232 :名無しさん:2012/06/10(日) 06:15:38

「大日本帝国の存続などけしからん! 私はその頃の日本が、いかに外道で残虐な行いをしたか知っているが――」
「ですが、あちらの歴史はこちらの歴史との差異が見受けられます。同じ国と見做すのは時期尚早では?」
「それはあちらが勝手に報告していることだろう! 新聞の検閲等を行った大日本帝国のことだ、その情報も――」


アナウンサーや専門家、評論家、タレントなどが円卓を囲むように席につき、それぞれが発言するたびにカメラが切り替わってその顔を映し出す。
彼らは、話題沸騰中の『ゲート向こうの大日本帝国と世界』について討論する番組の出演者だ。

『ゲート』は、とある県の山中、その洞窟内で見つけられ、不審に思った地元民によって警察に通報された。
たまたま付近でロケを行っていた報道関係者はスクープの臭いを敏感に嗅ぎとり、他局に先駆けて報道。瞬く間に『ゲート』の存在は日本中に広まった。
未知の存在である『ゲート』は危険物である可能性も考えられたため、すぐに県警は立ち入りを禁止したものの、情報の拡散を防ぐことはできなかったのだ。

更に某議員が口を滑らし、洞窟の先は過去の日本、それも『大日本帝国』領土と繋がっていることが明らかにされると、注目度は跳ねあがった。
連日のように特番が組まれ、日本政府には情報の開示が要求された。突き上げが激しくなるにつれ、日本政府は判明している限りの情報を暴露。
その中に含まれた『大西洋大津波』とそれによって『壊滅したアメリカ東海岸』の報は日本だけでなく世界中を驚愕させた。
もちろん最初は、「ついにあの政党は全員が宇宙人化してしまったのか?」等と本人たちにとってすれば、失礼極まりないことを思われていたのだが、
アメリカの特使が実際に『ゲート』の向こうに行き、会談したことで、『ゲート向こうの世界』というファンタジックな存在が実在することが判明した。格段に信憑性を以って。

国連でまじめな議論が交わされる中、平成日本のテレビは視聴率獲得の絶好の機会だと過激な発言も含む番組を垂れ流し続けた。

「大体、被災地の救援も行わず、戦争継続だと?! 鬼畜の所業だ!」
「それは……そうかもしれませんね。でも、戦争を停戦しないのはアメリカの意思ですし…、戦争が終わらないことには救援もできないんじゃないかなぁ。
僕はあんまりそういう難しいことは分からないんですけど……」
「……君は本気で言ってるのかね?そこまで君がろくでなしだとは思わなかったよ。人道は何よりも優先されて然るべきだろう?発言を訂正したほうが――」

苛立たしげに机を指で叩き、諭すようにものを言う評論家から、困ったように眉を寄せたタレントにカメラが向けられる。
そして、その横で慌ただしげにスタッフから紙を渡される司会役のアナウンサーが映った。


「『ゲート向こうの世界』ですが、新たに情報が入ってきました」
女性アナウンサーの声に、今まで激論を交わしていた人々が口を閉ざす。

「『大日本帝国』が対米戦争に勝利しました」

その言葉に、気炎を上げていた評論家が卒倒した。

倒れた評論家に慌てふためくスタジオ。
アナウンサーは心配そうな表情を一瞬浮かべたものの、すぐに自身の職務を全うすべく表情を引き締め、口を開いた。

「なお、アメリカ合衆国は崩壊。日英独を筆頭とした列強によって分割統治されることが決定した模様です」

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最終更新:2012年06月10日 12:32