969 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:10:03

第2次大戦以降の日本帝国の躍進について、航空機の果した役目は大きい。
嘗てユーラシア大陸でのチンギス・カン率いるモンゴル帝国の遠征を支えたのが騎馬群であるとするならば
太平洋における日本帝国の躍進を支えたのは、間違いなくその優秀な航空機群であろう。
しかし列強諸国が、その優秀な航空機に真剣に注目しだしたのは、実はフィリピン沖海戦後と意外に遅い。
それ以前に日本の航空機が活躍した戦場は、冬戦争やBOBと少なくない筈なのだが、
直接対峙したはずのソ連・独逸はいうに及ばず、実際に九六式を運用した英国でさえ目を背けていた節がある。
そして彼らはその代償を、戦後の喜劇とも言える悲劇の航空機開発という歴史で贖う事になる。
その影に例によって夢幻会という名のサタンが存在したことはいうまでもない。

では、その暗躍の舞台裏を覗いてみるとしよう・・・・・・


『 魁!! 夢幻会 銭湯潮流編 ~倉崎重蔵、暁に死す~ 』


1943年4月某日、ハワイが無血開城となり北アメリカ大陸への侵攻作戦が本格化したその日
総理官邸では、陸海軍の主要なメンバーを集めての軍議が開催されていた。
本来なら総理官邸で行われるような類の会議ではなく、そもそも陸海軍が一堂に会しての軍議の開催など
史実を知る人間からすれば信じられないくらいの柔軟さなのであろうが
海軍に先駆けて内部の"掃除"を行い、また数々の"文化活動"を推し進める帝国陸軍は
ある意味、この時代で最もリベラルな組織の一つなのである。後ろに(笑)とかwwさえ付かなければ・・・
それでも一応の建て前として、カリフォルニア・メキシコと様々な政治的・軍事的な案件に
忙殺される嶋田海軍軍令部総長に、陸軍側が配慮したという形での開催となっていた。

軍議は海軍、特に今回の作戦に合わせて新たに配備された烈風改に関する報告から始められた。

「烈風改の不具合発生率は現状の所、想定の範囲内です。」

海軍側からの報告に、とりあえず陸軍も含めた会議場全体にほっとした空気が流れた。
烈風改は、世界初の本格的ターボプロップエンジン搭載機であり、表向きでは帝国最新鋭の
次世代主力機なのだ。現状でロールアウトした機体は全て海軍に配備されているが
陸軍としては今年以降、新型戦車である三式戦車や四式重戦車の配備にも予算を割く必要があり
できるだけ不具合を洗い出した上で着手したいという狙いがあったのだ。
しかし、それに続けられた報告の言葉が、会議場に軽い緊張を走らせた。

「ですが、運用に関しまして少々問題が発生しております。」

海軍の報告官は固まってしまった場の一同を視線で一舐めした後、報告を続ける。

「具体例を申し上げますと、整備士達の間から『調子の悪いエンジンを分解清掃せよ。』
 『点火プラグを交換せよ。』などといった的外れな指示を尉官や下士官から受けたという
 報告が挙がってきております。」

「徹底した情報秘匿が裏目に出てしまったか・・・」

海軍大臣である山本が呟くのを皮切りに、会議場全体に苦い顔が広がっていった。

970 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:11:05

「烈風改の配備に際しまして、艦隊司令部付きの士官や現場のパイロット・整備士には
 前もって十分な教育を行えたのですが、直前に大鳳に異動になった下級仕官には残念ながら・・・
 そもそも、大鳳自体の錬度も危険な水準でしたので。」

「まぁ、今回は時間がなかったからな。とはいっても下士官とはいえ仮にも帝国の士官が
 新兵器の仕組みも理解できていないようでは、現場が困る。」

海軍総長として嶋田も苦言を述べるのだったが、そんな彼を山本は複雑な目で見ていた。

「(しかし、何も陸軍の前で身内の恥を曝すことはないだろうに・・・)」

そんな苦々しい山本の胸の内とは別に、陸軍側に海軍を嘲笑するような気配はなかった。
そんな陸軍の代表として、杉山総長が意見を述べる。

「平時ならともかく、そもそも準備万端で新兵器を導入できる訳ではないだろう。
 今回の件は、参謀本部の方でも重要案件として解析すべきかと。
 今後の新兵器導入について、良いサンプルケースになるはずだ。」

