555 :earth:2012/05/16(水) 22:40:08
西暦197×年。第二次世界大戦が終結してから3×年が経ち、世界は一応の平穏の中にあった。
だが旧アメリカ合衆国、いやすでに『忌み名』としてその名前さえ抹消された地域の一部では連邦復活を望む勢力が興りつつあった。
「人民の、人民による、人民のための政治」
かつてリンカーン大統領が唱えた理想に惹かれた人間達が偉大な国の再興を主張したのだ。
しかもその運動の中心となったのは、皮肉なことにかつて旧アメリカ合衆国では差別されていた有色人種の間からだった。
カリフォルニアを中心とした西海岸地域を除いて、公然といやかつての旧合衆国時代以上の差別を受ける彼らからすれば、幾ら否定
されようとも旧合衆国時代はまだマシだったのだ。曲がりなりにも人間扱いされたのだから。
一部の勢力はアメリカ合衆国の精神的な後継者とされるカリフォルニアに期待したが、カリフォルニア政府は梨の礫だった。
「あの馬鹿(東部政府)の連中の名前を復活させろだと? 俺達を『世界の敵』にしたいのか!?」
カリフォルニア共和国の最大の後援者である大日本帝国は、先の大戦で理不尽極まりない理由で戦争を仕掛けられたのだ。
そんな彼らが仇敵の復活を許すわけが無い。
「欧州に踏みにじられたり、暗黒時代になったのは、お前らの動きが鈍かったからだ。西海岸以外の地域のことは自分達で何としろ」
カリフォルニア政府はあくまで西海岸地域の盟主であった。しかしそれは日本が彼らを代理人と認めているからに過ぎない。
代理人が代理人として相応しくないと思われれば、何が起こるかは明らかだった。まして旧合衆国の統一となると、必要となる物が
多すぎる。いくら旧合衆国領内でも最大の経済力を持つカリフォルニアでもその負担には耐えられない。
彼らの答えは「拒否」の一択しかない。
だが多くの人間はそれでも諦めない。かつての
アメリカの(主に白人向けの)気高い理念に惹かれる者達は各地で様々な運動を行う
ことになる。
勿論、これを無視する列強ではなく、苛烈な対応がとられることになる。皮肉なことに一番苛烈な仕打ちをしたのは、旧合衆国を支配
していた白人層であった。かつての『祖国』の復活など彼らにとってトラブルの種でしかないのだ。
「共産主義と同様の害悪な思想に毒された人間は、速やかに必要な対処をされるべきだ」
こうして多くの血が流れることになる。
しかし、それでも抑圧された有色人種の間ではアメリカの理想とした政治は魅力的過ぎた。
「自由の国を再び」
どれだけ否定されようとも人々はそう叫んだ。悪しくも懐かしい自由の日々を取り戻すために。
最終更新:2012年05月19日 16:50