120 :①:2012/06/08(金) 23:27:13
えー、他の著作物のネタで「私のパナマの怨念編」
前に書いた駄文と統合し、元ネタ風に装飾したら、なんかこのネタだけでかなりな長編になりそうで…
つーことでぼちぼち書くつもりですが、まとまりないし
さらにドイツ人やイギリス人なんかも出すとなると、気力が続くかどうか。
ということで予告編のような感じでさわりだけを…
なおこの駄文を読んでトランペットの響きが聞こえてきたら、
それは空耳です。
「砂漠の基地」
1.
展望車の一乗客、藤堂明中佐は豪華な展望車のソファに埋まり紅茶を飲んでいた。
高速で走る展望車の中では、ボーイやウェイトレスが愛想を振りまきながら給仕をしている。
ボーイはタキシード、ウェイトレスはフレッド・ハービー社の青い制服を身にまとっている<ハービー・ガール>だ。
そう、この列車は日本のものではない。
密閉式展望室に二階建てドーム、かつては「スーパー・チーフ」と呼ばれていたシカゴーロサンゼルス間を結んでいたアッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ鉄道のアメリカ大陸横断特急。
スーパーチーフはバッド社製のステンレス軽量車体として登場し、戦前の日本でもその銀色に輝く車体は有名で、満鉄の「
アジア号」が参考にするほどだった。
津波と合衆国崩壊で行き場を失い、ロサンゼルスの車庫で眠っていたのを日本軍が接収し、ロサンゼルスー南回りーソルトレイクシティ間の「カリフォルニア共和国進駐日本軍専用列車<はと号>」として運用されていた。
(しかし、なんでもこれはやりすぎだろう…)
藤堂中佐は思った、スーパーチーフの銀色に輝く車体に、カリフォルニア進駐軍鉄道局は車体に色を塗ったのだ。
それは国鉄茶1号塗装に一等車の種別である「白帯」。車内もコンパートメントを改造したり、座席を畳に交換させたり、「風呂」まで備え付けさせるというものだった。
そして密閉展望車に取り付けられた鳩の図柄の丸い行灯。
これは藤堂中佐は知らないが、
夢幻会所属の鉄道局員が史実の連合国専用列車の意趣返しだった。
史実の日本でアメリカ軍が、「富士」「つばめ」「かもめ」の行灯をつけていたマイテに「コロネット」「アンバサダー」と名づけて自分たちの専用列車にしたことに対する鉄ヲタ的復讐であった。もっともこの復讐は同じ夢幻会のアメリカ大陸横断特急ヲタから復讐を呼び込むことになるが…
そんな話はさておいて、なぜ藤堂中佐がこの列車に乗り込んでいるかといえば、彼は新しい赴任先に赴く為であった。
「日本海軍ラスベガス基地司令」
軍令部から一号艦艤装員になっていた藤堂中佐が、進水直前にネヴァダの砂漠のど真ん中の基地に司令として左遷される理由は、辞令を受け取ったとき本人は十分すぎるほどわかっていた。
(会議での戦艦不要論の報いだろうな、これは)
新型戦艦の進水を目前にして無念ではあったが、本人は覚悟していた。
むしろ新型戦艦の進水直前まで、戦艦派がよく自分を左遷しなかったと思ったほどだ。
新型戦艦の進水式に若干心を残しつつ、そして緊張高まるアメリカ大陸の基地勤務なので単身赴任となった。
何しろ次男の進はまだ幼く、礼子と共に呉に残した。
もっとも堀井さんちが近くだし、上の二人は独立しているので安心してアメリカ大陸に渡ることが出来た。
長男の守は一足先にカリフォルニアに来ている。サンディエゴに配置された「海鳳」」の搭乗員として勤務しているし、長女の貴子は日本航空のスチュワーデスとして世界を飛び回っているので、むしろ気にかけるほうが親ばかのような気がするほどである。
121 :①:2012/06/08(金) 23:28:11
2.
