138 :New ◆QTlJyklQpI:2012/05/27(日) 02:21:22
ネタSS ~戦艦大和~
またか・・・・・・
自分は今戦艦の艦橋に立っている
傾きつつある床、艦橋の外には夥しい血糊がついた機銃座や黒煙、空には夥しい数の
白い星を描いた機体が乱舞している。既に総員退艦命令は出したが果たしてどれほどの数が生き残れるのか
これは・・・この艦の名はたしか・・・・・・・・
「・・・・・・官、長官」
自分を呼んでいる声を聞き、伊藤整一の意識は急速に覚醒する。
ここは戦艦大和の艦橋、そこに備え付けられた長官用の座席だ。
「おお、済まん、いつの間にか寝てしまったか」
伊藤の反応に戦艦大和の艦長有賀幸作は苦笑する。
「全く、この艦で寝れる長官が羨ましいですよ。古参の水兵などは”揺れが無さ過ぎて寝れない”と愚痴ってるのに」
これには伊藤も苦笑して返すしかない。唯でさえ”怪物”を謳われる10万トン以上の巨体、船体が進水した時には
周りの住民に発生する津波を警戒して避難を促したほどだから外洋の波などまるで感じないのだ。
おかげで陸酔いの気がある水兵が悲惨な目にあってると笑い話にもなっている。
「長官、何かうなされていたようですが悪夢ですか?」
「いや・・・・とある戦艦の艦橋でな。その戦艦も巨大なのだが米軍機の大群に沈められる夢を・・・な」
「はあ・・・・実は私もなんです」
「ほう?」
「この艦に搭乗前からおぼろげに・・・搭乗してからはより鮮明になっていくんです」
「・・・・・その事は内密に・・・な。沈められる夢を司令長官と艦長が同時に見るなど変な噂が立ちかねん」
「は、気をつけます」
その後踵を返して仕事に戻る有賀を見つつ伊藤は思案する。
大和沈没により死んだ自分が全く違う道筋を辿る帝国に生まれ変わり、対米戦に実質勝利した後に
より強く生まれ変わった大和に乗るとは何の因果か。
一億総特攻の魁となった艦ではなく、より多くを抱えた帝国の御盾として生まれたこの艦を
十全に活かすことこそ私に与えられた任務なのかもしれんな・・・・・。
伊藤整一、誠実な性格に反するように帝国海軍の対空火器増設と対空戦闘の研究を強硬に主張し
「対空の鬼」と言われた男は対空火器の鉄の城の主として今船出しようとしていた。
最終更新:2012年05月27日 13:06