442 :earth:2012/06/11(月) 23:36:41

 平成世界から招待された調査団は、日本帝国の監視の下で東部地域の調査を行った。
 さすがにアメリカ風邪によって汚染されている地域への立ち入りは難しかったが、空、或いは海上から被災地を見る
ことは出来た。さらにアメリカ風邪封鎖線の外縁部の調査も許可され、調査団は並行世界のアメリカが如何なる災厄に
見舞われたかを思い知ることになった。
 調査団が宿泊しているカリフォルニア共和国首都サクラメントのホテルでは、調査団、そして同行したマスコミが
暗然たる気持ちにとらわれていた。

「やれやれ、何とも言えないな」
「アメリカは滅び、世界の半分はナチの天下で奴隷制度が平然と横行している。まるで最終戦争でサタンが勝ったような世界だ。
 こんな悪が蔓延る世界が存在するとは」

 義憤に駆られる若い男性記者。
 しかしそれを他の人間が諌める。

「しかし我々が手を出せることではない。今のところ、あの狭い門しか出入り口が無い以上は何も出来ん」
「……」
「それ以上に、あの大西洋大津波が我々の世界で起きれば大変なことになる。対策が急務だろう」
「そうだ。むしろ天上の神は、大西洋大津波を警告するためにこの悪が蔓延る世界を我々に見せ付けたのかも知れない」
「……」

 大西洋大津波が真実であり、そしてそれによってどのような被害が出るかが明らかになったことは大きな収穫だった。
 尤もどうなるかが判っても、どのような対策を打つかで大波乱が起こるだろうが……。

「この世界は救えない。だがこの世界のアメリカ人をはじめ、多くの人々の犠牲を無駄にしないためにも、ここで得た情報を
 全てもとの世界に伝えるのが我々の仕事だ」

 この言葉に項垂れる男性記者は、唇をかむ。

(この世界の人々のために、何か出来ることはないだろうか……)

 男性記者は元の世界に戻るまで、何か出来ることはないか必死に考えた。そして、ラジオ放送で聞いた男のことを思い出す。

「そうだ。ハースト氏のことを記事にしよう。絶体絶命の中でも、アメリカの精神と民主主義を守るために戦い、そして守り抜いた英雄。
 そして今や世界でも数少ない自由民主主義国家の実力者となった彼なら、元の世界の世論の支持も得られる!」

 確かに出来ることは少ないかも知れない。だが向こうの世界がカリフォルニア共和国を応援しているとなれば、日本帝国も無視出来まい
と彼は考えた。
 こうして裏事情を知る人間達が苦笑する内容の報道が、平成世界では報道され、この世界のハーストは時空を超えて民主主義の守護者と
して語り継がれることになる。

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最終更新:2012年06月12日 21:25