171 :Monolith兵:2012/06/09(土) 15:46:27
ネタSS「とある職人達の憂鬱」
※読む前の注意
これはネタです。あくまでネタです。現実の職業、団体、地名とは全く関係はありません。
1974年は史実において香川県にとって記念する年となった。香川県は雨が降らず面積が狭く大きな河川がないためにダムが作れず、毎年のように渇水により苦しめられていた。だが、この年に徳島の吉野川水系から香川県へと水を輸出する香川用水が完成した。これによって、香川県は長年の水不足から解放され、農業、工業、うどん産業が栄えることになった。
しかし、この憂鬱世界では違っていた。
「これは由々しき問題だ。このままでは我が香川県は渇水の中で干からびてしまうぞ。」
「今年もまた米の作付け制限か…。」
「県は新しい溜池を作る方針らしいが、目ぼしいところには既にある。農業はもとより、飲用、工業用用水まで不足してる現状ではひとつふたつ作ったところで焼け石に水でしかない。」
とある商工会議所の一室で男たちは香川県の現状に嘆いていた。
事の発端は、吉野川総合開発事業に香川用水について盛り込まれなかったことだった。これには、徳島県出身で再び徳島県で生を受けた転生者の建設省幹部が頑なに讃岐平野への導水に反対したからであった。史実では香川への導水によって徳島県自身も渇水の危機が起こり、水は全て徳島のものという徳島県ともっと水をよこせという香川県との対立は根深かった。
そして、建設省の某幹部もまた香川県へ良い感情は持っていなかった。
172 :Monolith兵:2012/06/09(土) 15:47:50
「このままでは香川は立ち遅れてしまう。」
「水はない、土地はない、雨は降らない、そして人口は流出しつづけている…。最悪だ。」
「うどん立県なぞ夢のまた夢だな。」
この部屋に集まっているのはうどん職人達であった。しかも、転生者であり無限会で”讃岐うどん普及部会”と言われる派閥の男たちであった。
史実においてうどん産業は香川を有名にした産業である。うどんブームが日本中で巻き起こり、めぼしい産業のなかった香川県において香川県をアピールできる数少ないものとなった。そしてうどん県への改名。
その夢よ再び、というわけではないが、男たちはうどんを香川県をアピールする絶好の商品となるはずであった。だが、それも頓挫した。ほかならぬ水不足によって。
「史実では国産小麦の質の悪さに危惧していたのに、こっちでは水不足に悩まされるか。」
「史実でも香川用水への依存が大きかったですからね。」
皆一様に顔は暗い。うどん原料の小麦を作るには雨が少ないほうがいいが、うどんを作るためには大量の水がいる。そして、彼らが史実よりも早く”うどん屋でうどんを食べる”というスタイルを香川で広めてしまったために、香川は史実以上の水不足に見舞われていた。
「この状況はいかんともしがたい。だから、私から一つ提案したい。」
皆が発言した男に顔を向けた。男の顔は苦渋に満ちていた。
「香川でのうどん立県を捨てる!」
「そんな馬鹿なことできるか!」
「香川あってのうどんでうどんあっての香川だぞ!j
その言葉に全員から反発の声が上がる。だが、男は冷静に話を続けた。
「これ以上は水不足で死人が出るだろう。今年に入って水が原因の傷害事件が何件も起きているんだぞ。」
史実でも香川用水ができるまでは水をめぐっての傷害事件や殺人事件は多かった。
「だが、さぬきうどんを広めるのにはまだ早い。そこで、私は香川から出てうどんを広めようと思う。」
「香川から出たら讃岐うどんではない!」
「うどんをとるか命をとるかだぞ!」
「うどんで死ねたら本望だ!」
会議室は喧騒に包まれたがそれも長くは続かなかった。
「俺もわかっています。現状ではうどん立県は無理だって。でも、諦めきれないんです。」
「私もだ。だから、讃岐うどんを日本のスタンダードにする。」
その言葉に疑問符を浮かべるものもいたが、理解できたものもいた。
「つまり、日本全てを讃岐うどんの産地とするわけですか。」
「そうだ。日本人すべてを香川県人と同程度のうどん好きにする。そして、彼らが食べるうどんは讃岐うどんを先祖に持つ、いわば日本うどんとなる。私はこれをうどん浸透戦術と呼ぶことにした。」
この男の発言により、男たちは色めき立った。香川県だけではなく、日本全てを讃岐うどんの生存権とする!なんて魅力的な話なのだろうか!
「是非私たちもお手伝いさせてください!」
「俺たちもやります!日本をうどん色で染めてやるんだ!」
こうして、男たちの方針は決した。
なお、香川県人と香川出身の官僚たちのおかげもあって、香川用水はこの10年後完成することとなった。
おしまい
最終更新:2012年06月09日 21:28