62 :①:2012/06/23(土) 23:23:35
すいません、また話の流れをぶった切った上に、つまらないネタ話を…
前作の巨人ファンによる陰謀話の続編みたいなものです。
というか現実の巨人は、巨人愛の原監督が大変なことに…
もしかして阪神ファンの陰謀のようなw
まあつまらない駄文で、ネタが古すぎかもしれませんが
ある大阪人の憂鬱
1.
その男は骨の髄まで浪花っ子である。
落語は大阪落語が好きで、浪花節をこよなく愛し、文楽の心中モノに涙する。
最近聞くようになったクラシック音楽もNHK交響楽団ではなく、朝比奈隆が率いる大阪フィルハーモニーのコンサートに通いつめである(但しタダ券でしか行かない)
城は木造の国宝が残る名古屋城や熊本城ではなく、太閤はんが建てて大阪人の献金によって再建された大阪城が一番と思っていた。
同僚との朝の挨拶は「儲かりまっか?ボチボチでんな」であるし、今はやりの讃岐うどんではなく、昆布だしの麺が柔らかいうどんが好きであるし、お好み焼きに焼きそばを入れるなど言語道断である。しかし、おたふくソースは好きである。
そんな浪花っ子である彼は大阪を愛し、頭もよかったことから、地元の小学から大阪一中に通い、当然のごとく大阪帝国大学経済学部に進み、将来は船場で一流の商人になろうと思っていたが、戦争によって少し人生が変わった。
アメリカとの戦争勃発直後、彼は大学を卒業した。頭のよかった彼は「正直、ここで今更二等兵からやるのはしんどい」と考え、教授の伝を頼って海軍の予備士官に応募した。大学卒業後、彼は海軍へ入隊したが、てっきり船に乗るものだと思ったが、陸戦隊に配属されたことから風向きが変わった。
大学で英語を学んだことと、大阪人らしく目端が利くたちから、陸戦隊の特殊部隊に配属され、海上封鎖されて孤立していたフィリピンのアメリカ軍に対する工作部隊の一因となった。
任務は現地人の懐柔からアメリカ兵に対する嫌がらせや、時には殺傷も含む工作。
しかしそこは大阪人。「もうかりまっか?ボチボチでんな」のノリと史実のフィリピンパブでの大阪の中小企業のオヤジのノリで現地にすばやく溶け込み、アメリカ兵に対しては釜が崎のドヤ街に紛れ込んだアメリカ人バックパッカー相手に様々な世話を焼いてやる大阪人の人のよさを売りに基地内にもぐりこんだ。
そして殺傷となれば、11人以下の集団では無類の強さを発揮するイタリア人のように無慈悲な攻撃を仕掛けていた。
それに対しての本人の感想は「しんどいだけで、エライ苦労させられたわ」だったが、ともかく戦争は終わり、帰国除隊後、大阪商工会議所に就職した。
戦争後、商人にならず大阪商工会議所に就職したのは、大阪人独特のそろばん勘定である。彼は戦争後、日本は空前の好景気を迎えるであろうと、頭のよい彼は判断していた。日本の企業は金儲けの為に世界へ出て行くことになる。
そうなると企業間の利害調整など調整機関が必要となってくる。本来なら通商産業省などのお役所が一番であったが、彼は商工会議所を選んだ。似たような利害調整機関であるし、役所でなく民間機関であればうるさくないし、ヤのつく職業の方々のように、何かと口は出しやすいし身入りも期待する大阪人である。そして何よりも「今更丁稚からはじめるのはいやや」と「東京は好かん」という彼の信念が商工会議所を選ばせたのだ。
63 :①:2012/06/23(土) 23:25:52
2.