特に論うでもなく、冷静に対処しようとする杉山に山本が内心、驚愕していると

「いいだろう、海軍の方は北米大陸侵攻で手が空いていないからな。
 この件の解析については陸軍にまかせるが、海軍からも人を出そう。」

あっさりと嶋田が同意し、周りの高官もそれを当然と受け入れた。
かつて、前世(?)で上司の無理解や営業の安易な口約束だけでの無茶な新技術導入に
生地獄を見たことのある彼らは、これらの現場丸投げの運用がどんな悲劇を生むか知っていた。
そして、それがこの国の慣習になった場合の暗黒の未来を回避するために、過去の慣習にとらわれない
"決まり"だけでない"仕組み"を創造できる組織作りをモットーにしていたのだ。

「(これも夢幻会の力なのかっ!?) 」

この時代の有能で先進的ではあるが、一般的な軍人思考しか持ち得ない山本五十六は
ただただ、圧倒されるしかなかった。


海軍側からは、この報告以外にも大鳳自体、そして第2艦隊の新型艦を中心にするものが続き
やがて報告は陸軍へと移っていった。

971 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:12:12

陸軍からは、ハワイ諸島の占領経過や富嶽を配備するための空港施設の整備状況が優先して
報告された。他にもフィリピンや中国大陸の近況が報告される。
そして報告内容は先日ソ連からまわってきた、独軍の鹵獲兵器の調査報告へと移っていた。

「先日、ソ連から入手したBf109の残骸ですが、機首の損傷や主翼の欠損はありましたが、
 幸いエンジンや計器類は無事でした。
 そして、このエンジンなのですが刻印からDB605と判明しました。」

「DB605? では、ようやくグスタフ(Bf109G)のおでましということか・・・」

一人納得する嶋田だったが、ふと永田達の物言わぬ視線を受けて自分の失言に気が付いた。
ここには、海軍大臣として逆行者でない山本もいるのだ。その山本海軍大臣からの質問が飛ぶ。

「グスタフとは何のことですかな、総長?」

特に裏のある発言ではなかったのだが、嶋田は内心冷や汗をかきまくりだった。

「あぁ、すまない。グスタフとはBf109Fの次にくるBf109シリーズ
 コードネーム・・・非公式な愛称だ。
 以前、英国経由で独逸がBf109の本格的な改修に乗り出したらしいという情報を掴んでいてな。
 たしか、エンジンの換装と武装の強化が主だったと記憶しているが・・・」

そのまま、嶋田は話を逸らそうと視線で報告の続きを促す。

「はい、嶋田海軍総長のおっしゃられるとおり、DB605はDB601のシリンダー容積を
 拡大し、 排気量を上げることによって出力増大を狙ったエンジンのようです。
 以前入手したDB601と比較して外形寸法こそ大きく変わっていませんが、出力は大きく
 向上しております。また、ブーストシステムとして水メタノール噴射装置が確認されました。
 武装に関しましては、鹵獲時にソ連が取外したようで断定はできませんが
 胴体に13mm二門、そしてプロペラ軸内に20mm一門であると推察されます。」