そんなことを思いつつ、藤堂中佐は手元の書類を開いた。
これから赴任する「日本海軍ラスベガス基地」の関係書類である。
カリフォルニア共和国はラスベガスを、フーバーダム防衛目的と共に、ナチスドイツと「接触」する地点の旧アリゾナ州域の一線基地を束ねる重要中継地点と定めていた。そしてユタ方面にも睨みを利かす、いわば扇の要の役割と万が一の二線を展開する防衛主要地点なのだ。
さらにカリフォルニア共和国はラスベガス近郊に旧東部諸州の難民を一時的に収容する施設も作っていた。
ラスベガスは共和国にとって「好ましからぬもの」を一手に引き受けさせられたような形に見える。
そして「日本海軍ラスベガス基地」と言っても、藤堂中佐が率いるのは直属の陸戦隊は本部小隊のみ。しかも難民収容所がある関係か、医療スタッフがほとんど。
戦力の実質は「旧アメリカ海兵隊」の大隊が担う。
それを日本海軍である藤堂中佐が率いる形となる、実質「旧アメリカ海兵隊駐屯地」という変形基地なのだ。
何でこのような変な基地が出来たのか、藤堂中佐は察しがついていた。不安定なアメリカ大陸情勢の日本からの人質とそう簡単に脚抜けさせない為と、
(日本とカリフォルニア共和国の厄介払いの産物だわな、これは…)
藤堂中佐は冷めた紅茶を飲む。窓の外は日が落ちて、黒い闇に包まれていた。
「はと」は日が落ちた山脈の黒々とした陰影に挑むように登っていく―
―翌朝、「はと」はラスベガスに到着した。
典型的な田舎の駅。待合室には日本海軍の士官が出迎えに来てくれていた。
「乾恭平特務少尉であります」
「藤堂明中佐です」
敬礼を交わし、挨拶もそこそこにシボレーに乗り込む。
駅前はカジノホテル、というより西部劇に出てくるような寂れた酒場兼賭博場のような建物が並んでいる。いずれも閉鎖中だ。
「なんか寂しい町だね」
「合衆国崩壊まではそこそこ栄えていたそうです。何しろ合衆国で唯一賭博が合法化
されてたそうですから。でも今はここら辺は流行じゃなくなって…」
「流行?」
「そうです、基地が出来てからそちらのほうにみんな移ってきました。何しろ基地周辺はウチがいるおかげで治安がいいとかで」
「そりゃ軍がいるから治安がいいだろうが、それは基地内のことだけだろう」
「司令も驚かれると思いますが、ラスベガス基地は基地であって基地じゃないんです。町みたいなものです」
「町?」
「そうです、町です。ちょっと大変な町ですが。おかげで嫁の恵子…ああ、少官は新婚なのでつれてきたんですが、基地についた途端、熊本に帰ると言い出しましたし…あと司令、日系人と付き合ったことはありますか?」
「いや、ないが…」
「ご存知かもしれないですが、ラスベガス基地の副司令、すなわち中佐の部下は旧アメリカ海兵隊の少佐です。上が日本人だからアメリカと日本が折り合えるために選ばれたそうですが…私から言わせればかなり複雑な感情の持ち主ですから、覚悟はされたほうがよいと思います」
(一体どんな基地なんだ?)
藤堂中佐はそう思いながら車に揺られた。そして驚いた。砂漠のど真ん中に基地、いや「町」が見えてきたのだ。
123 :①:2012/06/08(金) 23:29:20
3.
砂漠の中の堀を越えて基地内入ると、それは基地というよりも町だった。
いや、基地は建設中の航空基地周辺にこじんまりと司令部、兵員居住区がまとまっていたのだが、それを遥かに超えた規模で野戦築城がされていたのだ。
本来ならその巨大な空き地は演習場か倉庫が建てられて、一つの巨大な基地になるはずだった
だが、カリフォルニア共和国は何を考えたのか、その空き地に兵員家族居住地のみならず難民収容所となぜか軍属家族名目で居住区、すなわち一般市民の家まで建てたのだ。そしてここはラスベガス、人が集まれば賭博場が出来るに決まっている。そしてその建物は今来た駅周辺の下町のような賭博場ではない。
洗練されているがどぎついネオンとゆったりとした建物とビーチを写し取ったようなプールやゴルフ場を備えた豪華なカジノホテルが、野戦築城された基地内に混在しているのだ。
「なんで、こんな風になっているのかね?」
「小官もよくわかりません。最初旧アメリカ海兵隊がきた時には砂漠しかなかったそうですが…基地が建設され始めたらいつの間にかこうなってたそうです…、そしてここはラスベガス市ではなく、あくまでもラスベガス基地なんです」
「とすると、施政権は…」
「ラスベガス市ではなくカリフォルニア共和国直属という形で…そして基地司令が、すなわち藤堂中佐が市長のようなものでして…」
藤堂中佐は唖然とした―
―司令部は建設中の航空基地の管制ビルの中にあった。
ビル内もまだ工事中でそこかしこで騒音が鳴り響いている
藤堂中佐が司令部に入ると、中は雑多で建設道具の横に作戦地図の束が置いてある始末である。
その奥まったところに「司令官室」とプレートがある。藤堂中佐は扉を開けて中に入った。
中に入るなり怒鳴り声が響く。
「馬鹿野郎!上はなに考えてるんだ!クラウツどもがすぐ近くにいるって言うのにジャップまで入れるってどういうことだ!?」
「仕方ないだろう!それが政治というものだ!」
