦め、新たに築いた生活の場を守ることに専念した。
「もう戻る祖国もない。それなら、ここに新たな祖国を作るだけだ」
何もかも奪われ続けた者達は「再び奪われないため」に団結したのだ。
宗教や民族、肌の色などで普通なら団結できないであろう者達は、幾つかのコミュニティに分かれつつも自分達が新たに築いた祖国を
守るために力を合わせ、少しずつであるが生存圏を拡大させることになる。
生存圏と言っても精々、町村レベルだ。しかしどんなに小さくても、彼らにとっては自分達が人間として生きることが出来る立派な国だった。
「欧州や俺達を売り渡した同胞達、そして奴らの蛮行を黙認する日本も俺達は信用しない。俺達は自分達の力で、俺達が打ち立てた国を守る」
白人以外を見下し酷使する欧州、自分達を売り渡した祖国の同胞、そして絶大な力を持ちながらそんな地獄を見て見ぬ振りをする日本。
彼らにとっては、どれも信用に値しない存在だった。
「力をつけて、生き残ってやる」
外の世界では虐げられる民族も、誰の目も届かない場所では力次第で人間として生きることが出来る。それが体現された世界だった。
最終更新:2012年05月19日 16:34