693 :earth:2012/05/19(土) 18:47:51
西暦197×年。
漸く引退できた嶋田は自宅の縁側で茶を飲んでいた。
「やれることは全てやった。後継者も育てた。あとはお迎えを待つばかりだな」
激動の人生を振り返りつつ、嶋田は空を眺める。
そこには雲ひとつ無い澄んだ秋空が広がっている。
「平和だ。ドイツも大人しいし、ロシア問題も片がついた。あとは何事もなく……」
しかしそんな嶋田の思いはあっさり打ち砕かれる。
その予兆は、空から始まった。
「ん?」
突然、何も無かったはずの空に、一つの黒い点が現れる。
最初は錯覚かと思い、目をこすった嶋田だったが、その点は消えることは無かった。
それどころか、『それ』は時間が過ぎるにつれて嶋田がいる自宅に近づいてくる。
「何?!!」
危険を察知したのか、慌てて自宅の中に避難する嶋田。
同時に彼はテロの可能性を思い浮かべた。何しろ彼は白人国家と戦い続けた帝国の元宰相。恨まれる理由は幾らでもある。
(家族が留守なのがせめてもの救いか!)
だがそんな思想を打ち砕く声が響く。
「覚えてやがれ、アンゼロッド~!!」
どこか、遥か昔聴いたことがある声と人命が嶋田の耳に入った直後、『それ』は嶋田の自宅の庭に落下した。
「……まさか、と思うが。いや、そんなことは」
冷や汗を掻きながら嶋田は現場を見に行く。そこには……彼の前世で『下がる男』と呼ばれた男子高校生がいた。
「何故、柊蓮司がここにいる?」
嶋田が非日常と遭遇している頃、帝国の裏側を守る男は照明もない暗がりの部屋で、電話越しに密談を繰り広げいてた。
「なるほど、興味深いお話です。我々もこの世界を守るため最大限協力したいと思います。ああ、彼ならすでに」
『―――』
「え? 魔王ですか。ははは、ご冗談を。私はそんな大した存在ではありませんよ。ただの人間です」
『―――』
「はい。では失礼します。守護者殿」
辻はそう言って電話を切った。
「さて、貧乏神との戦い以来ですか。八百万の神々の支援があるとは言え、ファンタジーへの対応は骨が折れますね」
世界の海洋の半分を押さえる帝国。
そこで非日常の存在同士の戦いの幕が開ける。
最終更新:2012年05月19日 19:39