249 :グアンタナモの人:2012/05/27(日) 23:36:24

 二つの世界に駆け抜けた〝ゲート〟出現の衝撃から数年。
 世界は様々な思いが交錯しながらも、とりあえずは回り始めていた。
 これは二つの世界が交わった、その後の一幕である。


     <開通後の日常:史実世界日本国のある大学生の場合>


「魔術と超能力はほとんどそのままなのに、科学や軍事に関する知識や考察だけガチになってて違和感が凄い」

「国家や組織の関係も変わってるし、学園都市の位置も違うから別物臭がするな」

 日本国は関東地方、某私立大学の部室棟。
 新たにそこの一室に居を構えた学生の一団が、何やら思い思いに単行本を読み漁っていた。
 彼らが手にしているもの以外にも、大量に買い込まれたらしい単行本がテーブルの上に広げられている。
 それらの表紙を見てみると、新旧問わず有名なライトノベルのタイトルたちが並んでいた。

「こっちは日常物だからざっと読んでも、そんなに差異はないかな。でも、オタ趣味には寛容なのにエロゲだけ敵視ってどうなんだ?」

「そりゃお前、息子ならともかく娘がエロゲやってたら親として止めるだろ」

 しかしよく注意して眺めてみると、何かがおかしい。

「主人公が別人なんだけど、なにこれ」

「向こうの高校生ってこれがデフォルトなの? もう神の左手なくてもいけるんじゃね?」

 そう、何故か同じ装丁の単行本が並んで置かれていたのだ。

「委員長の武器が地味にアーミーナイフから小太刀になってる」

「うお、本当だ……でも変化ってそこだけ?」

 間違って同じものを二冊買った、という訳ではない。 
 これはタイトルこそ同じであるものの、出自が異なっていた。
 片方は史実世界のもの。そして、もう片方は門の向こう側――憂鬱世界のもの。
 彼らが興じているのは、似て非なるもの同士の読み比べだった。

251 :グアンタナモの人:2012/05/27(日) 23:37:43

 異世界サブカルチャー研究会。
 去年、新しく設立された彼らの部活は、こうして門の向こう側のサブカルチャーを取り寄せ、こちらとの差異研究を活動目的に掲げていた。
 もっとも題目こそ立派だったが、実態は向こうのアニメやライトノベルを読んでみたい物好き達が寄り集まっただけである。
 こちらの世界とあまりに異なる門の向こう側に憧憬を抱く人間達や、反対に蛇蝎の如く嫌う人間達が居たが、彼らはどちらかと言えば前者に属する。
 サブカルチャーが大手を振って闊歩できる世界。
 一青年である彼らの憧憬は単純だが、そこに集約されるだろう。
 断片的に聞いたところによると、向こう側のサブカルチャーはかなり歴史が古いらしく、そのために創作物も高水準が維持されているらしいのだ。
 現に何とか取り寄せた向こう側の作品達は、どれもこれも良質な作品ばかり。
 これで憧憬を抱かず、何を抱けというのか。
 むしろ抱かなかったら、ヲの字が廃るというものだ。

「おい、お前ら! ついに手に入ったぞ!」

 彼らの研究活動、もとい読み比べが一段落しそうになった頃、一際大きな声と共に部室の扉が開け放たれた。
 特殊部隊もかくやと勢いよく部室に入ってきたのは、何かがぎっしりと詰まった紙袋を手にした部長。
 彼の姿に、部室の中で単行本を読んでいた面々が一斉に反応する。

「まさか、例のあれですか!?」

「そう、例のあれだ!」

 喜色を帯びた声へ応じるように、部長が持っていた紙袋の口を開く。
 瞬間、部室は何十倍にも膨れ上がった歓喜の声に包まれた。

「おお! これが向こうの世界の!」

「半世紀前だって聞いてたのに、作画がこっちと遜色がないってどういうことなの。オーパーツか?」

「デジタルじゃないとは思えないな。確かセル画だっけ?」

「お馴染みの面子以外にも南米っ娘や東南アジアっ娘に中華っ娘……じゃなかった。福建っ娘だとか華南っ娘なんてのもいるらしいな」

 彼らの熱い視線を浴びているのは、紙袋に詰まっていた〝復刻版〟なる銘が打たれたDVD。
 その表面に描かれている見慣れた、それで居て何処か異なる魔女達のイラストであった。

「これだけじゃないぞ」

 そう言いながら、部長は紙袋を床に置き、紙袋の奥に手を入れる。
 そして数秒後、引き出された手には〝新装版〟という文字と共に〝ジェット化〟された見慣れぬ魔女達の姿が。

「「「おおおー!」」」

「向こうの世界だと、アニメっていったらこれだ!ってくらい有名な作品らしくてさ。かなり種類があるんだよ。それでこれは最新版」

 口の端を嬉しそうに釣り上げながら、部長は言う。
 だが続けようと思った言葉は、鼻息を荒げた部員達の表情を見て取り止めた。
 長々とした前口上よりも、実際に見せた方が早そうである。百聞は一見に如かず、だ。

「それじゃ、早速上映会するか。お前ら、さっさと準備しろ!」

「「「イエス、サー!」」」

 その後、彼らのテンションが天元突破し、部室で夜を明かす羽目になったのは言うまでもない。


(終)

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最終更新:2012年05月27日 23:43