「Bf109は、帝国の戦闘機より一回り小さかった筈だが・・・やけに重武装だな。」

山本も航空機に関しては一家言をもっていた。

「それと、もう一つ興味深いものも確認できました。
 こちらの写真をご覧ください。」

そう言って夢幻会の梃入れで、無駄に高画質カラー映像となっているスライドに映し出されたのは
鹵獲機Bf109Gの無傷な尾翼部分だった。

972 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:13:32

すぐに嶋田や航空機に詳しい逆行者達が、その垂直尾翼の前段に胴体と繋がる"ヒレ"が
存在することに気付く。

「これは・・・ドーサルフィン?」

山本や他の出席者にドーサルフィンがどういうものであるか説明がなされる間に
嶋田は自身の思考に沈みこむ。
この憂鬱世界でドーサルフィンを装備した航空機は、日本軍の機体を除いて未だ存在して
いないはずだった。というより、非道なことにドーサルフィンはバブルキャノピーとセットで
日本発祥の技術となっているのだ。
バブルキャノピーと出会えていない米国軍機はいうに及ばず、英国のスピットファイアや
ハリケーンでさえ未だマルコムフード止まりなのである。
さらに大型機に目を向けても、中国やハワイ沖海戦で確認されたB-17は全て胴体から
垂直尾翼が直接立つ形状、いわゆる初期型のままであり、特徴的なドーサルフィン付きの
E型は未だ確認されていなかった。では独逸はどこからドーサルフィンの情報を得たのか?
史実において独軍機に大々的に採用された記録はないはず・・・となれば、
やはり帝国の機体が参考になったとしか考えられない。嶋田の思考は加速する。

「(BOB? いや、あの頃の九六式には未だドーサルフィンは無かった筈だ。
  となれば米国との開戦以降か・・・
  中国での大規模な戦闘の最中に正確な情報を得ることは
  いくら何でも無理だろう・・・・・・いやっ!)」

嶋田の脳裏に閃くモノがあった。

「フィンランドか。」

静かな声であったが、その発言は未だドーサルフィンに関する質疑応答が続いていた
会議室の音を止めることになった。

「今回、鹵獲されたBf109Gのドーサルフィンの形状は一式のそれに酷似しております。
 情報の出所如何はともかく、参考となったのが飛燕であることに間違いはないかと。」

しかし、ここで嶋田はふとドーサルフィンの本来の役割を思い出し、内心吹き出しながらも
何とか言葉を紡ぎ出した。

「だが、ファストバックなままのBf109にドーサルフィンをつけて何の意味があるんだ?
 別に安定性が足りていないということもないだろうに。」

それでも、最後は笑いが表情に出てしまった。陸軍参謀総長の杉山がこれを受けて答えた。

「おそらく、優秀なルフトバッフェ総司令官殿のゴリ押しでは?
 いや、もしかすると総統閣下直々の勅命とか・・・」

史実の独軍機開発におけるゴタゴタを知る者なら誰でも思いつく冗談であったが
実はこの場合、これが正解なのであった。

973 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:14:04

独逸は総統閣下直々の指示で、対米戦(フィリピン沖海戦)で日本の航空機が叩き出した
未曾有の戦果の機密を入手しようとしたのだが、戦時中でしかも地理的に島国で黄色人種という
スパイ行為の難しい条件に頭を抱えていた。
そんな中、日本からフィンランドに最新鋭の戦闘機が提供されると言うことが明らかになり
独逸の情報部は、これに飛びついたのであった。

やがて独逸のルフトバッフェ総司令官のもとには、情報部からヒトラー経由で
フィンランドで運用されている一式戦闘機<飛燕>の情報がもたらされた。
この戦闘機の性能の秘密を暴き、それを我が軍の戦闘機に至急導入するように、と一筆添えられて・・・

とはいっても、技術というのはそう簡単に盗める物ではない。
例えば目の前にエンジンの現物があったとしても、それとまったく同じ物を即作れというのは、
現代の技術をしても不可能に近いのだ。例え設計図があったとしても、それを構成する
部品の一つ一つには、その材料となる金属の配合や製造のノウハウというモノがあり
決して形だけ同じにしても、同じ性能を出せることはまず無いのである。

ヒトラーの無茶な指示に、ゲーリングのオッサン・・・いや、ルフトバッフェ総司令官は頭を抱えた。
そもそもルフトバッフェの高官には、第一次大戦のパイロット上がりの人間が少なくなかったのだが
この頃のルフトバッフェ参謀本部は、どちらかというと悪い意味での官僚組織然としてきた所があり
技術の解析などを行う研究者肌の人間が遠ざけられ、懇意にしている企業の利益を代弁するような
空気が広がり始めていたのだった。

