618 :earth:2012/06/14(木) 22:13:18

 西暦1970年、日本海に出現した巨大な門によって2つの世界は繋がった。
 そして向こうの世界が冷戦真っ只中で、ベトナム戦争の最中という情報を知った大日本帝国政府、正確には枢密院の旧夢幻会派は
恐慌状態に陥った。彼らの考えは端的に言えば一言。

「冷戦で軍拡中の米ソと張り合えるか!」

 これに集約できた。
 こちらの世界では帝国海軍は世界最強を名乗っているが、それでも保有している空母は大鳳型2隻、改大鳳型空母2隻の4隻。
強襲揚陸母艦を揃えるのと引き換えに軽空母は手放さざるを得なかった。戦略原潜と攻撃型原潜の数も米軍には及ばない。
 陸軍に至ってはわずか18個師団しかない。ソ連軍と真っ向勝負など絶対に不可能だった。
 勿論、兵器の質は技術チートと長年の教育重視政策から生まれた多数の高度な人材に支えられた技術革新によってある程度優位に
立っていると言えなくともないが……彼我の物量差を覆すことは出来ない。
 こちらでは『世界最強国家』と称される帝国だったが、『平時』においては現状の軍備が精一杯だった。

「やれやれ、お迎えが来る前に真の最強と会うことになるとは……これが報いかな?」

 帝国政界の長老、帝国海軍の元締めとも言われる嶋田はそう嘆息しつつも、周辺の人間を宥めた。

「落ち着け。幾ら連中が強大でも『門』を経由するしかないのなら防御は不可能ではない」
「ですが嶋田さん、国内には在日米軍を占領軍と見做し、並行世界の日本を解放すべしという意見もあります」
「押さえろ。帝国の力は、あくまで『この世界』での帝国の安寧を守るためにあるのだ。
 無為に消耗させてよいものではない。まして門の向こう側と張り合って不要な軍拡をするなど言語道断だ」

 日本と帝国の全面衝突となれば、面倒なことになる。
 冷戦時代において日本列島は太平洋における米軍の重要戦略拠点であり、ここを脅かされる事態が起きればどんなリアクションが
取られるか判ったものではない。おまけにこの時代ではソ連も無視できない。門を跨いだ次元戦争など御免被る事態だった。

「……は」
「ただし、舐められるのも拙い。彼らにはこちらの力もある程度知ってもらう」
「と言うことは?」
「交流の段階で、歓迎式典でも開くのが良いだろう。強欲な白頭鷲と無法者の赤熊に不埒な考えを抱かせないようにな」

 軍事力だけではなく、日本帝国が持つ経済力、工業力。これらは全てカードに出来る。
 こうして日本帝国はこちらの世界を守るために日本、米国、ソ連などと交流を開始することになる。
 当然のことだが門の向こうに存在するのが大日本帝国と言うニュースが流れたことで、日本国内各地ではデモ隊が街頭に繰り
出し各地で警察との衝突が相次いだ。また双方の世界のギャップで問題も起こった。
 だが幸いにして帝国側が懸念していたような決定的な対立は起こらず、何とか平穏を保つことになる。尤もその平穏と引き換えに
またもや嶋田の平穏は破壊されようとしていたが……。

「本人同士の会談なんて誰得だよ……」

 そう、紆余曲折を経て、何とこちらの世界の嶋田繁太郎と、あちらの世界の嶋田繁太郎が直接会うことになったのだ。
 片や名宰相、名将と誉めそやされる男。片や敗戦の将とされる男。
 相反する運命を辿った2人の男の会談は、世界の注目を集めることになる。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年06月17日 07:13