中で海兵隊の作業服を着た東洋系の人物とスーツ姿の白人が怒鳴りあっていた。
二人は藤堂中佐が入ってくると怒鳴りあうのをやめ、スーツの白人は帽子をかぶってそそくさと部屋を出て行った。
「何か用か!」
海兵隊少佐が藤堂中佐に敬礼もせずに怒鳴った。
「本日、ラスベガス基地司令に赴任した日本海軍藤堂明中佐だ」
「ほう、部屋を明け渡せと?」
「いや、
アメリカいや、海兵隊の副司令に挨拶をと、思ってね」
「それはそれはご丁寧に」
海兵隊少佐はわざとらしく日本人のお辞儀をする
「どうやら先ほどの話を聞いて察するに、君はわが軍の駐屯に反対のようだな」
「自分は反対です。ここは日本軍の力を借りなくとも海兵隊だけで十分に守れる」
「ドイツ軍がすぐそこにいるのに?」
「ドイツ軍がなんだ!?ここは「アメリカ」だ!アメリカ人が自分で土地を守ろうとしないでどうするんだ!?」
日本人のような顔つきの「元アメリカ」海兵隊将校が叫ぶ。
「君は日本人のような顔つきだが、やはり心はアメリカ人だな」
「そうだ、俺はアメリカ人だ。日本人じゃない、いくら容姿が似ていると言っても…」
「いや、君は立派なアメリカ人だよ。その心意気は捨てないで欲しい。むしろ我々は助けにきた友人として…その友人になるのがまず第一歩になるな。今まで敵だったのだから」
「…」
海兵隊少佐は黙る。
「まずはその一歩だな、では改めて。本日付でラスベガス基地司令に赴任した日本海軍藤堂中佐だ。これからよろしく頼む」
明はいわゆる色気のある敬礼をした。
海兵隊少佐も改めて敬礼をする
「ケーイチ・アンドー合衆国海兵隊少佐です。いろいろ迷惑をかけるかもしれませんがよろしく」
124 :①:2012/06/08(金) 23:30:13
4.
電話が鳴る。
アンドウ少佐が取る
「なんだ?…何?」
応対をする顔が曇る
「中佐、ある人物があなたにお会いしたいそうです」
「誰だ?」
「この町…いや基地の中で「ホテル」と称する賭博場を経営してる奴です」
「賭博場?」
「もちろん自分もそんな場所を基地内におくことは認めたくはない、しかし…」
「先ほどの上の連中かね?」
「それもあるが、残念ながらこの基地の海兵隊の運営費は奴の寄付で成り立ってる部分もある…」
渋い顔つきで少佐はうめくように言った。
「どうやら君にとっては好ましくない人物のようだね」
「元海兵隊だ、奴は面汚しだ…自分は会いたくないのでその間、司令と一緒に赴任した部下の案内をしたいのですが」
「許可する」
アンドウ少佐は敬礼して司令室を出て行った。
4.
しばらくして訪問客が海兵隊砲兵軍曹に連れられてやってきた。
「失礼します!基地内警備を担当しておりますハートマン軍曹です!こちらの客人が司令とご相談したいと参っとります」
と、いかつい顔した軍曹がカンサス弁丸出しで客を紹介した。
客は黒いソフト帽に、砂漠の中にもかかわらず黒い上物のコート。
まるでギャング映画に出てくるような人物だった。
「はじめましてトウドウ中佐、私はマイケル・コルレオーネです」
親しげに手を差し出してくる
明はソファを薦める
「確かこの基地で4つのカジノを経営されてる方でしたな」
「確かにカジノですが、ホテルがメインですよ」
「デザート・イン、サンズ、ナイツ、そしてフラミンゴ…最初はモー・グリーンという方だったと聞いていますが」
「事故死されたのでね、私が後を継いだのです」
「それで今日は?」
「挨拶とそれとお願い事が」
「お願い事?」
「実は私にはフレドという兄がいましてね、津波で幸いにも生き残って西部にたどり着いたんですが…兄がちょっとトラブルに巻き込まれましてね」
「トラブル?」
「基地内のカジノに遊びに来ていたドイツ将校と殴り合いです!」
横に控えていたハートマン軍曹が吼えるように言った。
「ここの基地はドイツ将校も遊びに来るのか?」
明はあきれた様に言う
「ここは東部からの難民も収容している。その調整にテキサスからもドイツ将校は来る。もちろんイギリスもね。ここに来るとなると遊び場所はあるのでね…それでここは基地、刑法ではなく軍法が幅を利かしているので…」
「私に手心を加えろというのか?」
「そうは言いません、しかし「配慮」をしてくれるのならこれからも来るであろうドイツやイギリス将校の私のホテルでの「行動」を逐一お知らせすることに協力は出来ますね、特に今偶然ここに来て私のホテルに泊まっている<テキサス総督>のラインハルト・ハイドリヒSS大将とか…」
こともなげにマイケルは言った。
(ここは魑魅魍魎が住む都だな)
明は思った。しかしホテル内での外国勢力に対する情報活動の助力は、帝国情報部が喉から手が出るほど欲しいに違いない。
「それは上と相談しなければならないが…お兄さんのことは私の指揮権で何とかしよう」
「ありがとうございます。なかなか司令官殿は話が出来るお方だ」
マイケルは立ち上がった
「しかし、なぜあなたはこの基地に多大な寄付を?危険が多い場所なのに」
「ファミリーの為ですよ」
「ファミリー?」
「私もアメリカ合衆国海兵隊の一員だった。私に残されたのは兄と海兵隊だけ…それだけですよ」―
126 :①:2012/06/08(金) 23:31:18
5.