しかたなく、ゲーリングはメッサーシュミット社の社長であるウィリー・メッサーシュミットに
日本の戦闘機の資料を見せると共に、何とかその技術を至急、分り易い手段で新型機もしくは現行機に
導入できないか相談を持ちかけた。
そして、そんな社長の支持を受けたメッサーシュミット社の技術陣は、ちょうど開発も終盤に及んでいた
Bf109Gに、素人(総統)にも分り易く、且つ性能にも対して影響を"及ぼさない"であろう
ドーサルフィンを、無理矢理後付で追加したのだった。
もちろん、ドーサルフィン導入による性能の向上は、カタログスペックを弄くりまくって誤魔化した。

974 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:14:59

場面は戻って、憂鬱日本の総理官邸

「しかし、笑ってばかりもいられないな。Bf109はともかく
 Fw190あたりに採用されると厄介な敵になるだろう。」

嶋田は笑いながらも、気の緩み始めた軍議の空気をしめ直した。

「では、対策はどういたしましょう総理。フィンランドに警告なり制裁を与えますか?」

嶋田を総長ではなく総理と呼んだのは、この件が多分に政治的意味を持つからだ。
問いかけられた当の嶋田の方は、目を半眼にして自分の考えを纏めようとした。

今回はドーサルフィンだけのようだが、今後同じことが起きるのはマズイだろう。
かといって、警告を与えても今のフィンランドにすぐに情報戦に対応できる力は無いだろうし
徒に制裁など与えて独逸よりにしてしまうのは論外だ。
何とかしてフィンランドがその当りに対応できる時間を稼ぎつつ、情報戦のノウハウを・・・
と、イロイロ考えていた嶋田の脳裏に、ふとした悪戯のような閃きが降りてきた。

嶋田は目を見開くと会議場を見渡し、国を預かる総理大臣として発言する。

「この件、大日本帝国としてはフィンランドに警告も制裁も無しだ。
 もっとも、スオミに入り込んだ覗き屋連中には、相応の報いを受けてもらおう。
 その手段については私に考えがあるので、追って伝える。」

そう言って、嶋田はニヤリと笑みを浮かべた。
対中対米戦で確固たる実績を上げた嶋田の笑みは、一般の人が見ればカリスマ溢れる
迫力ある笑みなのであろうが、裏表で付き合いの長い永田や杉山辺りには、
どっかで見たような形の笑みに思えてならなかった。

その日の軍議は、その嶋田の笑みが締めとなり、お開きとなった。

そんな黒い笑みを浮かべた嶋田をみて、この会議に出席していた夢幻会の構成員達は
最近の嶋田さん蔵相に似てきたなぁと、コソコソ語り合ったのであった。

975 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:15:54

その夜の夢幻会の会合で、嶋田は昼間のBf109Gのドーサルフィンの件を引き合いに出し
ある提案をしていた。

「今度、フィンランドに提供する兵器の中に、ちょっと毛色の違う機体を追加で加えてみたいのです。
 建前的には、義勇兵の提供に対する返礼とでもすれば議会も納得させられるでしょう。」

そんな嶋田の発言に、代表して近衛が疑問を呈する。

「フィンランドに警告や制裁を与えるでなく、さらなる支援を行うと?
 その意図は、一体何なのかね?」

「はい、Bf109Gへのドーサルフィン導入が、フィンランドに提供した飛燕であることは
 まず間違いないでしょう。今後も同様のことが起こると見て間違いないでしょう。
 しかし、情報の流失経路が分っているなら、それを逆手にとってチョッと嫌がらせをですね。」

ハテナマークを浮かべる一堂に、苦笑を浮かべた嶋田が説明を続けようとした。
すると突然、襖の向こう側からバリトンボイスの高らかな笑い声が聞こえてきた。

「フッハハハーー!我が倉崎のぉっ!、技術はぁーーーっっ!!、世界一ィィィーーーーーツ!!!」

身体をサイボーグ化したのか、はたまた石仮面でも被ったのか?
そこには未だにお迎えの来る気配すらない
倉崎のご隠居こと倉崎重蔵がシュト○ハイム・ポーズで仁王立ちしていた。
思わず突っこもうとする嶋田だったが、倉崎重蔵は素早くJ○J○立ちに移行すると
嶋田をビシッと指差し