その日、彼はいつものように大阪市電を使って大阪中之島にある商工会議所に勤務していた。
彼の所属は大阪商工会議所貿易部会、そして課長。
大阪の企業の貿易企業の利害調整を図る課である。
戦争前は
アジアを中心に活動していたが、戦争後はアメリカ西海岸まで出張所を持つ課まで発展した。
何しろ大阪は商都。売るものは何でもある。ステテコから小銃まで、大阪で作れないものはない。そしてそれを扱う様々な中小の企業が大阪にはひしめき、苛烈な競争を繰り広げているのだ。。
そしてその数千の企業に対抗するのが東京の会社である。大阪だけでなく東京も出し抜かなければならない企業群を調整する貿易部会の課長となれば大変である
とはいえ、彼は仕事を楽しんでいた。
様々な大阪の企業のオヤジや中国人、朝鮮人商人に対する怒鳴りあい、そしてその後のキタやミナミ夜のお付き合いに彼は精を出していた。彼はまだ独身であったし何よりも大阪人であるからそういうのは大好きである。
昨夜もお付き合いに精を出しすぎて眠い目をこすりながら席に着こうとした彼に、崎に出勤していた部下が言った
「課長、13階から課長に来て欲しいとのことです」
「13階?ご隠居が俺に何の用だ?」
「さあ…」
彼は少し太い眉に細めの目をしかめ、大学出で海軍出身でもある彼らしく高島屋で仕立てたコートと帽子を掛けながら不審そうにいった。
大阪商工会議所13階は通称「ご隠居」、幕末から明治にかけて新政府を影から支えた大阪商人。90歳を越えたいまでもその力は続いており、大阪商工会議所ビルの13階を独占している「大阪財界の影の支配者」でもある。
財界に目を配るそんな人物から見れば、彼はただの貿易部会の課長である。
確かに状況を報告しに13階に行くことはあるが、それも先週終わって、取り立てて変わったことはなかったはずである。
(キタやミナミで騒いでるのがバレタのかなあ…)
身に覚えがある彼は、不安を少し抱きながら13階へのエレベーターに乗った。
「あ、ミウラさん。ご隠居がお待ちです」
とエレベーターを降りるなり、受付の秘書嬢が言った。
瞬間、彼は
「おはなちゃん、前にもゆーたろ?ワテはミウラやないんやが…」
とぶつぶつ言いながら秘書室に入る。
彼の名前は安井である。子供の頃、「安井は安もん」と近所のガキ大将にからかわれて「大阪じゃ一厘でも安ぅ売ることが偉いんじゃ!」と反論して殴り合いになったことはあるが、全く関係もなく「ミウラ」と呼ばれるのは商工会議所ではじめてであった。きっかけは課長となってご隠居の報告会に参加したとき、ご隠居が彼の顔を見るなり「ミウラくん」と呼んだのがきっかけである。
以来、彼が13階に来ると13階では安井ではなく「ミウラ」と呼ばれるようになったのである。
秘書室を通ってご隠居の部屋へ入ると
「おお、三浦くん、美人の奥さんは元気か?」
ご隠居と呼ばれる老人が彼を迎える
「ご隠居、前にも言ったでしょ?ワテは独り身だす。それにミウラでなく安井だす」
この老人は彼を見ると開口一番問いかけてくるのである
(このじーさん、ボケとんのか)
と思いつつ、これもいつも交わす言葉である。
何がともあれ、彼は老人の前のソファに座る。
流石に大阪財界の影の支配者である。欧州から輸入した革張りのソファである。
「で、何の用でっしゃろ?貿易部会でなんぞ困りごとでも…」
「いや、そうやない。今日は別件や」
「別件?」
「そうや、あんたに貿易部会の課長を外れてもらう」
いきなりご隠居にそういわれて彼はソファからずり落ちんばかりだった。
「ワ、ワテ、な、なんぞミスでもしましたか?」
キタとミナミでの悪さをして身に憶えのありすぎる彼は(しもた!)と思いながら老人にたずねた
「いんや、仕事にミスはない。むしろデキがいいんで、キタやミナミで多少の悪さに目をつぶってでもコキ使ったほうがいいとみんなからは言われたよ」
しっかり彼の悪さを指摘しつつ、それが原因での解任でないことを老人は説明した。
64 :①:2012/06/23(土) 23:27:16
3.
