928 :Monolith兵:2012/06/07(木) 04:51:12

ネタSS「美食家達(?)による憂鬱」 改訂版



 太平洋戦争が終わり、かつての戦争の記憶が薄れた1986年。日本は戦後獲得した土地に対する投資や利権などによる好景気の中にいた。領土や影響圏が広がるということは、それだけ様々な文化が入り乱れるということでもあった。しかし、史実とは違う運命をたどった国々もあった為憂鬱世界では史実に見られない文化が相当見られるようになっていた。

 そんな中でとある広めの家で数人の男たちが心足沈んだ顔で話し合いをしていた。

「まさかこんなことになるとは。」

「史実とは全く違う歴史だからこうなるのはわかるが…。」

 男たちが嘆いているのは日本の食文化に関してだった。
 日本はアメリカに勝った。そして、アメリカは崩壊した。それは、某Mハンバーガーや某ケンタッキーや某ピザチェーン等がなくなることを意味した。
 とはいえ、ここは転生者が跋扈乱舞する憂鬱世界である。無いなら作ってしまえ、の精神の下彼らは様々なものを作り上げた。
 某Mバーガーを作り上げた男は何をトチ狂ったかMが某配管工だった。某ケンタッキーや某王冠は似たものを普通に売っていたがメニューはロシア風にアレンジされたものとなっていた。
 当初某Mバーガーは史実そのままで売り出したのだが、ハンバーガーがアメリカ食であると知れると客の入りが少なくなった。そこで、任○堂にいた転生者仲間と配管工のハンバーガー屋を開くことになったのである。なお、某M配管工が出てくるゲームの主人公の職業は未来永劫にわたってハンバーガー屋と勘違いされたままとなる。

 そのように色々と史実と違う憂鬱世界だが、枢軸と渡り合いアメリカを滅ぼした憂鬱日本では自国文化に対する自尊心が高まり、史実のように舶来品に傾倒することはなくなっていた。
 それは食文化でも同様だった。

「マクド○ルドやケン○ッキーはまあいい。だが牛丼屋はほとんど無いは、アイスクリーム屋も ない。焼肉屋も無いはでどうなってるんだ!」

 日本の敗北によるアメリカからの食糧支援が無かったため、ジャンクフードアイスクリーム、ポテトチップやフライドポテトといった揚げ物もあまり普及していなかった。その代わりにロシア料理のうちいくつかがジャンクフード化し人気となっていた。

 止めに、アメリカ産の安い牛肉がないために現代人には必須の牛丼屋も焼肉屋がなかった。正確にはチェーン店がなかったのだ。その代わりか、定食屋やファミレスが多くありその穴を埋めていたが。
 また、中華料理は中国=薄汚い裏切り者という公式が成り立っており、ラーメン等の一部を除いて好かれていなかった。(最も福建料理として事実上普及はしていたが)
 だが、彼らが嘆いているのはそれだけが原因ではなかった。

「なんでシュールストレミングが市民権を得ているんだ?」

「クサヤはまあ解る。だが、キビヤックが日本全土で認知されてるのに納豆が知られていない のは理解できん!」

 キビヤックは世界で最も臭い発酵食品であり、海鳥をアザラシの腹に詰めて地面に埋めて作る。クサヤは説明の必要はない。領土が広がったせいでこれらは”日本料理”になっていた。 一方、納豆は史実でも日本中に知れ渡るようになったのは1980年代以降であり、実際に全国的にメジャーとなったのは90年代に入ってからである。
 そんな納豆であるが、これまたアメリカ産の大豆が入ってこなくなった結果史実よりも普及は進まなかった。納豆よりも全国的に需要のある味噌や醤油、豆腐のために優先的に使用されてしまうからである。史実では南米勢が頑張っていたが、ブラジルもアルゼンチンも枢軸側についていたために大豆の輸入は交換勢もあり難しかった。国産で賄おうにも生産量はたかが知れているし、史実以上に増えた人口によって大豆の需要は逼迫していた。
 史実では世界の7割以上を占めた南北アメリカの大豆生産国が滅びるか枢軸側についたのである。無論、日本も新たな大豆生産国を開発したがほとんどが味噌、醤油、大豆等で消費されてしまっていた。そのために納豆の普及は史実と比べて進んではなかった。
 それだけならば、大豆の増産を福建等に要請して行なっていただろう。だが、夢幻会内部で”納豆を普及しよう派”と”納豆は食べ物じゃないよ派”が熾烈な戦いを続けていた上に、”納豆は生物兵器だよ派”や”納豆は劇物だよ派”、さらには”臭いものの蓋を開けよう派”などの暗躍もあって納豆の普及は防がれていたのであった。なお、”臭いものの蓋を開けよう派”は納豆推進派ではあったが、匂いが控えめな納豆は邪道だと断じていたので結果的に納豆の普及を阻害していた。

929 :Monolith兵:2012/06/07(木) 04:51:46

 それはさて置き男たちの会話に戻る。

「朝食に出てくるオカズがぬか漬けだけなんだ。納豆も辛子明太子もキムチもないんだ。なのに この間ピクルスが出てきたぞ。ヨーグルトも毎食のように出てくるし、しかもだ、娘がご飯に ヨーグルトかけて食べてたんだ。もう泣きたい。」

 皆一様に今の状況はマズイとわかっている。しかし、もはや変えようがなかった。世界のどこにも食料の余裕が無かったし、あったとしても自由貿易という言葉等ない憂鬱世界では食料の輸入は不足分を補う以上の輸出入は行われていなかった。さらに、列強筆頭となった日本は戦略物資となる農作物で隙を見せるわけにはいかなかったのだ。

「おそらくこの先も我々は今のような不遇な状況にあるだろう。」

「何といってもアメリカが無いせいで世界の食糧事情は逼迫しているからな。」

「中国の人口が内戦のおかげで少ないのが唯一の救いか・。」

 アメリカはなく、中国の人口は減少した。ヨーロッパは未だナチスが健在であるしどこの国にも余裕が無かった。そんな中で彼らのように食を楽しむ人間は多くはなかった。


 今日もそしてこれからも、彼ら美食家たちの憂鬱は続いていくのである。







おしまい

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最終更新:2012年06月07日 23:53