32 :新幹線の人:2012/06/18(月) 00:24:05
帝国コンビニ事始
1945年、
夢幻会の会合で下部組織から提出されたある要望が議題にあげられた。
「コンビニが欲しい」
提出元は若手官僚達である。
何倍にも膨れ上がった新領土の調査、現地行政機関の新設、
現地進出を求める企業との折衝。
現地住民の取り扱い、戸籍の作成、土地や資源の所有権の確定。
官僚たちにとっては戦後こそが自分達の戦場であり、
戦争が終結して数年が過ぎてもなお山積みとなっているさまざまな問題へ対処するため、
各省庁は不夜城と化して大勢の職員達が連日連夜徹夜泊り込みの業務を余儀なくされていた。
金は貯まって行くものの満足に買い物をする暇も無く、食事も庁舎の食堂のものばかり。
ゆえに史実の便利な社会を知る夢幻会の下部構成員が多数存在する官僚達からこの声が出てくるのは必然だったのであろう。
コンビニは史実の6兆円産業であるため、三井三菱をはじめとした転生者が所属する夢幻会系商社でも、既に戦前も数度に渡ってコンビニ開設の検討は行っていた。
流通体制や商品管理システムが十分に成熟していないため利益につながらないのと、需要がまだそれほど無いと考えられたため時期尚早と見送られていたが。
「現時点でコンビニ産業を興すことは可能なのですか?」
辻の質問に対して三菱からの出席者が答える。
「可能か不可能かということであれば現時点でも可能です。
ただし、まだコンピュータもPOSシステムも一日数回の配達が可能な流通体制も存在しない状態ですので、
最初は場所を厳選して数店舗、商品数も数百点程度に抑えて商品配達も一日一度に限ることになると思います」
「バーコードシステムと本社の電算機を利用すれば売り上げ分析も可能でしょう」
会合の出席者は既にコンビニを使うような生活レベルではないが、皆前世では世話になった口なのでこの要望も基本的には通すつもりでいた。
商事側としても先が約束された商売である以上、ここで手を上げないという選択肢は無い。
「それでは各地の支部からもコンビニに関する要望は過去にいくつか出ていますので採用としたいと思います。
商社さん側としては何か希望はありますか?」
各商社も商機を逃さずそれぞれの戦略に従って動き出す。
それぞれまずはターゲットを絞ってノウハウを確立するのだろう。
「うちは関西を担当させていただければ」
「ではこちらは中部でお願いします」
「オフィス街を担当したい」
「では港湾施設を中心に」
こうして1946年、複数の商事が相次いでコンビニエンスストアを開設。
官僚達の生活が少しだけ潤うと共に、帝国民の暮らしを支える新たな産業が産声を上げた。
コンビニの始まりが官僚達のささやかな望みであったことを知るのは、夢幻会の中の人だけである。
最終更新:2012年06月24日 17:12