(バレとるがな)
と思いつつ彼は問うた
「ほんじゃ、なんでワテは…」
「実はなぁ、あんたに調べてもらいたいことがあるんや」
そう言って老人は一冊のファイルを出してきた。
そのファイルはプロ野球に関するファイル。特に大阪タイガースに関するファイルだった。ファイルといっても新聞記事を切り抜いただけのスクラップ帳である。
秘書のおはなはんが毎日、ご隠居の為に切り抜いているのものである。
(課長外れて、ご隠居のトラキチにつき合わされるんかい!)
彼は内心で叫びながら老人を見る。
ご隠居は人知るぞ知るトラキチ。大阪商人の影の取りまとめ役だから表向き関西球団とは等距離の付き合いだが、その実熱狂的、いやタイガースのこととなると基●外になることをこの大阪商工会議所の人間で知らぬものはいない。
それに対して彼は南海ファンである。子供の頃近所に出来た大阪球場で、山本一人の華麗な守備と打撃を見て以来である。それに甲子園は神戸の球場。大阪を名乗っているが大阪にいないタイガースは、純粋な大阪の球団ではないと思っていたのである。
「ワテ、南海ファンですが…」
「ああ、それはしっとる。じゃが、どうも関東もんの動きが怪しくてな…」
そう言いながら、老人はタイガース記事スクラップ帳の最後の記事を彼に示した。
その記事は
「大阪タイガース絶好調!優勝まであとわずか!」
「三菱商事、提携先のケンタッキーフライドチキン大阪一号店、道頓堀に開店」
であった。
(これとタイガースの何が関係するっちゅうねん!)
そう思いながら彼は記事を読む。
「これが、なんでっしゃろ?」
「不吉や」
「不吉?」
「そうや、戦争が終わって以来、大阪と東京はまた昔のようにしっくりいかんくなっとる。まあ商売がかちあっとるからしゃあないことやが…事実、関東の情報が入りにくうなっとる。これもわしは知らんかった。ワシがしっとたら全力で阻止しとったよ。少なくともカーネル・サンダースの人形を表に出させるようなことはさせんかった」
「たかが人形、ご隠居の力なら今からでも引っ込めさせらるんやおまへんか?」
「それができへんかった、えらい関東もんの抵抗が激しくてなぁ…どうも悪いことが起きようとしとるとしか思えへん」
「それでワテに課長まで外して何をしろと?」
「調べて欲しいんや」
「何をだす?」
「関東もんがタイガースに悪させぇへんか、ウラがないか調べて欲しい」
「それだけの為にワテは課長外されるんで?」
「それだけやないよ」
そう言いながらご隠居は手を鳴らす。
おはなはんが服を持って入ってきた。
老人はそれを受け取り、彼の前にだしながらこういった。
「あんたは今日から、課長から丁稚や」
おはなはんが持ってきたのは大阪商人丁稚伝統の唐桟の仕着せに前垂れ、ハンチング帽。
「関東もんの情報を探るのに、課長じゃやりにくいやろ」
「なんで…ワテが…」
「海軍の特殊部隊におってフィリピンじゃ勇名をとどろかせておったからな、もしものときの為に目をつけってたんじゃ。それにあんたの本名は「安井友和」やろ?」
「はあ…」
「大阪商工会議所秘密会所の「殺人丁稚」にふさわしいわ」
そう言いながら老人は、包丁「富士見西行」を彼に差し出す。
「さ、殺人丁稚?」
「そうや、あんたは今日から大阪商工会議所秘密会所所属や。殺人許可書を持つ丁稚、コードネームは「定吉七番」や」
しわだらけの老人は笑った。
南海ファンで元海軍陸戦隊特殊部隊、今は大阪商工会議所秘密会所所属殺人丁稚、「定吉七番」こと安井友和が、関東の巨人ファン結社「惨惨会」による関西球界破壊計画の全貌を暴くのは、すぐ後のことである。
あとがき
最終更新:2012年06月24日 17:28