- 722. ひゅうが 2011/12/31(土) 02:38:18
- ※本ネタは、中長編投稿スレその2の991からその3の27まで連載された名無しモドキ氏の「アステカの星―奇跡の谷―」にインスパイアされた結果誕生してしまったものです。
ネタのきっかけを作ってくださった氏と、earth閣下に感謝をささげます。
提督たちの憂鬱ネタSS―「博士の異常な・・・」―
――戦後しばらく、大英帝国某所
「由々しき問題だ・・・諸君。」
男が言った。
「円卓」の面々は頷く。
その通り、彼らは窮地に立たされていた。
戦争は終わった。
借金は踏み倒したし、北米の植民地化も軌道に乗った。だが・・・
彼らの持つ新聞にはこうでかでかと記されていた。
「英領インド帝国、インド連邦へ!19XX年めどに」と。
そう。東南アジアで爆発した独立への希求は、大英帝国の心臓たるインドにも迫っていたのだ。
北アフリカ戦線に参戦し活躍した「インド義勇軍」のチャンドラ・ボース将軍とマハトマ(偉大なる)・ガンジーの両輪をもってインド人は独立への希求に王手をかけていたのだ。
とはいえ、この大地を手放すわけにはいかない。
北米の再植民地化が軌道に乗ったとはいえ、英国にはまだ旧来の心臓が必要なのだ。
幸い、彼らの立場を理解している大国が近隣にはいた。
太平洋を世界最大最強の機動艦隊の演習場に変えた日本帝国だ。
彼らは、「英連邦下での独立」と英国利権の独立後政府への段階的委譲という軟着陸に全面的に協力するかわりに、インドでの自由貿易を欲していたのだ。
むろん、インド洋を「天皇のバスタブ」の脱衣所程度にすることも。
これに英国は乗っかった。
だが、ここで彼らは気付いたのだ。政府上層部は英国に比較的友好的な者たちで占められている。だが、国民は英国を裏切り者と断じている。
ただでさえ、強力極まりない核戦力(英独両国は核兵器に適した物質がウランか超ウラン元素239と名付けられたものであるとようやく分かった段階だった。トリウムなどの候補元素を原子炉用にダミーで購入していた日本諜報陣はいい仕事をしていたらしい)を保有し、他国を一段も二段も引き離す強力な機動部隊と水上戦闘艦部隊、さらには数こそ少ないが高性能な核兵器投射手段を有する日本人は、あの植民地人たちほど傲慢ではないものの、その真面目さからか事あるごとに口出しをしはじめていた。
「問題は・・・やはり、核ですな。」
「左様。あの兵器を開発するのは、かのドイツ人ですら難題です。」
ドイツ人たちは、北米に加えソ連の残骸から湧き出る無数の紛争に関わっている上、新世代の軍備をそろえることに既に青息吐息だった。
核兵器開発こそやっているが、(ツーゼなどの優秀な電子計算機のパイオニアを片っ端から日本人にとられるか東部戦線ですりつぶしていたため)爆縮レンズの設計で躓いており、ガンバレル式の起爆実験を数年で行えれば御の字というお粗末さである。
日本人たちは、核軍縮を自発的に行えるほどに進んでいるというのに――
「ならば、やるしかないでしょう。」
ゆえに、円卓は知恵を絞った。
伊達に腹黒紳士稼業はやっていない。正面から戦って勝てないなら、せめて将来的にあの切り札を切りづらくする。
外套の下に短剣を握っていてこそ、英国紳士なのだ。
――数ヵ月後 日本帝国 某所
「キューブリックだと!?」
「あの呪われた道具ですと!?」
「私はどちらかといえば薄幸メガネっ子の幼馴染妖刀の方が・・・」
「てめぇいいんちょさんをdisってんのか?『バカげている』こそ至高ではないか!」
「そっちじゃないです。というか本物の映画監督の方です。」
近衛公がそう報告すると、夢幻会の面々は落ち着きを取り戻したようだった。
彼らの手には、巷で大ヒット上映中の映画「博士の異常な愛情(以下略)」のチラシが握られている。
このたび公開された映画は、かの巨匠の手にかかった上にドクターストレンジラブを演じるテキサス出身の俳優――というか怪優の一人三役演技も相まって見る者にブラックジョークの真髄を教えてくれていた。
- 723. ひゅうが 2011/12/31(土) 02:39:00
- だが、問題は、
「薬がききすぎましたか・・・。」
辻が言った。
そう。薬がききすぎた。
