826 :ヒナヒナ:2012/06/18(月) 20:34:53

○明日天気になあれ!



蒸し暑い日本の夏、妙にそわそわしているオフィスがあった。内務省管轄の組織、かつての中央気象台、つまりは気象庁の本局だ。日本一、明日のことを本気で考える官公庁だ。ちなみに戦後に手にした支配地域であるアラスカやハワイ、その他の主要な島や地域に、大なり小なり観測所を置く羽目になったため、人手を取られて慢性的な人手不足だった。

気象庁は戦争も終わり、気象情報が軍事機密を離れたことで、一般に広く情報を提供するようになった。さすがに気象衛星が無いため、精度は平成ほど確度ではないが、各地の気象台の観測員からの情報や、ラジオゾンデを飛ばしての情報を元に、予報を出し続けていた。

彼らはここ数日間気が気でなかった。何故なら各省庁高官や企業、軍高官からの問い合わせがひっきりなしに来ていたからだ。電話を取る方としては胃が削れる日々だ。気象庁職員の気を病ませるイベント。それはコミケと呼ばれていた。

まあ、主催者側としては、当日の天気は重要項目なのだ。来場者数の多寡、警備体制にも変更が出るためだ。ついでに高温であったり、高湿度であったりすると熱中症が多発するし、雨であれば足を滑らせて怪我をする者が多い。来場者にかなりいる軍事関係者でさえもダウンさせる魔境、それが夏の祭典だ。

日本列島の天候は気まぐれで、予測が難しい。だが、気象庁職員運動会の当日が雨だったなどという笑い話はこの世界ではいらないのだ。観測所の面子に掛けて的確な予想を立てねばならない。それは圧力となって彼らにのしかかっていた。

多雨傾向にあると長期予報を出し、農家が普段より多めに作付けをした年に、四国で渇水に陥り、四国4県の知事が神社に公式に雨乞いを依頼したり、「怨念は天気を変える」とばかりに、祭典前に各基地の兵舎に大量にてるてる坊主が下がっている光景は無くさねばならない。

「おいみんな! 予報が出たぞ」
「当日天気はどうなってる!」
「予報読み上げします。一日目、南東の風、晴れ。降水確率06-12 0%、12-18 0%……。二日目、南の風、晴れ昼過ぎからくもり、降水確率06-12 0%、12-18 20%……。三日目、南の風後やや強く、くもり、降水確率06-12 20%、12-18 40%……」
「よし、ギリギリ天気は持つか。すぐに実行本部に通知、各省庁にも連絡を入れて置け。」

まるで晴れたのが自分たちの功績だとでも言うように、晴れやかな笑みを浮かべる職員達。彼らはこの時かつてない連帯感を味わっていた。まるで青春時代に帰ったかのような感情だった。が、コミケ当日、二日目午後から三日目に掛けて降水が続き、気象庁長官が胃を傷めることとなった。



(了)


○あとがき
オチがないですが、台風が来ているのでこんな小話でもと思いました。一応、内務省が残っているので内務省管轄としておきました。あと、いつ気象庁が発足するのか分からないので、時期については不明と言うことで。

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最終更新:2012年06月24日 15:49