705 :earth:2012/05/19(土) 22:27:47

 『オーストラリア本土決戦』

 西暦195×年。
 オーストラリアという国は炎に包まれ、まさに歴史の表舞台から消えようとしていた。

「オーストラリアも馬鹿な真似を……」

 第3艦隊司令官・草鹿中将は戦艦伊吹の艦橋から炎上するタウンズビルを見て呆れたように呟いた。
 そしてその呟きに異を唱える者はいなかった。それどころか、生温いという声さえ挙がる。

「彼らは、誘拐した臣民を奴隷にしました。
 まして我が国が奴隷制度について文句をつければ内政干渉と拒否し、枢軸と手を組もうとしたのです。
 これは許されるものではありません」
「……」
「それに彼らは我が国の降伏勧告を無視しました。これから起こる悲劇は全て彼らの責任です」

 彼らは第1艦隊と合流し、シドニーへ戦略艦砲射撃を行う予定だった。

「……そうだな」

 白豪主義を掲げるオーストラリア人は、黄色い帝国とその属国群が急速に拡大しつつある状況に恐怖していた。
 本国は日本人のご機嫌取りに必死であり、助力は期待できない。日本を抑えることが出来たアメリカはすでに消滅している。
彼らは圧倒的武力を持つ有色人種の国家と単独で相対することを余儀なくされていたのだ。 
 その恐怖は並大抵のものではなかっただろう。
 勿論、日本側、特に夢幻会はそのことを察して宥和政策を採っていたのだが、恐怖は薄れることはなかった。
 そして彼らは恐怖を薄めるために人種差別、奴隷制度を公然と行っている欧州枢軸の真似をするようになった。さらに彼らは
自国が太平洋、それも日本側勢力圏の傍にあるということを活かしてドイツへの売り込みを図った。
 尤もドイツ側はありがた迷惑そのものだったので、リップサービス程度のことしかしなかったが、勘違いしたオーストラリアは
増長した。イギリス本国の言うことなど聞かず、奴隷制を採用し、ドイツ製兵器の購入を進めるようになった。
 ここに至り、日豪関係は急速に悪化した。

706 :earth:2012/05/19(土) 22:28:23

 そして東南アジアで誘拐された日本人が人身売買組織によってオーストラリアに奴隷として輸出されたことが明らかになると
日豪の対立は頂点に達した。この誘拐された日本人は『お世辞』にも『真っ当』な人間とは言えなかったが、曲がりなりにも国民が
このような扱いを受けたとなると日本側も黙ってはいられなかった。

「奴隷制度の撤廃か大規模な改革、それが出来ないのであれば戦争だ!」

 この日本側の通告をオーストラリアは内政干渉と拒否した。
 そればかりか、友好関係にあると思っていた欧州枢軸に支援さえ要請したのだ。このオーストラリアの行動にイギリス本国さえ
愛想を尽かした。ドイツを筆頭にした欧州枢軸も呆れ果て、彼らを見捨てた。
 こうしてオーストラリアは孤立無援のまま、大日本帝国との全面戦争に臨む事になった。
 そしてその結果は言うまでも無かった。オーストラリアは日本軍の新兵器実験場となった。
 オーストラリア海軍は世界最強と言われる帝国海軍によって蹴散らされ、東部沿岸にあった主要都市は猛攻に晒された。
 首都メルボルンこそ政治的配慮から攻撃を免れたが、他の都市は軒並み叩かれ、国家機能はマヒ状態だった。

「徹底抗戦だ!」

 一部の人間がそう騒いだが、そんな彼らの声も大和、武蔵を擁する第1艦隊を中心とした水上艦隊によってシドニーを
瓦礫の山にされたことで小さくなっていった。そして最後に水爆が首都の目と鼻の先に投下されるに至り、オーストラリア政府は
日本に対して無条件降伏することになった。

「白人どもに鉄槌を下したぞ!」

 日本国内はこの勝利に盛り上がった。だが戦艦大和の艦上で、屈辱に顔をゆがめて降伏文書にサインするオーストラリア代表を
見ていた日本政府関係者、特に夢幻会関係者は頭痛を覚えた。反日機運が強いオーストラリアの占領政策など御免なのだ。
 しかし反抗的だからと言って、全国民皆殺しも出来ない。

「……軍備を撤廃させ、毟った後はイギリスに押し付けましょうか」

 こうしてオーストラリアは自治権も何もかも取り上げられ、イギリス本国の直轄地となった。
 勿論、イギリスも面倒ごとを引き起こしたオーストラリア人に対して寛容であるわけがなかった。日本の非人道的な攻撃を非難する
ように迫る旧オーストラリア政府高官は政府庁舎から叩き出され、頑迷な白豪主義者は欧州に亡命した。尤も、亡命しても碌な目には
あわなかったが……。
 こうしてオーストラリアと言う独立国家は消滅した。
 アメリカ合衆国と同様に、暴走した民主主義によって滅んだ国家という悪名だけを世界史の教科書に残して。

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最終更新:2012年05月19日 23:01