「おまえの次のセリフは、『まだ生きてたんですか倉崎会長』という!」
「まだ生きてたんですか倉崎会長・・・ハッ!」
「「「ジョ○フッーーーーー!!」」」

やんやと盛上がる会合のメンバー。

「お父さんどうして・・・どうもスミマセン皆様方・・・」

息子で会合に参加していた倉崎潤一郎が、恐縮しきりで必死になって父を抑えようとしていた。
夢幻会のこの夜の会合は、久しぶりに嘗ての活気(?)とノリを取り戻していた。


***************** しばらくお待ちください **********************

976 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:16:40

重蔵はどっかと、嶋田の正面の席に座ると

「話は聞かせてもらったぞ! 嶋田クン!人類は滅亡するっ!!」

相変わらずな重蔵の様子に、思わず嶋田の顔にもここ最近忘れていた種類の苦笑が浮かんだ。

「まぁ、冗談はこれくらいにして、要はフィンランドに帝国の代理になってもらって
 欧州の航空機進化をミスリードしてやれば良いのだろう?」

さすがに重蔵は嶋田の言わんとするところに気付いていた。

史実では、この第二次大戦から米ソによる冷戦突入までの間、特に航空機は凄まじい進化を辿る。
しかし、この憂鬱世界ではその二大国は既にジリ貧となっており、となれば航空機進化の旗手となるのは
憂鬱日本を除けば、独逸や英国、そしてフランスやスウェーデンあたりであろうか?
その開発の足を少しでも引っ張ることができるのなら、それは日本のアドバンテージに繋がるはずである。

「その通りです。例えば二重反転プロペラとか逆ガル翼とか・・・
 とにかく、見た目が派手で性能アップが見込めて、それでいて開発リソースや資源を
 浪費しまくってくれるのが理想ですね。
 少なくとも疾風の稼動が軌道に乗るまでの間は、レシプロ機に拘らせておきたいですから。」

「うむ、ならばワシがこんなこともあろうかと~(長いので略)~ておいた、
 倉崎重工謹製フライングパンケーキ(※1)をっ!!」

「いつの間に・・・いえ、あの、フィンランドは一応友好国なので・・・」

「待って下さい、そういうことなら三菱も一枚噛ませて頂きますよ!
 我が社がハインケル博士と極秘で~(さらに長いので略)~した
 和製ツインHe219Z(※2)がっ!!」

「どこからその予算を・・・イヤですから、あまりソ連を刺激しすぎるような機体は・・・」

ある意味リアル・ミリオタ達のガチ抗争ともいえる論戦は、空気を読まずに激化していった。

「カァア~~ッ! チミ達わ、我が社の『えんじょい・あんど・えきさいちんぐ』が解せぬのかぁぁ~っ!」

「倉崎翁こそ、老いて『漢の浪漫』を忘れましたかぁ!そもそも倉崎の機体はモールドが甘いっ!!!」

そんな頭を抱えたくなるような論争を聞きながら、嶋田は以前のホンの短い間ではあったが
それなりに穏やかで、こんなバカ話やってばかりだった頃のことを思い出していた。
あの頃の自分は総理大臣のような分不相応の役どころではなかった。
もし、あのまま少将あたりで、さっさと軍を辞めて実家でも継いでいれば
今頃はカワイイ巫女さん達に囲まれて・・・ハッ! いかんいかん、これではMMJではないか。
よし、やり直しだっ! もし、さっさと軍を辞めてパン屋でも始めていれば今頃は・・・

「嶋田さん、現実逃避しないで具体的なところを詰めていきましょう。」

こんな時でも辻は冷徹だった。

977 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:17:16

辻の後ろには、倉崎の潤一郎や三菱のまともな役員、冬戦争でフィンランドに縁のある
杉山などが顔を揃えていた。

「震えるぞハートゥォ! 燃え尽きるほどヒートォォッ!!」

「オレのこの手が真っ赤に燃えるッ! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅッ!!」

「むぅっ! あの技は・・・っ!!」

「「「知っているのか、Jack!?」」」

      • あちらの戦いも架橋に入った模様だ。

「取敢えず、フィンランドに送る戦闘機のなかに変わった機体を混ぜるのは賛成です。
 最近は、ソ連も枢軸側からの圧力が弱まったせいか、こちらのレートを渋るようになりまして。
 それに今後、諸外国に売り込む兵器の良い広告塔にもなってもらわねば。」

