747 :earth:2012/05/20(日) 00:28:58
『オーストラリア本土決戦の後』
オーストラリアとの戦争が呆気なく決着した年の年末。
総研の庁舎の一室で、年末に流れるTVの特別番組を見た
夢幻会の面々は顔を顰めていた。
「どうしてこうなった?」
「
アメリカとオーストラリアのせいでしょう……」
嶋田のぼやきに、辻が冷静に答えた。
「この世界だと民主主義は衰退するだろうな……」
会議室に据えつけられたTVではアメリカやオーストラリアで起きた自由民主主義の暴走について詳しく解説されていた。
それだけならまだ許容範囲だっただろうが、生放送のその番組は段々、自由民主主義が衆愚政治でしかなく、国を誤らせる危険な
政治であるという結論に向かっていた。
「自由派の面々も反論できないな」
「実例が多すぎるからな。アメリカだけならまだ何とか言い訳ができたが……白豪主義のオーストラリアのせいでこの有様だ」
「まぁ立憲君主制だから、我が国は何とかなるだろう。影響力が落ちかねない議会からは悲鳴が聞こえるかもしれないが」
大半の人間は顔を引きつらせていた。
「多少の問題はあっても、議会は維持しなければならない」
この近衛の言葉に反対意見はなかった。だが問題は他にもあった。
「東南アジアでは日本人でさえ油断したら奴隷にされるという話が広まっています」
「……帝国が舐められていると?」
「いえ、我々がオーストラリアを近代国家として滅亡させましたから、我々が舐められることはないかと。ただ」
「ただ?」
「日本人でさえ一歩誤れば奴隷。ならば他の国の人間なら、いとも簡単に奴隷にされると。この不安を解消するため各国では
我が国との関係強化を図る動きがあります。イギリス連邦のように連邦制を望む声も少しずつですがあがっています」
「「「………」」」
一方のドイツでは豪州の白人層の自滅振りに、白人全員が必ずしも優良人種とは言えないのではないかという声さえ挙がっていた。
彼ら(オーストラリア人)が自分達と同格の白人と断定すると自分の品位まで落ちるという考えが根底にあった。
このため亡命してきた白豪主義者は白い目で見られ、一部の人間は欧州の白人と何が違うのかを研究するためモルモットに
されていくことになる。
最終更新:2012年05月22日 16:50