379 :SARU携帯:2012/05/11(金) 23:57:05
思いついたら吉日、というワケで空気読まず投下


泡沫(うたかた)

独ベーメン・メーレン保護領ブトヴァイス近郊

堅牢な保冷タンク車を何十両と連ねた貨物列車が出発しようとしていた。ハンブルクで貨車ごと船積みされ、今や正式にアトランティアと改名された新大陸へ向かうのだ。
その様子を見つめるチェック人達の心境は複雑の一言で片付けられる物ではなかった。彼等が手塩にかけたそれはかつての新大陸で名乗る事を許されず、紛い物が専横を欲しいままにしていた。
悪辣な拝金主義者はチェック人による長年の抗議に対し、自分達の法廷で棲み分けて“やった”とばかりに名乗りを挙げる場所を規定した。しかも最大の商圏である自国及びその属領から締め出す形で。

だが雌伏の時は五年とは続かなかった。彼等の名乗りを阻む場所は最早地上に無く、控え目な自立を許した支配者が現地での活動を支援すら約束したのだ!
その嚆矢として亡国で跋扈していた純粋令を冒涜する穀物澱粉すら混ぜたおぞましい液体を駆逐し、チェック人が造る真の飲料を広めると云う。
数年後にかつてよりかなり狭い領域ながら“チェック自由國”として欧州の覇者より民族自決を与えられる地の職人達はねじくれた感情を抱きつつ家路についた。


伽洲共和國ロサンゼルス

柊林(ハリウッド)地区の一角で『ベーメン(旧チェック國)保護領産・ブドワゼ麦酒試飲会』が開催されていた。
細かな泡を放つ淡褐色の液体が注がれたグラスが招待客に配られる。
グラスを満載した銀色の盆を掲げているのはワンピースドレス――どころか一見して幅広の一枚布を巻きつけただけの女性達が白や黒、時折黄色、中には赤銅色の肩や太腿を曝していた。
ユニフォームには一様に“ブドワゼ”のロゴ。

「やっぱバドガールがいないとねぇ」
試飲会を企画した日本人の脇で、遥々欧州からブドワゼ麦酒を運んできたドイツ人関係者達が只々呆然としていた。

おしまい

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年05月19日 16:38