フッフッフッ・・・といつもの笑みを浮かべながら、辻は倉崎・三菱に話を振る。

「ところで倉崎さんと三菱さんに、嶋田さんの言う様な機体の充てはありますか?
 あぁ、モチロンまともな奴ですよ。」

「戻って確認してみないとはっきりとしたことは言えませんが、
 飛燕のグリフォン・エンジン版(※3)はどうでしょう?
 二重反転プロペラを採用していますから、外観での印象は抜群です。
 保守部品も、先に送った飛燕とほぼ共用できますので、フィンランド側に負担も少ないかと。」

「三菱には、<土星>星型エンジン搭載の三式(※4)があります。
 こちらも五翅プロペラなんで、スオミに入り込んでる覗き屋さん達も喜んでくれるでしょう。
 空冷で低オクタン価の燃料でも飛べますんで、あちらでの運用も楽なはずです。」

お互い営業スマイル全快なのだが、嶋田はその間に白い火花を幻視したような気がした。
まぁ、帝国を代表する技術系の企業が切磋琢磨するのは、馴れ合いの談合より遥かにマシだろう。
そう自分を納得させながら、嶋田も具体的なところを詰めていく。

「そうなるとフィンランドと話を通しておく必要があるな。
 政府筋からだと不安があるか・・・
 杉山さん、マンネルヘイム将軍との伝手はまだ生きていますか?」

嘗て冬戦争で、フィンランド派遣軍の指揮を取った杉山に確認する。

「まぁ、大丈夫だろう。時節の挨拶ぐらいなら今でもしているからな。
 今回送る変態機を、独逸やソ連の鼻っ面で飛ばしてもらえばいいのだろう?」

「イヤ、変態機って・・・確かにそうなんですが・・・」

余りの言い様に、思わず嶋田がコケそうになる。

「それで逝きますか・・・おや?あちらも終ったようですねぇ。」

そこには学ランを着込み傷だらけの漢達が、夕日の沈む海岸をバックに腕組みして男泣きしている。
そしてその中心には、唇の端から血を流した倉崎重蔵が横たわっていた。

「・・・美しいな・・・ド○ン」

「「「師匠ッッッーーー!!!」」」

「・・・っ、死亡確認!」

「おっ、お父さん!?」

ネタのわからない潤一郎が一人慌てる。

「ホントにいっぺん死ねばいいのに。」

そう呟いた嶋田に罪はないはず・・・


   ~ 提督たちの憂鬱  完  ~


しかも、勝手にエンドロールまで付いたのであった。

978 :フィンランドスキー:2012/05/20(日) 13:18:11

夢幻会の暗躍が実ったのか、欧州の航空機開発はホンの短い間ではあったが停滞することになる。
独逸においては、嶋田の意図する通りに、2重反転プロペラを採用したBf109K(※5)等が登場し、
本来ジェット機開発に向けるべきメッサーシュミット社の開発リソースを食いつぶすことになった。

そして、これは本来夢幻会側が意図した訳ではないのだが、何故か英国においてもスピットファイアや
ハリケーンに同様の事が試みられ、こちらは盛大に自爆した。
たしかに性能の向上は見られたのだが、生産性や整備性が許容できるレベルを超えてしまったのだ。
英国が自国の優秀な戦闘機を差し置いてまでも、烈風や飛燕の導入を強力に推し進めたのは
実は夢幻会の策謀であったのだよと、まことしやかに囁かれるのことになるのであった。


<登場機体>

※1 提督たちの憂鬱 設定スレ その7 >>276 辺境人さんの発言より
※2 He219は投稿が色々あったけど、変態度が足りなかったんで双子機にして、憂鬱版He219Zにっ!
※3 提督たちの憂鬱 設定スレ その9 >>279 Newさんの投稿作品より
※4 提督たちの憂鬱 設定スレ その9 >>276 自分の駄作より
※5 提督たちの憂鬱 設定スレ その10 >>408 Newさんの投稿作品より

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最終更新:2013年02月08日 16:19