103 :earth:2012/06/08(金) 22:07:01
西暦1943年9月、アメリカ合衆国を崩壊に追い込み、メキシコに核を落として列強筆頭の座に上り詰めた日本帝国。
だがその帝国の政務を司る男、嶋田繁太郎は首相官邸で招かざる客を追い返して漸くひと時の安息を手に入れていた。
机の上に突っ伏す嶋田を見て辻は労いの言葉をかける。
「お疲れさまです」
「あの『宇宙人』の言うことは理解できん……」
「ははは、私もですよ」
彼に直談判に来たのは、1年前に現れた『60年先の日本』において首相となった男だった。
「あの忌々しい門さえ無ければ……」
西暦1942年8月17日。大西洋大津波が起こり、日本と米中連合軍が戦端を開いた翌日、それは起こった。
富士山麓で起きた史実には無い地震。決して小規模ではなかった地震から、
夢幻会ではもう衝号の影響が現れたのかと
緊迫した空気が流れた。
実害は少なかったため、日本の戦争計画に大きな影響こそ無かったが、夢幻会は戦中、そして戦後に日本を襲うであろう
天災に対する備えについて見直しをすることになった。
「やれやれ、面倒なことです」
辻がそう言って肩をすくめる仕草をしたが、彼らの受難はそれで終らなかった。
1942年9月2日において、崩落した崖の近くで発見された洞窟。それが彼らにとってパンドラの箱となった。
その洞窟は、21世紀の日本に繋がっている……その報告を受けた夢幻会幹部は絶句した。
勿論、その門の存在は国家最高機密に指定され……密かに門の向こう側と接触することになった。
「協力は期待しませんが、不要な衝突を避けるために話し合いの席は持ちましょう」
こうして帝国と日本は接触した。
そして会談は予想通り平行線だった。当初、日本側は史実どおりの国と思っている日本帝国に対して戦争を止め
侵略した国々に謝罪と賠償をするよう要求することを考えていた。日本帝国側が提出した資料を読んでも半信半疑
であり戦争を即時停止するように求めるほどだった。
「帝国が真に平和を願う国家なら、今すぐ戦争を停止するべきだ」
「これ以上の戦争は、アジア諸国を不幸にするだけであり、日本にとっても利益にはならない」
「帝国が史実よりも豊かならば、その富で世界の再建に貢献するべきだ」
勿論、日本帝国側はこれを無視。むしろ不干渉を要求した。さらにもしもこちらに侵攻して来るなら洞窟を爆破する
とも通告した。日本側は「後で泣き付いても知らないからな」「後悔するなよ」と強く出たが、日本帝国側は揺るがない。
そして門周辺は封鎖され、最低限の情報交換のみが行われることになった。
104 :earth:2012/06/08(金) 22:07:44
だがこの日本人同士の奇妙な冷戦は、平成世界の
アメリカの登場によって幕を閉じた。
彼らはアメリカに大打撃を与えた大西洋大津波の情報やアメリカ風邪の情報を欲して動いたのだ。
勿論、夢幻会は平成世界が本腰を入れて大西洋大津波を調査すると拙いと判断し、先ほどの平成日本との情報交換で
得た情報を根拠にして平成世界の干渉、或いは進出に対して断固拒否する姿勢をとった。
「我が国を散々侮辱した国の同盟国を信用できると?」
「それは双方の情報不足から来る誤解だ。日本政府も今では貴国の窮状を理解し態度を改めている。また我が国は貴国と
この世界の合衆国との和平を仲介する用意がある」
「向こうの日本帝国を灰燼と帰し、無条件降伏まで追い詰めた国のお言葉とは思えませんな」
「貴国と、我々の世界の日本帝国は違う国だ。我が国は貴国とは交渉が出来ると判断している」
「同時にこちらの世界の合衆国とも交渉し、彼らを支援するのであれば意味がありません。この戦争は日本かアメリカの
どちらかが滅ぶまで終らないのです。中途半端にどちらかが残れば、再び戦争になるでしょう」
「……貴国が合衆国を滅ぼせると?」
「そのためのカードは用意してあります」
平成世界のアメリカ合衆国特使との会談で、嶋田はアメリカの調査団の派遣を拒否した。
ここまで強く出れたのは、洞窟という狭い場所に門があるためだ。仮に平成世界の米軍がどんなに強くてもこちらの
世界に展開できなければ意味が無い。無理に米軍が進出しようとしても、そのときは洞窟を門ごと爆破して封鎖すると
いう手が使えるのだ。また帝国側は核の存在と洞窟爆破のために使用することさえ匂わせた。
このため双方の交渉は平行線だった。こちら側のアメリカ合衆国が完全に崩壊しても同じだった。
そんな中、動いたのは最初の接触で日本帝国側の平成世界への心象を最悪にした日本政府だった。同盟国や環大西洋
諸国、並行世界への進出を目論む某共産国家、そして日帝の侵略を声高に主張する某半島国家の圧力によって彼らは
帝国との交渉を行うべく、特使を送り込むようになったのだ。
「双方の不幸な誤解を解くために、平成世界の日本をご覧になられてはどうでしょうか?」
日本帝国の高官を国賓として日本側に招待し、お互いの誤解を解きたいなどと言う特使に対する視線は勿論のことだが
冷たかった。
「我が国はそちらの世界を必要としないし、関係を深化させる理由もない」
だがそれでも、日本側の要請もあって日本との会談は続けられた。
そしてその結果、あの首相経験者が帝国を訪れたのだ。
「……面倒ごとは御免ですからね。門の向こうの連中が大挙してやってきたら大騒ぎです」
「こちらにも核があることを示しているから、早々下手なことは出来ないだろうが……帝国と私の安寧のためにも一刻も早く
門が消えて欲しい」
辻と嶋田のボヤキは今日も止まらなかった。
最終更新:2012年06月08日 22:31