164 :ヒナヒナ:2012/06/25(月) 20:38:11

○防疫官達の憂鬱


防疫とは港湾や空港にて、感染症の発生・流行を予防すること。感染症患者の早期発見・隔離、消毒や媒介動物の駆除、予防接種などを行う。大戦後の世界情勢では、これらの役割は大きく、特に主要国では空港、港、主要道路(ドイツ)に検疫所を置き国内へのアメリカ風邪の侵入に神経を尖らせていた。

余談ではあるが、急遽、防疫官は需要が増大した職種であるので専門知識が無い者が臨時でこの役割を振られてしまうこともあった。特に「人権っておいしいの?」状態のドイツではアメリカ風邪への国内(本土)侵入を絶対に阻止すべく、罹患が疑われる人間に(現世から)お引取り願うといった話も良く聞かれた。



さて、人間についてはかなり神経質な措置が取られていたのだが、その他の病害については影が薄く知られていなかった。植物防疫だ。外来病害虫を抑えるべく各港に配置されているのだがいまいち知名度が低く認知されづらい彼らだった。

「やばい。中国大陸からの輸入食料は大量だ。あれの中に害虫が混じっていたら見逃しかねん」
「中国にそこまでの重要害虫いたか?」
「いる。中国にいなくても、あそこは検疫があってないようなものだから、どんな害虫がまぎれていないとも限らないよ」
「それよりカリフォルニアだ。アメリカシロヒトリだけは徹底して駆除しろ。史実の様にアメリカからの軍需物資はないが、日本から援助物資の流れがあるから帰ってくる船の荷について持ち込まれないとも限らない」
「アメリカといえばコナジラミ類は地味にやばい。あれは植物ウイルスを媒介するから進入されると面倒だ。あと、イネミズゾウムシも今なら防げる」

逆行者の植物検疫官達が頭を悩ましていた。彼らの中には元農業従事者や植物学者などもおり、外来動植物に苦労してきた前世がこうした活動を後押ししていた。しかし、植物防疫が市民権を得ていない時代背景から、彼らの苦労は並大抵ではなかった。何せ、未だに一般では動植物は資源として輸出・輸入するものであるといった意識であり、規制するものというイメージはなかったのだ。そして、船主達はできる限り船荷を遊ばしておきたくは無い。船荷の調査をするとなれば港で時間を食われる。そればかりか陸揚げ禁止となれば更に燃料代を掛けて他所に持ち込むか、更に時間と金の掛かる徹底的な消毒を行わなければならない。場合によっては違約金が発生しかねない。反発は非常に大きいものとなった。それでも彼らを突き動かしたのは前世で流した血涙のためだった。

「動物防疫にも注意入れて置けよ。結構船員がペットとして動物を持ち込むから」
「アライグマとかは禁輸措置にすべきだろう。史実ではラス○ルなんてものを放映するから……フジテレビめ」
「海洋自然学者らは大変だぞ。日本が史実より貿易が活発化したから、バラスト水由来の外来水生生物がすでに進入しているらしい。」
「有害動物・植物に関してはやく移動制限が掛けてくれ」
「ああ、外国から見たら日本は輸出先としていい客だからな。輸入条項を周知するのも一苦労だ。」
「中国の毒食物みたいなのは勘弁だが、現段階だと輸入食料へのポストハーベストは必須だ。そのままなんて害虫が怖すぎて輸入できない」
「「「「はぁ」」」」

ため息の漏れる植物検疫官達だった。



日本侵入を阻むために夜も昼も無い仕事ぶりで、防疫体制の確立に躍起になっていた植物防疫官達であった。彼らの地味な活躍のおかげで帰化病害虫被害の一部は回避することが出来た。そして、船主や輸入関係事業者の間で、日本は輸入規則の非常に厳しい国であるという意識が共有され、日本向けの物資に関しては事前に防疫措置を行うようになった。



しかし、後年、日本は生態系侵略を行っているといった誤ったイメージが諸外国で普及した。

戦前に外国に輸出された強害雑草である葛やイタドリ、畑地の害虫であるマメコガネが諸外国で無双しているのが取り上げられ、日本産の害虫、雑草が外国に侵略するといったイメージを持たれることとなった。もっともこれらの雑草、害虫に関しては、侵入したのは19世紀や20世紀初頭に持ち込まれたものであるので、決して日本の防疫官が外国輸出用の防疫を軽視したわけではないのだが、軍帽を被ったコガネムシが他国へ侵略するといった風刺画が描かれることとなり、植物防疫の関係者の頬を引きつらせることとなる。



○あとがき
もうやめてー、トマトのライフはゼロよ。
まじ、コナジラミとサビダニは勘弁(;ω;)

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最終更新:2012年06月30日 16:14