彼らは、戦後核軍拡の悪夢を繰り返さないために、映画を使って放射線被ばくや核兵器の恐ろしさについて広報するという方針をとっていた。
かの大怪獣映画に代表されるような、近衛公ら特撮界が全力を挙げた映画群は、予想通りの成果を上げていた。
そこへ、ブラックジョークでは世界最高水準に位置する英国が総力を挙げて作った「反核映画」(キューブリック自身は政府の方針に思うところがあったらしく完成品では好き放題やっている)が殴りこんできたのだ。
大西洋大津波に加え、あの東南海・南海地震という自然の猛威を味わっていた日本人にとり、「核による死」は災害としてこれ以上ないほどのインパクトをもって人々の不安要素として定着してしまった。
巷では大規模な反核運動こそ起こっていないものの、すでに議論が巻き起こっている。
「さすがは英国紳士。なかなかやりますね。わが国がユダヤ系科学者を大量に抱えているのを知ってあのキャラを出してくるとは思いませんでしたが。いやはや歴史の修正力か内容は似たようなものでしたし。」
「どうする?史実のようなキ○ガイプロ市民団体を育てる気はないぞ?」
戦後になっても休みがとれずにイライラしている嶋田が言った。
「まぁ、教育しかないでしょうね。」
そうなるか・・・と全員が脱力した。即効性がない分地味であるが、重要極まりないものだった。
「あのストレンジラブ博士をみてマッドサイエンティストへのドン引きと反ユダヤ感情がくっつかないように気をつける必要があるな。」
「しかしどうする?実物を見せるわけにも・・・」
ああ・・・。と全員がそろってある方向を見る。
そこには・・・
「蝶☆サイコー!!」
なぜか全身タイツのようなものを身にまとい、変な仮面を被った男がバレエダンサーもうなるような見事な回転を披露していた。
「中毒が抜けないうえにあの『ストレンジラブ博士』キャラが厭だからって、あいつらに任せるんじゃなかったよな・・・」
嶋田が溜息をつく。
「まぁ・・・平成の世でも無敵な8○1板にいた皆さんですからね・・・。」
そう。
水爆の設計図を落書きして世界中にまき散らされるのを阻止するために夢幻会はエドワード・テラー博士の「招待」に踏み切っていた。
だが、北米の過酷な状況は彼を、「総統!立てます!!」と絶叫するようなキャラに変貌させていた。
人前に出すわけにもいかず、仁科博士たちが匙を投げたのを知った夢幻会は、博士が移送前にあるトラウマを抱えていたことを知り、その手のことに詳しい夢幻会構成員に彼を託していたのだった。
意外に思うかもしれないが、夢幻会の面々は男だけではない。
なぜか濃ゆい趣味を持つ者がよくやってくるという法則じみたものがある以上、平成世界で一大勢力を張る彼女らがやってこない筈もなかった。
その名を、「秘密の花園を守る会」略して「花園会」。ラグビー愛好者の皆さまが激怒するであろう名前を持つおねぇさま方の集団である。
ちなみにMMJとは、「女子高が増えたらその分男子校も増えるんじゃ?」という打算や「旧制高校の男の世界を保存する」という目的で共闘している。
そして、「会合」そっちのけで「活動」に興じる彼女たちと、それに混じっている「おねえさま」(自称)たちに恰好の玩具を与えてしまったことに嶋田たちが気付いたときは、遅かった・・・。
なぜか「僕はここにいていいんだ!」と過去を肯定してしまったテラー博士はごらんのありさまになっていたのである。
「巷ではめったに姿を見せないから『暗い研究室で高笑いをするマッドサイエンティスト』と思われているらしいですよ。」
「・・・・永久封印だな。幸い、あのおねぇさま達は彼を気にいっているし、原子力研究者としては天才的だ。――始末に困るが。」
後世、孤高の天才科学者と呼ばれ、映画の大ヒットから有名になったテラー博士がこんな人物になっていたということは、幸いなことに正史には記されていない・・・。
〜おわり〜
- 724. ひゅうが 2011/12/31(土) 02:42:01
- 【あとがき】――大掃除や年末仕事に加えて実家で母親のマッサージをさせられて疲れきっているため、疲れているのに眠れない状況のためにナニカがおりてきてしまって書いてしまいました。
うん。反省はしています。
でもストレンジラブ博士ときいて書かざるをえなかったんです・・・。
最終更新:2011年12月31日 17:09