―同じ頃、アンドウ少佐は日本海軍の若い軍医少尉を難民収容所の医療施設に案内していた。
施設のあまり整っていない診療所を見て若い軍医は言った。
「ここだ!ここが僕の理想とするところだ!」
「理想?」
少佐は怪訝な表情をする。
「乏しい施設に、病に苦しむ絶望の難民の群れ…そんな人々に腕を発揮して治療を施す…そして命を救って感謝される…最高のシチュエーションじゃないか!」
手塚治軍医少尉は周囲の状況を忘れて自分の思いに浸る。漫画より医学を志し、困窮する人たちに最高の医療を施すことが彼の目標になっていた。
しかし、案内してくれた少佐の顔を見てハッとする
「その病に苦しみ、故郷を逃げ惑っているのが、僕と同じアメリカ市民だ」
「いや…その…」
「いいんだ少尉、キミがその医療の腕を発揮さえしてくれれば、僕と同じアメリカ市民である難民はキミに感謝をささげるだろうから…」
能面のような表情をし、冷たい声でアンドウ少佐は言って診療所を出て行った
(マズッた…)
手塚治軍医少尉はメガネを取って冷や汗でまみれた顔をぬぐった―
―そして町の一角。
ドイツ人の将校とその部下が基地の一角にある店を眺めている。
「うまいところに潜り込んだな、てっきりスイスにいると思っていたが」
「ここなら我々も奴に用意に手出しできません、何せここは…」
「滅んだとはいえ精鋭のアメリカ海兵隊の基地、それも町ごと」
「さらに日本海軍陸戦隊までいます。ここで問題を起こせば」
「わがドイツは国際的に難しい立場になるか…」
頬に傷がある男、ラインハルト・ハイドリヒSS大将は忌々しく呟いた。
「まあいい、しばらく奴は様子を見よう。それにここにドイツ人がいると何か役に立つことがあるかも知れん」
「日加の情報も奴と取引すればそれなりに有用な情報も入るでしょう、危険な奴ですが」
「そのかわりにこちらの情報もな、何にしても奴はここに潜り込んだおかげでしばらく人生は楽しめる、忌々しいことだ」
ハイドリヒは車をスタートさせる。
「ふん、仕立て屋だと?ある意味奴に似つかわしい職業かも知れん」
「しかし一緒に逃げてきた愛人が愛人ですからね、ひと財産作るかも」
車の背後では客の紳士夫妻をココ・シャネルとヴァルター・シェレンベルクが送り出していた。
127 :①:2012/06/08(金) 23:38:27
6.言い訳
- つまらない文章で申し訳ありません
- 戦艦会議でやっちゃった藤堂中佐の左遷先を考えていたところ
ラスヴェガスの話を思い出しまして…
- 基地司令となるとトランペットの響きが頭に鳴り響き…
- 服司令女じゃあかんわな…元ネタの本命は艦隊士官だな…
誰かいい人いないかなと思ったら、ハーフの日本海軍士官を思い出しまして…
- ベルリンじゃなくてラスヴェガスに逝こう!と…
- ラスベガスのホテル王にはデキの悪い兄貴がいたなと…弟じゃないけど復活ということで…
- 若い軍医はあの人で…
- 若い軍医には仕立て屋が必要かと…
最終更新:2012年06月09日 00:18